〜緻密な地図と、リンクしたら翼がもげたみたいです〜
「おーい! 起きなさーい!」
声が聞こえる。メイヤーさんに近い年くらいの、知らない女の人。目を開けると、誰もいなかった。というか、真っ暗。
「あの、誰ですか? どこにいますか?」
不安で、大声で聞いてしまう。
「私は、軍師盤の妖精です! ここは軍師盤の中。キミに、私の使い方を教えに来たんだ。ちなみに使う度、ここに来ることになるからね。地図を入れてくれたらそこから使えるよ〜。
まずはー、そうだなぁ。リイン村の様子、地形をイメージしてくれない?」
怪しいけど、とりあえず言われたとおりに考える。シャンレイにこの前事細かに教えたから、そんな難しくない。
「うわわっ!? すごいよ、キミ! 下、見てごらん!」
下を見ると、リイン村があった。
最近あいつのせいで出来たメイヤー家のレンガの崩れも、運ぶのに身長足りなくて、ファリナちゃんがうっかり零したうちの壁の樹液のシミもそのままに。
「これが、貴方の力ですか? どういうエミッション使えば … あ、メモリー系?」
「理屈はいいの! キミの力だよ、これは。軍師盤は、地図を映し出す機能がある。こんな感じに【ぱのらま】でね。でも、どこまで再現できるかは、使用者の記憶力次第。ここまで緻密になんて、聞いたことはないかな。
まぁ、地図の入れ方は分かったかな?
知らない土地が戦場になる場合は、誰か先陣の人とリンクしてその人が進むたびに地図が出来てくよー!」
「事前に下見した方がいいですね。えっと、メモを … あ、日記とか持ち物はそのままあるんだ。地図の入れ方は大丈夫です!」
ちょっと空の上にいる鳥になった気分で楽しい。
「はいはーい! じゃあ、次はリンクに行くよー!
GPSについては、さっき聞いてたでしょ? それを使って、リンクしている人と会話出来るよ! 本当は、一対多でやれるのが強みなんだけど、まずはー人で。そうだなぁ、アズサちゃんに繋いでみて?」
「あの、どう起動すればいいんでしょうか … ?」
「おおっと、ごめんごめん!」
この人、全然反省してないな。とりあえず謝っといてもう一回やるタイプだ。
なんて呆れていると、文字が出てきた。
〈個人名 / 部隊名 / 味方 リンク〉
【個人名だと、五感全部のオールリンクが使えるよ! 偵察や地図作りに便利。使いたい時にはリンクの前にオールを付けてね!
また、個人の時はかけ間違いを防ぐため、フルネームで言おう。その人の姿をイメージすると効果的!
部隊名だと、その部隊と繋がれる。
味方は、味方全体。戦況の全体把握に有利だけど、情報が一気に流れ込んで来るから大分慣れた状態じゃないと厳しいよ!】
「えっと、複数人なら一人一人と浅く繋がれて、個人だと深く繋がれるんですね」
「そうそう! じゃあ、さっそく行ってみよー!」
陽気だなぁ、とか思いながら、さっき習った言葉を唱える。
「アズサ・レイジー リンク」
アズサさんの声が、頭の中に響いてきた。
〔あいつは店番か。よし、なら良い。
明日の授業の準備だな。〕
「あの、アズサさん、聞こえますか?」
〔ん? シーエか?
リンクの練習に私を選んでくれたんだな。頼ってくれて嬉しいよ。先輩のを使っているのだろう? 大事にしてくれ。どうだい、使い心地は?〕
「良いですけど、他のを使ってないのでなんとも … ただ、すごく大事にされて来たんだなって言うのは分かります。いい子ですよ。妖精、らしいのがテンション高いですが」
〔そうか。妖精 …
ということは社長か? あ、リンク中だった。
今のは忘れろ。もう少しで終わるはずだ。頑張れよ〕
「あ、えっと、はい! アズサさんも、授業の準備、ありがとうございます」
誰だろ、社長って。にしても、うっかり屋さんなところもあるんだな。レイジュが構うこともできるし、構ってもくれるし。本当、あの子にぴったりな友達だ。
なんて考えていると、頭が揺さぶられる。これ、5日を一日だって思う仕事した後のレベルだよ!?
「あーぁ、ここまで良かったのに。ゆっくりおやすみー」
苦笑いを隠せていないけど優しい声と共に、僕は床に落っこちた。




