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ヒカリサスチカニ  作者: ミック・ソレイユ
4/6

第二ステージ

 B国との熾烈な戦争は、依然として継続中である。


 A国の兵士であるフルミは、手元の竹槍でなんとか戦っていかねばならなかった。現状を打破すべく、軍隊で訓練を重ねた末に、竹槍を的に当てる精度を向上させていた。


 そうしたある日、山中で接近してきた敵兵器のカラス型ドローンの数機を、竹槍で墜落させることができた。機体を回収し自軍の基地に運んで行くと、それが上官であるモリス将軍の耳に入ったようだ。


 フルミは、軍隊の司令部にあるモリス将軍の部屋に呼ばれたのであった。


「きみがカラスを回収したフルミくんか。いや、ご苦労であった。早速だが、話を聞かせてほしいのだが」


「イエッサー。まことに光栄であります!」フルミは右手を素早く触覚の前に移動させ、敬礼のポーズを取る。将軍との面会による緊張で、フルミの触覚は小刻みに震えている。だが、構わず説明を始めることにする。


「ドローンを調べましたところ、格納されている超小型コントローラーにソフトがインストールされておりまして、スタンドアローンで動作するタイプのように思われます。もしプログラムを書き換えることができれば、敵を攻撃する仕様へ作り変えることができるかもしれません」


「そうか。その書き換えは、フルミくん、きみにできるのか?」


「わたしも一応プログラマーのはしくれであります。やってみないとわかりませんが、ガードをうまくクラックできれば可能かもしれません」


「よしわかった。司令部内にスペースを用意する。早速進めてくれたまえ」


「イエッサー。光栄であります。至急遂行いたします!」


 フルミは与えられたスペースに引きこもり、寝る間を惜しんで作業に没頭し、ついにプログラムを書き換えることに成功した。ターゲットから敵B国のアリを除外するコードを改変し、攻撃を行う仕様へと作り変えたのである。


 カラス型ドローンはB国基地に帰投するとき、バッテリーを充電するため、ドローン充電ポートに戻るようだ。基地内での飛行の際に、カラスが敵を攻撃する仕組みとしたのだ。試しに一羽の改造カラスを放ったところ、敵の兵隊アリたちは自軍内で改造カラスに発砲され、パニックに陥った。


 それ以来、カラスの飛来が急速に少なくなったのである。結果的にカラスの被害からA国を防御することになり、その功績が認められ、フルミはシステム部隊の隊長を任命されることになった。一介の兵士から特別の昇進を遂げたのである。


 それから間もなく、軍を代表する隊長たちが、緊急の作戦会議に集められた。フルミも初めて出席する。モリス将軍の演説が始まった。


「敵B国の兵器のレベルは明らかに我が軍を上回っている。このままでは、敗戦はまぬがれない。我が軍は不利な戦況を挽回すべく、対応策の立案が急務なのだ。だが、我が軍の状況を見てみろ。敵の攻撃と奪取により、資材や資源も大幅に不足している。作戦を立てようにも、新たに強力な武器を作る余裕など全くないのだよ」


(だからと言って竹槍は無いわ)フルミは心の中で思わず毒づいた。


 モリス将軍は続ける。


「我がA国と敵のB国は、同じアリ同士で争っている。だが他にも、Cというキリギリスの国が存在するのは皆も知っているな。我が国も敵のB国も、過去にある諍いがあったため、長期間キリギリスのC国とは国交を断絶しておる。なので、若いアリたちの中には、キリギリスたちが一体どういう存在なのかよく知らない者も多いはずだ」


(キリギリス? 確かに、詳しいことは知らない)フルミは心の中で相づちを打った。


 将軍は語気に力が入ってくる。興奮してきた証拠だ。


「キリギリスのC国は、我が軍が内密に進めた調査によれば、これまで他国から獲得したのであろう、豊富な資源や強大な兵力を持っておる。最近になり、国力をますます高めているらしい。今回の戦いはキリギリスのC国に支援を頼まなければ、敵のB国のやつらに勝つことができない。我々は、C国に資金や兵器などの援助を仰ぐことに決めたのだ。苦渋の決断だが、仕方がない」


