〜上物と、初めての名前〜
「君、それなに?」
床に落ちても、なぜだか追い討ちは来ない。メイヤーさんも驚いているんだろうか? 気になったのは、彼の背負っているヤリに覆われた大砲のようなもの。持ち手の部分と大砲が一体化してるし。
「俺の武器だよ。お前、死にかけても疑問は出るのな」
「シャンレイ。別にあたしは殺す気はない。あの子が泣く」
「そうかい。こっちには責任あるし、問題もある。あんたの言う通り、あの山のは上物が多くて貴族どもが買い占めてるらしいってのは噂であった。泥棒退治が裏金問題につながるとはね」
「あそこには、友達がいてさ。その子もクリスタル・イーターだったよ。貴族どものエゴのせいでどんどん無くなって、終いには。娘だけは絶対、なくすわけにはいかないんだよ。あたしのキラキラが、無くなってでも」
その言葉に、僕は何も言えず。彼は寂しそうに笑った。
「2日続けて、喰い物には困らないみたいだな」
は?
「2日続けてって、やっぱり昨日僕から何か喰ったな!?」
その言葉に応えるように、メイヤーさんが腕を後ろに向ける。
「エミッション・ダイヤモンドシールド!」
鏡のように、ダイヤが盾になった。そこに刺さったのはナイフ。
「いい考えだ。鋼製だね? 確かに硬い。けどね、ダイヤは、鉱物中最も硬いのさ!」
「反応いいねぇ。やっぱ、戦闘職の経験あると、強いよなぁ。ウチの教官とサシでいける。じゃあ、こっちもオマケ!」
いつの間にワナ仕掛けたんだろう? と思ったら、次はブーメランよろしくヤリが飛んでいった。
「また背後かい?」
同じく、防がれる。
これで彼の武器はない。メイヤーさんも両手が使えない。彼は、ゆっくりと歩き出した。2人の距離は、五歩あるかないか。
「あたしの武器はないと思ってるんだね。あんたの足は歩くためのものだろうが、私の足は、武器なんだよ」
僕を襲った技がまた繰り出される。もちろん、直撃コース。
「でも、その足だと俺は払えねぇだろ?」
見ると、メイヤーさんの足は氷のようにダイヤの中に固まっている。彼の槍に付いている大砲が発射され、イバラは消え去った。そんなに弾は大きくないけれど、屋根に穴が空く。そして、メイヤーさんの目の前に、彼が傷一つなく立っていた。
「あんた、いい母親だよ。ちゃんと子供を大事にしてる。けどな、知ってるか? 親に甘やかされた子ほど、大人になって、苦労するらしい。あんたのは少し多すぎる。減らしてやるよ」
そう言って、小さな子にするように、メイヤーさんの頭に手を置き、呟いていた。
「アブソーブ。
甘い。ダダ甘い。恋人愛じゃなく家族愛だっつーのに、砂吐きそう。ま、昨日よかマシ」
「もう一回聞く。君、何のイーター?」
糸の切れたマリオネットみたいに崩れ落ちた姉貴分を、僕は見もしなかった。
どこからともなく現れた大きな光るピンク色の宝石を手にした彼を問い詰める。
「もう一回、自己紹介だな、じゃあ。
俺はミーナス・シャンレイ。シャンレイが名前で、ミーナスはファミリーネーム。年は18。都市に住んでて、学院と軍に属してる。んでもって、
欲望喰い《デザイア・イーター》
エミッションはこれ。全イーター使用可能なエネルギー源。ちなみに、お前からは、俺らを疑いたい気持ちをもらった。苦かったけど、これと同じく上物。
はい、何か質問は?」
頭が痛い。全イーター使用可能なエネルギー源がエミッション? 魔法使いかよ。
朝から文句を言う気が起きないのも、一晩たったのに、彼らを追い出さなかった自分も、納得できた。
「君さ、最悪だよ。でも
助けてくれてありがとう、シャンレイ」
とった行動は間違っていない。僕だってそうするだろう。信頼には足るようだから、初めて名前を呼んだ。