〜喰われたものと妹の秘密〜
「兄さん、起きて! このままじゃ潰れちゃうわよ!」
妹の声が聞こえる。目を開けると、まだ真っ黒だった。 眠い目を閉じながら、 言葉を返す。
「朝日が見えないから大丈夫だろ? 重いもの置いていないし。おやすみ」
「とりあえず、体を起こしなさい! あー、もうっ! エンチャント! 性質、カーボンファイバー!」
体が浮き上がった。妹の髪に支えられて。
「久々に力技使われたな。おはよ、レイジュ。それでどうし…ん?」
下を見ると、何かを抱き抱えるように寝ている彼。両腕の中は紙だらけ。
「あの、レイジュさん。僕、まさか」
「大丈夫よ、兄さん。えぇ、少し驚きはしたけど、疑り深い、あの兄さんがいきなり仲良くなったりできたり、もしくはそういう趣味だっても、私は、ええ、こんな愚兄の妹ですし! 血は繋がってますし?!」
「違う! 誤解! てか、なんでそっち方向に思考が飛んでくんだよ! あと、降ろして」
朝から、どっと疲れた。
床に座ってため息をつき、彼を起こさずに自分の仕事道具でもあるエミッションの回収方法を練る。なんか、すぐ起きそうな気がして仕方ないんだ。
頭をまた抱えようとしたら、紙が差し出された。
[おはよう。あいぼーがごめん。昨日はありがとう。お腹平気?]
文字の横には、薄い水色の髪に、眠そうなアイボリーの宝石が二つ。
「ファリナちゃん? えっと」
「声、出したらダメって言われてるそうよ。エミッションに関係するみたい。ちなみに、ミュージック・イーターらしいから、一曲弾くわね。
ファリナちゃん、何がいい? おねえちゃんが何でも弾いたげるわ!」
「あ、そうなんだ。お腹は平気だよ、ありがとう。朝二倍食べるから。あと、彼起こしてもらえる?」
[さっきみたいに、ドゴーンは? おねえちゃん、すごい。]
「うふふ、ありがとう! 兄さんも仲良くなれたみたいだし、安心したわ」
「だからそんなんじゃ」
言いかけて、思い出した。
僕があいつに何か喰われたってことを。
あれ、でも。何を?
考えろ。
自分の中で何か変わっていることはないか? ないはずだ。
次に、彼を観る。異常はない。
ただ、あの袋が少し、膨らんでいる気がした。
服の袖を引っ張られて、視線をおろすとファリナちゃんの小さなメモがレイジュに隠すように渡された。
[はやく、いこ。おねえちゃんのエンチャントは、ナイショ?]
「うん、頼むよ。ごめん」
そう、エンチャントだ。ここで、妹が一番の服職人として信頼される理由は。周りは、知らないけれど。
服を少し目立つようにしたり、逆に周りから見えないようにしたり。あの子が言うには、自然を借りるらしい。小さい頃からできた。
その力は、便利だけれど、 一つ間違えると、危ないものに変わってしまう。
だから、他の人には言わずに、守ってきた。これからも、たぶんずっと。
このご時世、特にここでは、そうそう荒っぽいことはないだろうし、ケンカ以外は。