1話
Outlaws -アウトローズ- はじまりの朝
ある朝、一人の少年が起きてあくびをした
「う~ん」
身長165㎝。高くもなければ低くもない。高校生としてはごく普通の身長であろうか。
少年は大きく伸びをする。筋骨隆々の背に一筋の汗が流れる。
ガラガラガラガラッ
突如の騒音で少年は今までの若干残っていた眠気が吹き飛んだ。
—2階からだ—
—少年 引きこもりがち
1通の手紙(窓際に置かれた?)
かつての恩人からのメッセージ(君があの時来なかったせいで世界が大変?)
旅立ちの始まり
存在しない筈の兄と妹の争い。
(居て欲しくない嫌な兄妹)
本当はよ兄だと信じたい—
「整理をしよう」
「俺。島津航平は引きこもり」そして2階での騒音の発生源は少女。
「双瀬闇夜」
精神的に不安定で何をするか分からない。
俺、島津は一通の手紙に取り掛かった。
上階の騒音は介入しても時と体力を消費するだけ。
あの時、君を私の最後の弟子にすると言った。
なのに私の元に来なかったのは何故?
連絡先をゴミ箱に捨てた。
そのせいで世界は大変な事になった。
異次元への扉が開く。
早くこちら側に来なさい?
どれもよく分からないものだ。怪しい宗教への勧誘か?
島津はそれらを全てゴミ箱に棄てた。
ドタドタドタドター
今度は何だ?決まっている。
島津の義理の妹、闇夜が起きてきたのだ。
「おにーちゃんおにーちゃん、私への手紙!?」
「ない!」
俺ははっきりとそういった。もっともゴミ箱に棄てたものの中に明細書とかあったかもしれないが・・・。
「ふーっ」
闇夜はテーブルの上に飛び乗り、島津を犬歯を剥き出して威嚇した。
「ないっつったらないんだよ!おやつ抜きにするぞ!」
「ぶー」
闇夜は大人しくテーブルからソファーに飛び乗った。
その動きはまさしく猫だった。
お腹を減らして纏わりついてきても、ここにはエサなどないぞ。
島津は思った。
「あの人」について考えて見た。全身カラスのように黒い服。長い髪。つかみどころのない飄々とした態度。ジャラジャラとした首輪をつけて自慢げに見せびらかしていたっけ?
もしも一人きりで味方がいないなら私が力になろう。「君の居場所を作ろう」
そう言ってくれていたのに苦手意識があって手紙を捨ててしまった。
そうしたら、今でもあれは夢であったかのように思うが
化けて現れた人だ(別人)として、そして僕に試練を与えた。
—明らかに怒っていた。会うのが怖い。しかし、このままではしようがない。
手紙の主、和田さん。通称WDの家に行く事にした。
そこにはひび割れた理想が待っているとも知れずにもう少し早く気が付いてあげられれば…。俺の伸ばした手は間に合わなった。
心をナイフでずたずたにして全く。俺が殺した(精神的に)
神様に機会が与えられるなら今度は上手くやる。やりたい。負けない。
「おにいちゃん?」
闇夜の呼び声で島津は現実に引き戻された。
腕時計を見てみる。早くしないと学校に遅れてしまう。
島津は朝食を喉に押し込み、ドアを蹴破る勢いで開け、通学への道を急いだ。
「いってらっしゃい」
闇夜の声が遠くから幽かに聞こえた。
学校へ向かう。電車の中。誰かの声が聞こえてきた。
「道連れにしようとして一人殺した。でも死ねなかった。
一人でも多く殺したかった。ここまで来たらと、と
しかし「自分」は最後に殺す順番その頃には
自分は取り押さえられている。死ねない。生き残って。苦悩する。
(アナウンスの声で我に返る)
そんな考え事をしている間に目的の駅につき、黙々と学校までの道を歩き始めるのだった。
学校についた。
校長の長ったらしい演説。
眠りこける大多数の生徒。
そして、各々が普通に誰もが経験するようにそれぞれのクラスへ押し込まれていった。
今日もまたうんざりする教師の「島津はまだどの部活にも所属していないのか?我が高校は規則によって全員いずれの部に強制入部が義務付けられている。さて、どの部の様子をみてみよう。このままでは学校を追い出されてしまう…。
ドカッ
島津は前の席の椅子(たまたま欠席だったのか?)を蹴飛ばした。
その椅子は黒板の近くの壁に深々と突き刺さった。
シーンとするクラス。
「島津。」
その中で教師が静寂を破った。
「職員室に来い。今すぐにだ。」
職員室にて
「あれほどやるなといったよな!?」
職員室で教師がガミガミと怒鳴った。
「「あれ」って何ですか?」
悪びれる様子もなく島津は答えた。
「「能力」を使うなって事だ‼」
島津はあの時一番後ろの席に座っていたが蹴飛ばした椅子は数メートル先のクラスを直進し、黒板の近くに突き刺さっていた。突き刺さった椅子は湯気を上げていた。
「俺はただ「返事」をしただけですけどね」
「あれは返事じゃねぇ!「まとも」な生徒だったら「はい」と返事をするんだよ!お前にはそれもできねぇのか!?」
教師のこの自分を「枠」に当てはめて考えたやり方が、島津は嫌いだった。
「できないんじゃないんです。「やらない」だけです。」
沈黙。
「島津。…お前もう帰っていいぞ。」
「有難うございます」
島津航平。これが高校2年目。最初で最後の授業だった。
高校生活も嫌な事だらけでも、それだけだったわけじゃない。しかなかったわけじゃない。
もう少し一緒にいても良かったんじゃないか?という仲間もいたし
ただ、あまり関心の無い部活の大会で休日まで潰されてしまう事が納得いかなかった。
何故、「帰宅部」が無いんだ。バカヤロー!