 将軍はフルミに視線を向ける。


「幸い、あのフルミ隊長の尽力により、我が軍は憎きカラスたちの退治に成功した。さらに敵を攻撃する数羽のカラスがすでに用意できておる」


 フルミはあわてて敬礼のポーズをとる。


「もうこれ以上、我が国民への危害を広げるわけにはいかない。事態は一刻を争うのだ。この会議の後、すぐに反撃を行うことにする。C国から購入したミサイルは、すでに発射の準備は完了しておる。まず、改造したカラスたちを敵B国に侵入させて、攻撃を開始させる。敵軍は混乱するだろう。その隙に乗じて、やつらの要塞を目指してC国製ミサイルを一斉に射撃するのだ。失敗は許されない。くれぐれも慎重にことを運んでくれ。では諸君、よろしく頼んだぞ!」


「イエッサー!」勇敢な隊長アリたちの声が、山びこのように場内に響きわたった。


 直後、フルミはシステム部隊で陣頭指揮を執り、反撃の準備に取りかかった。モリス将軍の合図により、改造されたカラス型ドローンの群れは敵B国へと向かっていった。


 カラスが敵軍に攻撃を開始したところで、将軍はミサイル射撃のボタンを押した。ミサイルは次々と発射され、B国軍の基地にことごとく命中した。作戦は成功したのである。


 B国は甚大な被害を被り、戦況は一気にA国優位に傾いたように見えた。


 ところが、間もなくレーダーに映らない不審な機体がA国領空域に現れ、目視で確認できる距離までA軍基地に接近した。ミサイルで追撃するも叶わず、機体は一発の爆弾を落下傘のように上空から落としていった。


 青白い発光とともに、聴覚をつんざく轟音が響いた。建物はなぎ倒され、一帯は瞬時に廃墟と化した。それは、今までに経験したことがない新型の爆弾であった。すさまじい破壊力は、A国に壊滅的なダメージをもたらしたのである。


 着弾による爆風で、フルミは吹き飛ばされた。なだれ落ちた土砂の下敷きになり、生き埋めの状態である。


 救助は来ない。周りからは助けを求める弱々しい声が聞こえるだけだ。


 薄れていくフルミの意識の中に、いくつかのメッセージが飛び込んでくる。


「この決戦により、早晩戦争は終結するだろう」


「キリギリスC国は、我がA国だけでなく、敵のB国にも資金や武器を提供していたに違いない」


「終戦後に、C国はAとB両国の土地や財産を没収し、支配を開始する」


「C国の企業は復興のために、こぞってA国とB国に進出するはずだ」


「このシナリオは、一体いつ誰によって計画されたのだろうか……」


 まだ若いフルミは世界情勢の知識が不足していたこともあり、そんな内容を理解するには至らなかった。


 波に流れる砂のように思考はまとまらず、意識はだんだんと途切れていく。そのままフルミは目を覚ますことはなかった。


                   *

 

「お疲れさまです。第二ステージ終了です」


 ジョンの声で目が覚める。二回目なので、離脱にも慣れてきた。


「フルミさまは、一回目のステージに較べ、今回はかなりがんばったのではないでしょう

か」


「うん、がんばった。でもね、結局はこうなんだよ」


「フルミさまは、少々ペシミスティックな気質があるように感じられますね。気を楽にして、日常をもう少し楽しく過ごされた方が良いように思われますが……」


「うるさいな!」


「ああ、フルミさま。どうか落ち着いてください。お手元のヘンプ薬を服用してください」


 いつの間にか、ぼくの手の中にグリーンのヘンプ薬が二錠現れる。口に含むと、甘美な味が脳を麻痺させるのか、すぐに気分が明るくなっていく。


「わかったよ。でもさ、ぼくもいろいろと大変なんだよ。きみのようなお気楽なAIには 理解できないだろうけどさ。それに今離脱したばかりだから、ちょっと頭が混乱してるしね」


「確かに、わたしは単なるガイドに過ぎません。お気を悪くされたのでしたら、陳謝いたします」


「いや、そんな、謝んなくてもいいよ。ちょっとイラっとしただけだよ」


「そうでしたか。失礼いたしました。計測されているデータによると、レベルが順調に上がっている模様です。その調子ですよ。では、第三ステージを開始したいと思います」


「おいおい、休憩させてよ」


「はい、承知いたしました。それでは、今から二十分後までにこちらにお戻りください」


 ぼくはメガネをはずした。ぼやけていく廃墟と噴煙の残像。ヘンプのおかげで気分は落ち着いている。


 顔を洗うために、テストルームを抜けて、また洗面所に向かう。

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