〜鬼教官な案内人と、猫かぶりのおまわりさん〜
「ありがとうございました! 明日、レーグ君と一緒にお越しくださいね!」
元気よく挨拶をするレイジュの横で、ファリナちゃんは可愛らしく手を振っている。
「ごめん。仕事任せて。
もしかして、また遊戯会の服かい?」
「気にしないでよ、兄さん。
えぇ。この時期は稼ぎ時。
シャンレイさん、準備は出来ましたか? 少しお疲れのようですけど。あ、ファリナちゃん、頑張ってましたよ! ご褒美にメイヤーさんからフルーツジュースもらっちゃって!」
「鍛えてるから平気。でも、学院で一夜漬けする奴らが試験中に寝る気が分かった。何、この鬼教官」
「あんなの一回見たら憶えれるだろ! 君が悪い。にしても、フルーツジュースって、貴重だよ。メイヤーさん、なんで?」
「昔の仕事仲間がくれたって。昔は下っぱだったのに、偉くなったって苦笑いしてたわ」
「自分より弱かった奴に追い越されると、複雑だろ。あとシーエ。お前のアタマがどうかしてる。別に悪口じゃねぇよ。さ、行こうぜ。なぁ、何か持つものは?」
「いえ、巻き尺ぐらいです。あと兄さん、記録用紙をお願い」
「持ってきてるよ」
そう言って、少しホコリは被ってるけど大きめのロール紙を掲げて見せると、彼が呆れたような目でこっちみた。
「そんなデカいの、子供の採寸にはいらねぇだろ? 切れよ」
「向こうで切る。行こう。場所、忘れてないよね?」
「モチロンであります、案内人殿。寄り道は?」
却下、と返しながらドアを開けた。
「二人ともよく来たね! うちのお姫さまならこちらさ。あぁ、さっきのお手伝いのお嬢さんと…お兄さんは?」
「シャンレイです。ここの出のギアル先輩には学院で世話になっていまして。ここで事件が起きたそうなので代わりに頼むと。先輩、師範の手伝いを指名されてしまいましたので。可愛い姪っ子と美人な叔母上によろしくと。先ほどは相棒に貴重なものをくださったようで、ありがとうございます」
「あら、そう! こちらこそ、甥が世話になってる。キラキラ泥棒の調査にかー! 都市からご足労なことで」
こいつ、猫かぶるの上手いな! 詐欺師にだけはなるなよ。これで軍属とか、都会は大丈夫かな?
兄妹一緒に入ると、すぐに元気な声が迎えてくれた。
「しーえ! れーじゅ! いらっしゃい! きらきらは?」
「今日はありません、ミリアちゃん! ごめんねー。きれいなお洋服、創りたいからミリアちゃんがどれくらい大きくなったか、レイジュに測らせてくれるかな?」
「むー、まま、たくさんくれるのに!
きれいなふく!! ん、いーよ!」
「ありがとう、いい子さんだねー! 兄さん、入って来たら」「分かってる。そんな趣味はない」
妹を怒らせるなんて趣味は。
二人を見送って、紙を壁に立てかけながら、メイヤーさんの方を見る。
「ん、そーかい。にしても、キレイな髪してるねぇ、ファリナも、シャンレイも!」
「俺も、ですか?」
「あぁ。手入れさえすりゃ。やってやろっか? 昔は会社の部下の面倒、よく見てたから」
「さすが、先輩の血筋ですね! あ、しまった!」
ファリナちゃんの頭に紙についてたホコリが盛大に落とされた。
「お前な、何して! メイヤーさん、すいません!」
「いーよ。そういう話になってたんだ。早いけど、髪、綺麗にさせてくれよ。いいかい、ファリナ?」
その声に、ファリナちゃんは、気のせいかもしれないけど少し嬉しげに首を縦にふった。
二人がお風呂場でのに消えるのを見送って、彼を振り返る。
「わざとだろ」
「バレた? あいつ、お前の考えた通りだ。怪しいよ」