島津はそんな事を思いながら帰宅の路についた。
家では闇夜が昼食を作ろうとして丸「焦げの物体を創り出し、
火災報知機に叱られていた。
とりあえず、闇夜が家を燃やさせる事をやめさせ、
闇夜とコンビニに昼食を買いに行った。
丸焦げの物体は庭に撒いておくとと次の朝にはなくなっている。
そんなものでも食べる生物が闇の中に潜んでいるのだろうか?
「そうだったらいいな」と俺、島津は思った。
「コンビニに着いたよー」
闇夜がコンビニを指さした。
「あぁ」
短く答えた。そして重要な事を。
「闇夜。「万引き」はやめろよ?欲しいのがあったら「まず」俺に言えよ?」
闇夜に「釘」を刺しておいた。
さて、
「イラサイマセー」
コンビニ店員のありふれた文句に出迎えられる。
闇夜は目をキラキラさせながらデザート類(プリン等)を眺めて回っているが、その前にはまずご飯を食べような。と総菜コーナーへ妹の首根っこを捕まえて引きずっていく。
適当な弁当を2人分。見繕って家路に着いた。
家に着いた。
TVには色々なニュースをやっていた。
「まったく嫌なニュースばっかだぜ」
しかし、ニュースのある1点で島津の眼はそこで釘付けになった。
警察列島24時間。万引きGメンのコーナーだった。
闇夜にはコミュニケーションの一環?で万引きをする悪い癖がついていた。
しかし、バレてないと思っていても、このテレビ番組のような末路が待っている。
僕らは許されていないのだという事を忘れてはいけない。
パキッと割りばしを掴み2つに割ったところで食事に取り掛かった。
「いただきます」
闇夜と俺は二人で一人前の半人前同士。
支え合わなければ生きていけない。
学校にも居場所はもうない。
結局、現実逃避に逃げ込むしかない。
その夜は闇夜とずっとTVゲームをして過ごした。
「島津‼」
「何ですか大石先生?」
次の日の学校。校門で島津は教師の大石に呼び止められた。
「今日からお前には「「特別学級」」に入ってもらう‼」
「「特別学級」」。その単語で周りの生徒たちがヒソヒソ話を始めた。
理解っていた。いずれも俺も「そこ」に入る事になると。
尤も、「「特別学級」」がどんなところか。俺は入ったことがなかったので知る由もなかった。
「オラ入れッ‼」
大石に背中を押されて、俺はその部屋に入った。
「「特別学級」」
そこは狭く、教室というよりか、
実験室のような、
監獄のような
不気味さしかなかった。
1人用ゲームをポチポチとやっている生徒。
部屋の隅でブツブツと独り言を言っている生徒。
檻の中のクマのように部屋の中をグルグルと回っている生徒。
壁をひたすらひっかき続ける生徒。
壊れたラジオのように同じ事を繰り返し繰り返し言っている生徒。
悲鳴のような歌を歌い続ける生徒。
その誰もが制服を着ておらず、個性的な面々だった。
先ず思った。
「「帰りたい」」
「チッ。全員は揃わねぇよな。ま、いつものことだがな」
特別学級を任せられているらしい大石が忌々しげに呟いた。
(いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ
ここにいるとくくられちまう。
俺は「正常」な筈なのに「キチガイ」と同列にされちまう‼)
島津はガクガクと震えだした。
「島津?」「お~い島津ー?」
そっからの記憶はなかった。
気が付いたら、少年院の独房の中だった…。
「おにーちゃん。大丈夫…?」
闇夜が面会室のガラス越しにべったり張り付いていた。
闇夜が「一人で」この少年院に来るまでの間。どういう思いをして「外出」をしてきたのだろう…。
しばらく闇夜に頭が上がらないな。
俺には親族と呼べる存在は闇夜しかいない。
「面会終了です」
無機質で事務的な立会人の声がした。
もう少し、ガラスの向こう側と話がしたかった。闇夜と一緒に痛かった。
「そもそも闇夜を一人でアパートに残してアパートを火事にしてないか?」
それも心配だった。
「出ていいぞ」
それから幾日か経過した時。俺は出して貰えた。
「有難うございました」
こちらも抑揚のない声で答え、少年院を後にした。
目指すは我が家。まず、闇夜にはどんな顔して戻っていこうか…。
ボカッドカッ
アパートに差し掛かる時、前方から何かを殴打する音と愉快な笑い声。そして、幽かに「やめて…」
と声が聴こえた。
