第1章 異世界へ :第1話
少しばかり薄暗い場所で、猫宮少年の意識は覚醒した。
辺りを見回し、此処がどこなのかを確認する。
天井近くの窓のステンドグラス、いくつもの蝋燭や燭台。
そういった装飾などから、教会のような所であることが分かった。
そして祭壇らしき場所にある、人の背丈の二倍以上はある巨大な十字架。
教会等の十字架には普通、江戸時代の踏み絵のようにキリストが居るものだが、この十字架は違った。
代わりに、その十字架と同じぐらい巨大な大剣が鎖によって雁字搦めにされていた。
「…なんだコレ?」
その大剣を見上げる。
真っ白な十字架に反し、大剣は宵闇で染まっていた。
黒光りする刀身は威圧的な雰囲気を放っている。
「にしてもでか過ぎるだろ…」
猫宮少年がそう思うのも無理はない。
人間の背丈の2倍以上ともなれば、その巨大さ故の重量はとても人間の手に余る。
扱うのが難しいというレベルでは最早無い。
そこまでいってしまえば既にゲームや漫画の世界である。
常識的に到底不可能であると思うのが当たり前だ。
なのに存在するその大剣。
意味があるのか、と少年は疑問に思ったが、とりあえずはただのインテリアと納得しておくことにした。
しばらく見てると、近くに大剣の柄へと続く階段があるのに気付いた。
大剣をさらに近くで見てみたいという好奇心で、その階段を上ってゆく。
巨大な刀身の割に、柄は大して他の剣とは変わらないようである。
とはいっても、猫宮少年にとってまだ他と比べられることはできないが。
長く幅広、力強い感じが伝わる漆黒の刀身は、まるで鏡のように猫宮少年の顔を映していた。
好奇心に煽られ、柄へと手を伸ばす。
そして柄を握り締めたその時――。
――大剣を束縛していた鎖が砕け散った。
「ぇえッ!?」
猫宮少年が驚愕の声を上げる。
手にはあの大剣。
地面には鎖の破片。
何をどうしても言い逃れられない状況その1。
(ヤバイ、激しくヤバイ。どうする!?俺どうしたらいい!?)
少年は焦る、焦る。
軽いパニック状態の頭を駆使して答えを導く。
(やっぱりあれか、見つかる前に逃げた方がよさげ?)
そうと決まったら少年の行動は早い。
階段を飛び降り、大剣を手に逃げの体勢。
今まさに逃げる――その時。
「何者ッ!?」
早速見つかってしまった。
実は鎖が砕けた時、意外と大きな音がしていたのだ。
ついでに、少年の悲鳴もあった。
そのおかげで異変に気付いた兵士が駆けつけてきたようだったのである。
仕方無しに大剣を構える。
そこで少年は気付いた。
「なんでコレ持ててんの?」