:第3話
少年の目が覚めたとき、一番最初に見えたのは木の天井だった。
何故こんな所にいるのだろうか。
その疑問を解消する為にゆっくりと思い返してみる。
(ぇーと…いきなり教会に現れて謎の大剣を強奪、その後逃走し、やがて力尽き行き倒れ…そこへ親切な人が通りかかり、半屍状態の俺を拾ってくれた、ってところか…)
世の中捨てたもんじゃないね、と少年は元の世界を思いながら感慨に浸る。
きっと行き倒れていても無視されるんだろうな……
そんなことを考えていたとき、人が部屋のドアを開けてやって来た。
「やっと起きた?」
現れたのはなかなかに美しい女性。
全体的にすらっとした体型ではあるが、出る所は出ていてなんともグラマーである。
その凹凸は服の上からでも分かる。
顔はきりっとしていて、良い意味で男らしい。
170を越えていそうな身長とポニーテールが姉御的な雰囲気を醸し出していた。
頼れる姉御。
それが少年の第一印象であった。
実際それは近かったが。
「ああ……ここは?」
部屋の中を見渡す。
壁際にはクローゼットや机などの日用品が必要最低限並べられている。
何の変哲も無い普通の部屋だった。
が、テレビなどの電気製品が何も無い。
天井にも電球らしきものは見当たらない。
というかそれ以前にコンセントさえ無かった。
やっぱり異世界なんだろうな…と少年はしみじみと思う。
「ここは私の店の部屋だ。具合はどうだ?」
「……そうだな、腹が減った」
「はいよ。なにか作ってやるよ。即席だけど勘弁な」
そう言い、部屋を出て行く。
揺れるポニーテールが何とも言えない。
「ご馳走様でした」
「どういたしまして」
食後の一息。
お茶らしきものを手にちょっとした団欒。
「そういえばまだ名前を聞いていなかったよな。私はシリル・グラデフォンだ。お前は?」
シリルが一旦部屋を出て食器を片付けて来た後、そう封兎に話しかけた。
「猫宮封兎。よろしく」
「ああ、よろしく。…しかし少し変わった苗字だな…」
シリルは微妙というか、なにか思案してる顔をしていた。
「…まぁ、確かにあまり無い苗字だけどさ」
「いや…そうじゃなくて。その苗字は誰でも知ってるんだよ。誰でも。」
「?なんで?」
「この世界で最強の剣士の名前だ。知らない奴は居ないね。そこら辺のガキでも知ってる」
そしてその名前を口にする。
その声には尊敬の念が込められていた。
「猫宮驟雨」
その名前を聞いて封兎は驚く。
自分の父親の名前と完全一致していたからだ。
まさか本当に自分の親がその超有名人なのか?
いやそんな偶然は無い――
「そんでその子供の名前が封兎。確か今年で16歳…」
――あった。
「いやぁー…こんなのがアイツの息子なんてなー」
「こんなのってなんだよ!?」
ちなみに封兎の外見は……格好いいと言えば格好いいが、そうでないといえば普通である。
恋愛関係において、毎回の如く友達以上恋人未満でストップするのはそれも関係あった。
一番大きなのは性格にあったが。
勿論本人はその事を気にしていない、というかそれ以前に気付いていない。
封兎は楽天家だった。
「とまぁそれで、だ。なんで封兎はあんな所で行き倒れていたんだ?」
「…それは…」
かくかくしかじか。
適当に大まかな流れを掻い摘んで説明する。
「…なるほど。修行ねぇ……お前の両親らしいな」
「……?…両親?」
「あ。お前の母方も似たようなものだったな。最強の魔術師、ミサ・クリスティエール。親父に同じく超有名。」
「……はぁ」
もうため息しか出ない。
今まで過ごしていた平凡過ぎる世界が、異常との紙一重だったことに。
ちなみに、封兎の母親の名前は巳叉。
生粋の西洋人なので、その名前は当て字だ。
(でもまぁいいか。楽しそうだし)
ふとそこで気が付く。
あの大剣が無いことに。
「あの剣どこ?」
「剣?ああ、あの盗んだ剣かー……んーとな、それなんだけどさ…」
そこで神妙な顔をするシリル。
「無かったけど?お前を拾ったとき。どこにも」
「………」
「………」
流れる沈黙。
封兎は口をパクパクと。
対するシリルは苦笑い。
「え、ええ!?俺は確かに持ったままだったぜー?」
「いや、無かった物は無い。それにお前の言うほどデカイのならすぐ見つけるだろうし」
「でもそんな馬鹿な……こうやって剣持って兵士と戦ったんだぜ?…少しだけど」
そう言い、剣を持つ真似をして訴える。
と、その瞬間、部屋に破壊音が響いた。
ずどーん、と。