一人の小さな女の子を数人もの少年が代わる代わるバットで好きな部分を殴打したり、腹を蹴り上げたりしている。
抵抗もしない年端もいかない少女を数人の男が袋叩きにする。
しかし島津にはそんな事はどうでも良かった。ただ一つ問題なのは…。
「おぃテメェら何勝手に俺の妹に手ェ出してやがんだ?あぁ?」
男達の暴行の手は止まった。
「あぁーあんた兄ちゃん!?ごめんねー僕らこの子の過去のクラスメートだったんだけど、最近、ボクら期末近づいてイライラしてたのさ!そしたら、ふと、この能力も使えない「アウトロー」のクズの事思い出してねー」リーダー格の男が言った。
そうだったのか。
面会に来る闇夜が何故か厚い化粧をしていたり俺の方を正面から真っ直ぐ見ようとしなかったのは。
そうだったのか。
コイツらが元クラスメートって事は、闇夜があんな感じになったのはコイツらが原因か…。
「じゃ、僕ら結構楽しんだんで帰りますねー」
「いや、待ってよリーダー。俺もうちょっとこの腹に2,3発くらい入れたいんだよ。」
「まーでもおにーちゃん返ってきたし今日はここまでにしとこうか」
「お前ら、さっきから何の話してんだ?」
「はい?」
「楽しかったのか?」
「うんそりゃもう」
「またやるのか?」
「期末終わった後、またストレス溜まって意気投合した時に」
「お前ら、闇夜の事ってどう思ってるんだ?」
「肉便k------------!?」
応えようとした一人の少年は歯を数本折り、彼方へ飛んで行った。
「何すんだよ!?」
別の少年が懐からナイフを取り出し、島津に遅いかかる。
バキッ
ナイフは掌で受け止められたナイフの刃は砕け散った。
「なんだって!?」
「信じられねぇか?簡単だよ。俺の体内の「炭素」を掌に一時的に集約しただけさ」
「テメェ。まさか「アウトロー」かよ!?」
「あァそうだよ。俺は「アウトロー」だ。だったら悪いか?」
—アウトロー— 主に、精神的に不安定な少年少女が発現させる「異能」「能力」
それをこの世界では「アウトロー」と呼んでいた。
島津は指を鳴らした。(能力は一旦解除していた)
「リーダー!こんなん気いてねぇぜ!」
「能力を使ってくるアウトロー相手にやれるかよ!」
「お前らアウトローでも反撃してこない闇夜とは沢山付き合ってくれたみてぇじゃねぇか。お前の顔全部覚えたぜ。ただ、俺が殴った後で原型残ってたらいいがな。」
「ひぃぃっ」
先程とは打って変わって取り乱す不良一同。
「クックック。アハハハハ!アウトローか!いいじゃねぇか!」
通りすがりの少年が声をかけてきた。
焼けた肌に長身でグラサン。下は短パンで上は裸にアロハシャツのみ。
「何がそんなに面白ェんだ?俺の妹がこんなに傷つけられたのに」
「ウーンそれは「アウトロー」なのに反撃しない妹チャンが悪いんじゃないかな?もしくは反撃できない理由があったのかな…?」
「というか外野なんだったらすっこんでてくれ。俺はコイツらとはナシつけなきゃいけねぇんだ!」
島津の顎先を炎が掠めた。
「何すんだよ。それにお前もアウトローか?」
「てめぇがアウトローで、俺もアウトロー。だったら、する事は一つしかねぇよなァッ!」
「ケッ。アウトローってのはウチの妹が例外で好戦的な奴ばっかなのか?」
「まぁ俺の場合は能力によるかもだかな」
「とりあえずそこで「待て」しといてくれよ。俺には他にやることが…」
ゴォッ
その瞬間、炎の渦が島津と男を囲んだ。
「俺を倒すまで逃がさないっ☆」
「ウゼェ…」
「ま、初だし名乗っとくわ。アウトロー「炎城」だ。性質は「炎上」。「ランキング」にはまだ登録してねぇがな。どんどん名前と顔。売ってかねぇとなァ」
「チッ。アウトロー。「島津」だよ。性質は「精神疾患」だ。
「へぇ。「精神疾患(精神疾患)」か…。何かあんのかお前?」
「探ってくんじゃねぇよ。能書き垂れてる間があったらとっとと始めようか」
「こっちはいつでもOKだぜ!」
堀江は拳を打ち鳴らして言った。辺りの炎の渦が少し弱くなった。能力を炎城個人の内部に集約させる為だろう。
「炎玉!」
掌を突き出して島津の方に炎の球を撃ちだしてきた。
島津は間一髪で避けたが。服の一部がチリチリと焼けた。
「炎玉‼」「炎弾」
炎城はとりあえず遠距離から攻撃して相手の特性を見極めようとしているのだろうか?
