〜おかしな訪問者〜
「シーエ君、息子に何か頼むよ! 育ち盛りでさ。頻繁に悪いな」
列の最前線に居る男性が、 いつものように、 声を飛ばしてきた。 それに、 笑って答える。
「いえ、構いませんよ。僕なんかでお役に立てるなら喜んで」
「まぁだそんなふうに言うのかい? あんたはよくやってるよ! あいつを弟子入りさせたいぐらいだ! くぅー、羨ましいねぇ、あんな気の利く妹ちゃんがいて!」
「ありがとうございます。ヒュウ君とはよく遊ばせてもらってますし。ピクチャーイーターでこの前は海の絵でしたから、今度は町にあるらしい汽車の絵にしましょう」
と返して背中合わせに妹の声を聞く。
「レイジュちゃん、後で娘の遊戯会用の服の相談に乗っておくれ。親バカかもしれないけど、可愛い盛りでねぇ! とびっきりのにしたいんだ」
「はーい! 本当に可愛いですよね、メイヤーさんところのミリアちゃん! 確か、クリスタル・イーターでお間違い無いですよね?」
「そうさ。キラキラしたものは何でも口に入れちゃうんだよ。だからあんまり飾りは凝れないんだよ、悪いね」
「いえいえ。それが、ミリアちゃんが大きくなる方法ですもの。それに元々の素材が良いので、飾りはかえって邪魔になっちゃいますよ。シンプルな感じでいきましょう」
「ふふっ、上手いこというねぇ! ありがとう。一旦家に帰って待ってるよ」
「ええ、また後で!」
ここは、リイン村。とても小さくて都市からも遠いけど、結束は固い。ここで、僕と妹は服屋兼雑貨屋をして生計を立てている。
僕はウッドイーターで、エミッションは紙。紙のままで売ったり、時には手を加えたりする。レイジュはリーフイーターで、エミッションは糸。服をオーダーメイドで仕立ててる。
さっきも言われたけど妹はとても気がきくし、明るい。自慢の妹だ。
慌ただしくしている内に、 今日も日が暮れていく。
「兄さん、そろそろ店じまいするね。
暗くなってきたからお客様も、お食事どきでしょ?」
「うん、そうだね。にしても、この時間帯にご飯を食べよう、なんて誰が決めたんだろう?」
ふと問いかけると、看板を裏返しながら妹は口を何度か動かしたあと、強い口調で言った。
「雲の上の方の誰かさんよ! もう、兄さんは細かいことをよく気にするよね。心配症」
「悪かったって。ほら、今日はアカシアだぞ」
「ハチコブない?」
「付いてないの選んだ。虫嫌い直せよ、彼らだって同じもの食べてるんだから」
「分かってるけど、よ。いただきます。終わったら声かけるね」
首を縦に軽く振って、部屋へ入り、 椅子に座って考えごとをする。
一眠りしないとなぁ。けど、まだ食べてないから眠くない。
エミッションの出現の仕方は様々だ。僕の場合、寝て起きたら体に張り付いてる。妹は髪が伸びる感じで糸が出るから、回収が楽なんだけど。
食事は、 妹が葉っぱを食べきってから、僕が幹や枝を食べる。噂では一人で両方とも食べる大食漢もいるらしいけど、消費効率悪いと思う。
そういえば、少し気になる話を店で教えてもらった。
「北の方のニラン山から降りてきた人達が今朝いたろう。彼ら、口をそろえて、キラキラが無くなったから分けてくれ、と言ったんだよ。そう、クリスタルやジュエルが。窓ガラスまで全部。ウチの倉庫も在庫切れでさ。ほら、うちの村でそういうイーターってミリアちゃんと、この前首都に行ったギアル若ぐらいだから。あぁ、いい人だよなぁ、若」
まさか、ミリアちゃんが何かしたってことは無い。あの山はとても険しいし、集落には山神が張ったっていう伝説付きの独自の結界があり、強い想いがないと許可無く入れないそうだ。
ここ最近、多いらしい。服が出来たらレイジュについて行って、あの子の様子を見ようかな。
妹に声をかけようとしたその時、ドアが鳴った。
木々の様子でわかる。風はない。じゃあ、誰か来た。村の人ではない。この時間帯、全員ご飯中。村が一望できる崖の上にある我が家の立地に感謝しながら、もう一度窓を見ると、どの家も灯りがついていた。
「どちら様ですか? 本日は閉店しましたが」
「寒い。一晩宿を貸してくれ」
声は高くない。男の人、たぶん僕と年は近い。確かにこの時期は冷えるけど、さっき考えていた犯人だとしたら?
「あの、すいませんが」
「いいですよ、今開けますねー」
断ろうと口を開くと、 軽い音が響き、 生ぬるい風が吹き込んでくる。
レイジュが、ドアの鍵を外していた。
「ちょっと、レイジュ!! いつからいたの!?」
「兄さんが窓を覗き込んだあたりから。小さい頃みたいで可愛かった。 【かめら】が無いのを惜しんだわ」
「あぁ、人がいた頃の文明機器、汽車とか移動に便利なのは何とか残ってるそうだけど、メタルイーターズ達の食料確保で、ほぼ絵しか無いよね」
「それすら、ピクチャーイーターズに喰われかけてる。ヒストリカ・イーターズが連合組んでやけになってるよ。残っている歴史は繰り返し喰えるからって」
「へぇ、そうなんだ。って、あの、どちら様ですか!? てか、入っていいとは一言も!!」
「鍵が開いた。寒くてヤバかった。入りたかったから入った。はい、何か質問は?」
目の前の青年、口調が軽いから少年にも見える彼を、失礼だけど穴を開ける気で見る。
一見すると女性に見える細身の長身と長い黒髪。眼は猫目で、色は蜂蜜色。肌は白くない。少し、黄色っぽいかな? 服は、端が擦り切れた赤のパーカーを羽織り、その下に淡い水色のシャツ。
背負っている大きな 【さんたくろーす】 が持っていそうな袋が気になる。雰囲気は飄々としていて、悪いやつにも、いいやつにも見える。
「名前と何のイーターかを。あと年も」
「俺の名はミーナス・シャンレイ。シャンレイの方が名前で、ミーナスはファミリーネーム。間違えるなよ?
何のイーターかは企業秘密。
ただ間違ってもここらで噂のキラキラ泥棒では無い。
年は18。それで」
ここで、一旦言葉を切って、気になる袋の中身を出した。
「ここで呑気に寝ているちびっこがファリナ・ローレライ。こいつはどっちで呼んでもいい。年は15。俺の仕事上のパートナーだよ」
袋の中の少女を猫のように襟首をつかんで、紹介した。
「それで、お前らは?」
「あ、シーエ・リーフィス。年は19。
ウッドイーター、疑ってごめん、よろしく。
一晩だけだけど」
「私はレイジュ・リーフィス。年は兄さんより2つ下の17。
リーフイーターよ。よろしくね。
それで、この可愛い子はベッドに寝かせた方がいい? それとも、寒いから暖炉かしら。
あと、あなた。その服、端がボロボロじゃない。縫いたいから貸してくれない?
あ、兄さんは食べてきて。終わる頃には、ファリナちゃんも起きて、落ち着いてるわよ、きっと」
レイジュの世話焼きスキルが案の定、発動した。
とりあえず、食事部屋に入って、頭を抱える。この時僕は心底思った。
この、おかしな訪問者には、絶対警戒をとくもんか、と。
お読みいただきありがとうございます。
初作品ですので、何かあればご指導よろしくお願いします。