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異世界転生。同居人は私を殺した魔女でした  作者: ロイ
第1章~誰のために
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1章―3 お使いの世界

 


 優しい風が緑を靡かせ、せせらぎに耳を澄ます、日も昇りきり、穏やかな時間が流れ、自然に囲まれたここはツグ村。ぽつぽつとある木造の家屋の一つから、誰かを呼ぶ女性の声がする。


 「アカツキー、これライドウ先生の所に持って行ってくれないー?」


 つむじの上に黒髪をまとめ、瞳は青く、透き通るような肌の女性、背中のぱっくりと開いた白いワンピース姿、年は20前後だろうか、この村の美しい景観を、より一層際立たせるほど。そしてアカツキと呼ばれた少年は女性の頼みを拒否しようとする。


 「えー、自分で持ってってよ面倒くさい、また重い荷物なんでしょ」


 「そんなこと無いわよ、すごく軽いから大丈夫」


 「俺よりヘレさんのが力あるじゃん、この前だって結局ヘレさんが全部荷物もったじゃんか、俺みたいな子供が行くには辛いんだよ?」


 アカツキは、椅子に座り、ヘレに背を向けたまま頼みを拒否し、全く動こうとしない。まだあどけなさの残るアカツキの顔、黒光りした髪は短く寝癖の付いたまま、それとは逆に身体はしっかりと成長しきっている。


 「仕方ないわね、隣の家のサーヤにもって行ってもらおうかしら。でも獣に襲われたらどうしましょう。きっと肢体もがれて、生きたまま屠られるんでしょうね……可哀想」


 「ハイ……俺が行きます」


 アカツキはしぶしぶ立ちあがり、荷物を二つテーブルの上から持ち上げようとするが、大きさの割に重量は無く、つい過剰に力を入れてしまいバランスを崩す。


 「その重さなら大丈夫でしょ? ちゃんと舗装された道を歩いてね、変な道行かないでね。すぐに寄り道するから」


 ヘレの過剰な注意に、そんなことするはずないと怪訝な顔で荷物を両手に持ち、あからさまにだるそうな動きで家を出る。


 屋内とは違い、土の香りを運送する暖かい風を受け、村を後にする。木製の小さな橋の上でアカツキは立ち止まり、ヘレがまだ自分を見ているのではないかと後ろを確認し、誰もいないことに解放されたと、大きく腕を広げのびをする。


 ライドウの自宅がある丘の上までは道こそあるが、両側は深い森林地帯。

 太陽の光を遮る深緑の屋根は、村で感じた暖かい風を涼しいそよ風に変え、アカツキを誘い込むかのよう。ヘレに気を付けるよう注意されたのにも関わらず、一時的な探求心満たす為に正規のルートから外れ、森へと意気揚々と入っていく。


 しばらくすると、先程までの探求心など今は微塵も感じさせない弱腰のアカツキ、なかなか抜けないこの森に不安と後悔に襲われているようだ……


 草木にまみれながら、ようやく開けた場所に顔を出すが、見慣れない風景に腕を組み自信満々に言う。


 「全く何処か分からない」


 涼しいそよ風は今は微塵も感じず、アカツキの焦りを促すように冷や汗が一筋頬をたれるが、時既に時間切れ。根拠も無く突き進むしかなく、きっとヘレに怒られるかもしれない。

 などと考えながら、よたよたと歩いていると目の前には岩石に囲まれた頑丈な鋼鉄の扉、中心には炎が凍り付いたような紋様も。


 「こんなのあったんだ、異様だな、ちょっと気になるけど……厳重そうだし、きっと開かないよね」


 扉に近寄ろうとするが、アカツキは耳元で囁く声に驚き、足を止め硬直する。


 「今日は一人だろー、寄り道したらダメだろうが、処すぞクソガキ」


 アカツキの耳元には胴は長く白いふさふさの体毛、足の先と尻尾の先が黒い、イタチのような姿をした生き物。


 「ク……クソイタチいつからいたんだ。隠れてこそこそついてきやがって、ん? ヘレさんの奴隷のくせに」


 「ずっといたよアホツキ、僕が注意しなきゃ、アホツキはその扉の中に入ろうとしたろ?」


 「イヤァ……そんな事は無いカナァ」


 鋼鉄の扉に手をかけようとした姿のまま、全く説得力のないセリフを吐くアカツキ。


 「入っても良いけど知らないよ、自分の好奇心満たすが良い、ヘレを困らせるだけだけどね、アホ」


 それもそのはずだ、扉の隙間から瘴気がわずかだが漏れている。扉の隙間から中央の模様に吸い込まれるように。


 薄い、濃いはあれど、精霊の力を借りていない人間以外は、瘴気を浴び続けると、肉体を腐らせながら狂いもだえ、絶命する。もちろん人間に限ったことではない。幾度となくヘレから念を押して注意されてきた事、なまじアカツキは、多少の耐性があるためすぐには気が付かない。


 イタチの目が薄らと青白く光る、イタチの蒼い瞳の奥に、氷の結晶が泳いでいる。少し目を凝らさなければ見えはしないが、瞳がこうなった時、いうことを聞かないとひどい目に合うと、幾度となくこの小動物の逆鱗に触れたアカツキ、引き際を見定め奥の手をだす。


 「アンコ、後でブロッコエイ取ってきて……や」


 アンコと呼ばれた小動物の瞳はいつもの薄い蒼にすぐさまもどり、なかなかの早口で食い気味に喋りだす。


 「僕があんな森を凝縮したような野性味あふれる芳醇なブロッコエイでつられるとでも? ……チーズも付けな、それで僕がブロッコエイを食べ終わるまでは、大目に見てやろう。さぁ存分に寄り道を満喫するがいい! ただしそこの扉に近づいたら……」


 アンコの瞳の奥で結晶が増える。


 「あっ、ハイ! 大丈夫です近づきもしませんし触りもしません! 視界も記憶も失いますっ! いこういきましょうアンコさん!(ちょろいぜ」


 「なんか言った? アホツキィィィィ」


 今日浴びたそよ風とも違う凍てつく冷気を全身に感じ、訓練の行き届いた軍隊のように、アンコに誘導されながらライドウの家を目指す。



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