第5話 オアシス
別視点の話です
――――――――――――――――――――――――
ここは元テレト王国、中央部。
生物の気配はなく、広がるのは一面の荒野。
かつて王都があったこの場所だが、今は見る影もない。
…
しかし何故か
しかし何故か、小さな森が出来た。
それはオアシスだった。
八雲がいた世界には存在しないとされる、実体を持つ者と持たない者の間の存在。
精霊のための。
***
大森林に住んでいた私は、友達の精霊達と一緒に平和な暮らしをしていた。
「おじいちゃん、みんな…」
あれは突然だった。
あの日、私はいつも通りおじいちゃんに私達のことについて教えてもらっていた。
ちょっぴり退屈で、でも大切だった時間。
「わしら精霊は知性ある動物に『加護』を与えることが出来る。なぜ与えるかと言うと『加護』を与えた者が成長すると儂等精霊は存在のランクを上げることが出来るからじゃ。『加護』を与えられた者は精霊の持つ特殊な魔法種の魔法が使えるようになる。しかし注意して欲しいのは」
「『加護』を与えた者が悪の道に進むと精霊は自我を失う、生命力を共有するから『加護』を与えられた者が死ぬと自分も死ぬ、でしょ。もう何回聞いたと思ってるのよ。」
「う、うむ。しかしこれは本当に大事なことなんじゃぞ?だから」
「はぁー今日はもう終わりにしましょ!今日ウェンちゃんとサーズちゃんと遊ぶ予定なのよ!」
「いや、流石にもう少し」
「決めた!私行くね!…ん?大地が揺れてる…」
「なんじゃ?…『守護神の盾』!」
その時、とんでもない量の魔力を感じたと思ったら、私達の森は一瞬にして吹き飛んだ。
私達精霊は自由に実体を消せるから、隕石に直撃することはないけど、魔力が暴風のように吹いてきて私の友達や家族はみんな飛ばされてしまった。
私も吹き飛ばされると思ったけど、おじいちゃんが咄嗟に魔法で守ってくれた。
「お、おじいちゃん…何が起こってるの…」
「わからん!じゃが、これはまずいぞ!大地の魔力がなくなっておる!」
「く、苦しい…」
魔力の暴風はここら一帯の魔力を根こそぎ奪っていってしまった。
私達は大地の魔力を吸って生きてる。だから魔力がないと生きていけない。
時間が経てば魔力は戻ってくると思うけど、それには何日もかかる。
「ディア!よく聞け!」
「な…何…?」
魔力を感じた。
「儂の魔力をお前に託す。儂はどうせ長くない…お前は儂の魔力で別の森に行け。」
「嫌よ!…ぐっ、ううぅ…」
「頼んだぞ…」
魔力が流れ込んでくる。一気に体が楽になる。
「おじいちゃん!」
「はやく、い、、け」
「っ!うわぁーっ!」
私は飛び出した。
「それで良い…頼りないおじいちゃんですまん、な」
後ろでおじいちゃんが形を失い、小さな魔力となって霧散した。
飛び出してから何時間が経っただろうか、まだ周りには何の気配もない。あるのは沈みゆく太陽と、荒れた大地だけだ。
私は、飛ぶのをやめて、座り込んでしまった。
魔力はまだあるが、心が折れてしまった。
「…」
誰もいない。居なくなってしまった。
「ウェンちゃん、サーズちゃん、おじいちゃん…」
「誰か…助けて……」
その時急に魔力を感じた。
「え?」
それは人間の魔力だった。
「どうして…?」
何故こんなに急に現れたのだろうか?不思議に思いつつも、助けを求める心はその人間に向かっていった。
そうしてその人間の方に進んで行くと…
「何をしているの?」
魔法を使う時の魔力の高まりを感じる。しかし、それはあまりにも強大で、美しかった。
「行こう」
魔力の流れに見惚れて止まっていた体を動かし、出来上がった何かに突っ込んでいった。
そしてそこが森である事に気付いた私は、安心して寝てしまった。
「何なのよ、これ…」
朝起きると、昨日ははっきりとは分からなかった全体像が見えてきた。
それは人一人の魔法で作ったにしてはにわかに信じがたい程の素晴らしいものだった。
中央には透き通る綺麗な水で満たされた湖。
そしてそれを囲むように何百本もの大木。
その場を流れる魔力は力強く、それでいて心地よかった。
「作った人間はどこかしら?」
普段精霊はあまり人間の前に姿を見せない。それは品定めする時は実体を消すし、そもそも精霊の数はとても少ないのだ。
「でも…絶対見つかるわよね…こんな魔法使える人間初めて会ったし、なんなら私の『加護』あげても良いくらいよ」
そんなことを呟いたけど、今は何か体を動かしていたかった。悲しい現実から逃避したかった。
森を一周して
「いない…」
そもそも魔力を感じない。初めて見つけた時、魔法を使っている時はあんなにも力強く感じたのに。
急に心細さを感じた私は、ふらふらと湖までとんで湖の中心にそびえる歪な形をした木を見た。
それは森に長く住んでいる私も知らない木だった。根は水に浸かっていて、太く頑丈なつくりであることは見るだけでわかった。
その根に支えられて立っているのは何本にも枝分かれし、ねじれ、場所によっては朽ちているところもある年季が入った幹だ。
その神秘的な木を見ていると、中に空間がありそうな枝が膨らんだ 部分がある事に気がついた。
「あそこなんだろう…まるで部屋みたい……あっ!」
あの部屋にある窓から人間の頭が見えた。私は飛び出した。今は誰でもいいから話し相手が欲しかった。一人では居たくなかった。
窓は大きくなかったけど精霊が入るには十分な大きさがあった。
そこで私は人間を見た。そしてわかった。いや、わかってしまった。何故人間の魔力を感じなかったのかを。
「どうしたの…」
彼は眠っていた。しかしその眠りはとても危険な状況にある眠りだった。
呼吸はか細く、魔力も回復しておらず、体温もかなり低かった。
今にも消えてしまいそうで、いなくなってしまいそうで、
「どうすればいいの?」
私は嫌だった。うんざりだった。私の前から皆んないなくなってしまうのは。
助けたいと思った。命の恩人だから、とか、そんな高尚な理由じゃなくて、
「嫌だ。」
「私の前からいなくならないで…」
私の思いがチカラになる。そして形作られていく。
「『時間遡行の風』!」
私は、その時初めて『特殊スキル』を使った。