〜師匠と弟子の行動理由〜
目の前に、輝く白い格子が見えた。
「メイヤーさん? メイヤーさん!! 出してください!」
指と目から外した軍師盤を置き、白い棒を掴んで揺らす。冷たいし、手が切れた。血が流れる。体が凍る。
あの子と、彼の最期がよぎった。
僕は、何をした? 彼と、同じことだ。
僕は、彼と同じように恨まれることをした。
「なんで、あんなことできたんだろう?」
あの戦いは終わったのかもしれない。けど、あのせいで、また起こるきっかけとなる可能性を孕んだ。
たくさんの兵の中で、他にも死者がいるなら、あの一人は他と同じく処理されるだろう。
でも、それは、戦場に行けと命じて、自分達は立たない卑怯者の話だ。
彼らが僕らと同じように守りたかった、家族や友達はそうじゃないだろう。その声が大きくなれば、国が動く。
感情任せの一撃は、やめておこうと思った。
都市から遠い村の雑貨屋が、何を考えているのかと、少しおかしくなったけど。
「無事かい、シーエ!?
すまないね。すぐに手当てをしよう。
一つ、訊かせておくれ。
あんたを、あんな方法で試したあたしの下で、訓練続けられるかい?
辞めてもいいよ」
檻から出され、手当てを受けながら考える。考えがまとまる前に、言葉が口の端から漏れた。
「僕は、親を知りません。一番最初の記憶は、この村の奥にある森の、とても綺麗な木漏れ日でした。そこから、村のことを覚えて、レイジュを覚えて、ギアル若とか、いろんなことを覚えました。
アレは、誰かが体験した記憶なんですよね?」
「そうさ。前の持ち主だったアイツの。あの後、逃げのびた。けど、何日かして雪山のあの村で、ね。あたしの今の行動理由はアイツとの約束を果たすだけだ。」
「もし、この村、別のところでも、大事な人があんな目に遭うのは、嫌なんです。たとえ、目の前じゃなくても。というか、そっちの方が嫌です。
メイヤーさん」
一旦言葉を切る。大きく息を吸って、彼女の銀色の、冷たいようで本当は暖かい目をしっかり見ると、黄緑色の強い目と緑の髪を持つ青年が映った。
「僕の行動理由は、妹です。泣かせたくないけど、そのためには、いなくなると、あの子が泣く人も護らないといけないんです」
「それだけかい?」
「そ、それは … もちろん、メイヤーさんや、アズサさん、シャンレイにファリナちゃん、ミリアちゃんもみんな大切ですけど、それより、上なんです」
慌てて弁明すると、知ってる、あたしのミリアと同じだろ、って苦笑がかえってきた。
「よろしく頼むよ、シーエ。明日は、戦術でも練っといで。添削してやるよ。」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
慌てて頭を下げると、手を置く台にしていた、メイヤーさんの食糧である石炭が割れてしまった。怒られるかなって思ったけど、彼女は、楽しげに笑って、歯を黒くした。
それで、今に至るんだけれど。
「大変だったなぁ、お前も」
背中の人間サイズなネコをどうにかする方法を、誰か教えてください。




