〜兄の卑怯さと、妹の心配〜
「メイヤーさん!いらっしゃいませ。
どうでした、兄さんの宿題の出来は?」
ドアをくぐったメイヤーは、なんともいえない笑いを浮かべる。
「レイジュ。あんたの兄貴、商売上手かと思ったら、戦上手でもあるよ。
あの手はね、思いつきはしても有効に使える道筋を立てられないほど卑怯な手だ。第一、それを実行に移そうとするにも、普通は情が邪魔する。
荒療治すぎたかもねぇ」
最期の呟きは後ろの子供達の声で聞こえなかったのか、少女は嬉しげに手を鳴らす。
「良かったぁ。そろそろ雪解けですし、出発に問題は無いですね」
「んー。あと5日ぐらいかねぇ。その間、シーエには色々とアズサの手を借りて詰め込む。教官交代の時期だよ。
で、あんたはどうなんだい?
おっと、ここじゃ過保護兄にバレたらまずい。また店じまいした頃に来るよ。」
「アズサに擦り傷負わせる程度には、でいいですか?」
しばらく我を忘れ、目の前で揺れる折れそうな白い指で意識を戻す。
「あぁ。あんたら兄妹気をつけな。都市で絶対勧誘されるよ。賭けてもいい」
あらあら、と笑う黄緑色のワンピースの裾を、小さな手が捕まえた。
紙を受け取り、仕事の顔になる。
「すいません、メイヤーさん。ファリナちゃんと店番をお願いします。」
構わないよの声に頭を下げて、外へ出ていった。
丘を早足で下りながら、誰もいないところに心配そうに話した。
「最近多いわね。まさか窃盗?まぁ、布の一部が切り取られているだけなんだけど」