「炎弾」は手で拳銃の形を作り小さいが高温の火の玉を放つ技だった。
「喧嘩売ってきた割りには遠距離から様子見かよ?
だからランキング登録する勇気もないんじゃねぇーかァ?」
「うるせぇよ!俺は気性と反対で戦いは慎重でね!ところでお前、逃げ回ってるばっかでなにも見せてくれねぇなァ!?」
「今見せてやるよ!テメェのそのムカつく言動とその花火にちょうどイライラしてたところだ!
「癇癪玉!」
島津が指パッチンしてその指を炎城に向けた。
「ガハァッ⁉」
モロにとはいかないが「癇癪玉」の衝撃と下から突きあがる岩を喰らった炎城。
「おいおいリタイアか?」
膝をつく炎城に近づく島津。
「まだまだ甘ェよォ!」
炎城は炎の渦でフィールドを作るのをやめ、
炎をキズの部分に充てた。
「回復炎」
「まだ生きてるようだな炎城!とっととかかってこいや!」
「あぁ!行かせてもらうぜ!「火拳!」」
炎を纏ったパンチを島津に繰り出す炎城。
左手に炭素を集約して、炎を纏った拳を受け止め、一本背負いを決める島津。
「勝負ありだな」
右手をねじられ、あおむけに倒れる炎城。
その首筋に片足を載せる島津—(首はいつでも取れる)
「あぁそうみたいだな」
自らの敗北を認める炎城。
「ところで何でオメー相手がアウトローだからって無闇に喧嘩売ってきたんだ?」
「あぁ!?それは最初に言っただろぉが!!」
「俺は最初はただのバトルジャンキーに絡まれただけ、と思った」
「だが戦ってて分かったんだがあれはお前の本来の戦い方じゃないだろ?」
「それにやってた時のお前の眼。あまり楽しそうじゃなかった」
「・・・うるせぇよ」
うつむき加減に答える炎城。
「俺は戦ったやつの人となりがなんとなくわかる。
お前、楽しむってよかなんか他の目的があって戦ってるだろ?」
「・・・お前に関係あるかよ!?」
「・・・あるよ。喧嘩した後は友達だ」
「・・・」
沈黙する炎城。
「チッ。戦う前にアンティ決めときゃよかったな。たとえば絶対服従とか」
「絶対服従は友達じゃねーだろ」
ツッコミを入れる炎城。
「それもそうだな。友達として頼み事するわ。教えてくれよ。お前、なんで喧嘩売って回ってんの?」
「・・・妹だよ」
「妹?」
「アウトローは高ランカーになれば賞金が入ってくる!
そしたら妹はもっと専門的な病院で診てもらえるんだ!」
「んー普通にバイトでもした方が早い気が…」
「検討したんだよ!でも、1日24時間働いても全然足りねー!それに俺は精神的な問題で人に頭を下げられねー!無理を通してその「道」を取った俺はもはや俺じゃねぇんだ!これも「アウトロー」の宿命ってやつなのかな。ハハハ。
自嘲気味に、自虐的に笑う炎城。
「・・・なのかもな。お前の眼の半分以上はどこか暗い目をしてた。それが多分「妹さん」だろ。もう一つは赤々としてた。これはお前のバトルジャンキーの部分の色だろうな。そしてあと一つ。それ程大きくないが、どす黒い部分の色もある。これ、もしかしてお前。「妹さん」から逃げたいとかいう「逃避」の感情なのかもな」
「・・・お前には敵わないかもな」
この日より島津と炎城は友達となった。
「・・・あーゴメン。闇夜の事忘れてたー(汗」