1章―6 お仕置きの世界
ライドウの家から漏れる光が、周囲の闇を一層深く感じさせる。
アンコは少し遠い所で身を隠し、青白い凍りついた炎のような物を両手の間に浮かべ、周囲をぼんやりと照らす。
それほど強い光ではないが、暗闇に目が慣れるまでの間までは十分な光源だ、所々来た道と同じ道を帰ってはいるが、帰り道はまた景色が違うように思える。
アカツキ達は、どのあたりまで降っただろうか、アンコが口を開く。
「アカツキィ、先生にいろいろ突っ込まれてたねぇ、アカツキに何かさせようなんて懲りないね? ねぇ?」
「そうだね、まぁ発破をかけてくれる人がいるってのは、幸せな事だよ」
「よくいうね! あんなに困った顔してたくせに」
「帰りは寄り道しないで、最短距離で帰ろうなぁアンコ!」
「それ多分、ちゃんとしたルートで帰らないフラグだね、やだよ」
「もう手遅れだと思うけど、早く帰んないとヘレさんにお仕置きされるよ~」
アカツキは、歩道の脇に張り巡らされた柵の根元に、執拗につけられた無数の囓り後をかすかにとらえるが、それをはっきりととらえるには光は弱く、まぁいいかと走り出そうとする。
「アカツキ! 早く! 急いで! ヘレに殺される! こっちが近いよ! 飛び降りて! 飛んで! まっすぐに! ホラ! アカツキの体とヘレの体を直線で結んでその線を軌道に最短距離で! 向かって!」
「ムーリィィィーーーーーー先に俺の命がぁ絶たれるぅーーー!」
アンコは、アカツキの襟首をつかみ、道なき道を駆け降りる、先ほどアカツキがぼんやりとみた齧り後からは、うっすらと瘴気が立ち込める。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※
アンコどうしてそうなった。
危機的状況、八方ふさがり、袋のイタチ、絶叫、阿鼻叫喚、救いも慈悲もない。
道なき道を無事に帰宅出来たのはいいが、直後アンコはヘレに連行される。
「お仕置きの時間です、どうぞ此方へ……アンコちゃん」
「ヘレさんやめたげて……」
アンコの悲鳴は聞こえない、ヘレの部屋に入ったきり物音一つせず、アカツキはアンコの無事を祈り、時だけが過ぎる。
暫くすると、お仕置き部屋のドアが開く、ゆっくりと軋む音と共に暗闇から青い光が二つ、その光は次第に弱くなりヘレが無表情で姿を現帰りの遅かったアカツキを心配する。
「アカツキ帰ってくるの遅いから心配したんですよ、何度か使獣を出したのだけど届いて無かったの?」
ヘレの左手には、呼吸も微量、力なく床に突き刺さるような格好で、真っ赤なアンコがぶら下がっている、ヘレの表情は生気を取り戻しており、クルクルとアンコを振り回し、辺りに赤い液体をまき散らす、このアンコの姿はみせられない、閲覧禁止レベルである。
ヘレの異様な姿を目の辺りにし、ゆっくり視線をそらし心当たりがないかと、軽く思いだそうとするアカツキ。
そんな物は見てもないし、感じてもいない、使獣も届いてなんかいない、そもそもアンコが弄んだ可能性もあるが、限りなくゼロだ。
「いつもと何か違うことあった?」
ヘレの言葉に、再度自宅を出て帰ってくるまでの事を思いだそうと熟考する、瘴気の漏れた扉、先生との会話、ままごとの奇声、ヘレさんの服装、どれも思い当たらないし、思い出した内容はあまり言いたくない事ばかり。
「うーん、あれぐらいかなー、先生の家出て少し降りた所にある柵の根元が、なんか傷かな? ちゃんと見てないからわかんないけど、それがあったぐらいかな」
特に注力して見た訳ではないので、これぐらいしか思い当たることはなく曖昧な内容をヘレに伝える。
「んー、獣の類だとしても、私の使獣をどうにかすることなんて出来る獣は、この辺にはい居ないはずなんですけどねぇ」
ヘレの使獣は、今では類い希な特殊な物で、他の使獣は使獣と言うより、自己の本能のまま行動する。
ヘレのように、使獣として本体を離れ使命を全うさせる事が出来るようになるには、同じ精霊を長年従え続けなければ難しい。
ましてや精霊を出しながら使獣を使うなど、今の世にはヘレ以外数人ほどである。
「ん~、どうしましょうか?気になりますね」
何か思いついた顔で、アカツキに力強く提案する。
「ちょっと明日は探索して、ついでにピクニックしましょう!探索3割……ピクニック7割……いえ8割です!!」
ヘレの強い決意、特に後半の台詞に力強い意思を感じる、併せて11割。きっとピクニックしたいだけかもとアカツキは苦笑いを見せる。朝起きて気が向いたら行く事にしよう、そう決めたアカツキは自室に戻り、整えられたベッドに横になる。