〜妹のスカウトと、外出しない村案内〜
「いや、眠くてさ。食事は昨日とったからいいや。ごちそうさま。あ、飲み物ってなんかない?」
「いえいえ。お気になさらず。んー、水ぐらいですよ。飲み物の選択だけは全イーターに許されてるんですけど、ここじゃあんまり他の余裕がなくて」
あれから、ファリナちゃんが頭突きして起こした。起きた瞬間、僕に謝罪する訳でもなく、「この紙、いい奴だな。ファリナ、使えよ」 と、僕の仕事道具あげちゃおうとしたので、慌てて止めた。
しかも、さっきのごちそうさまって僕の方に顔向けて言ったし! でも具合悪くもないしなぁ。
「キラキラ泥棒探しなら、一番困っている子に聞くのがいいですよね。その子の採寸に行く予定なんです。太陽が真上に出た頃の約束なので、だいぶ待つことになりますけど、良ければ、ご一緒しますか?」
「あぁ、助かる! 俺から言おうと思ってたんだよ。あ、シーエ! 待つ間、案内頼む。お礼に、なんか話してやるよ」
妹と、昨日来たばかりの彼によって、僕の予定が埋められていく。いつもなら文句を言いたくなるはずなのに、昨日の疲れが抜けてないのか、それすら起こらない。
「分かった。家の中で、地図を見ながら。あと、妹のこと、お前、絶対言うなよ!」
「えー、外でよーぜ、せっかく晴れてんのに!
エンチャント使えるって? 都会にゃ結構いるし、んな警戒するもんじゃねぇだろ。」
「一応、悪い奴はどこにでもいるんだよ」
「そうかよ、はいはい。それはお前より俺が詳しい。
にしても、ここの話はうかつに出来ねぇな。こんな上等なエンチャントクローズが破格でなんて。
レイジュ。あんた、真面目に俺らと一緒に都会来ないか? こんだけの上物、十着あれば百年遊んで暮らせるぞ。」
「なに真顔で人の妹を目の前で口説いている、おい」
「怖ッ!! まぁ、考えといて」
「んー。兄さんの許可があれば。でも、この様子じゃ、しばらくはお預けですね」
思いっきり、3人に笑われた。
「まさか、本当に外出ないとはな。さっきも言ったけどさ、天気いいのに」
「妹に仕事を任せてる。そのくせ、のんきに兄が知らない奴と外出るわけにはいかない。都会はどうか知らないけど、こっちじゃさ、そういうちょっとしたことで社会的にマズイんだ。何より、妹より他人を優先したくない。この部屋、僕には居心地一番いいし」
箱から質の悪い自分用の紙を出して、彼にも見えるようにする。
「自分も、他人に入ってんの? お、サンキューな。あと、都会の方がこっちよか気ィ張る。隣が敵か味方かも分からない。それに、俺の相棒を店番にしてやってるだろ?」
「その言い方、腹立つね。いいや。これ以上互いの考えをぶつけても、時間がもったいない。
ほら、こんな感じで、村は円形に出来てる。高さは、刺す針の高さで示すよ。今、陽が45度くらいだから、一発で憶えてもらう。」
拒絶して、話題を変える。お前な、と彼が言いかけて、何か納得されたような、面白がるような目で見られた。
「はいはい。やっぱ面白いな。」
「とにかく、ここ、赤いまち針が僕らの家。村が見下ろせる丘の上。そこのふもとが後で行く家。お母さんと娘さんの2人暮らし。
で、もう少し行くと、青い屋根の家がある。ピクチャーイーターの男の子がいる家。
その隣が、シュガーイーターのおばあさんが一人で住んでる。で、次が…」
言葉を続けながら、屋根の色に対応したまち針を地図に刺していく。彼の反応も、見なかった。