お知らせ〜我が家は服屋で雑貨屋です。本日から、女隊長騎士による軍術学校という商品を期間限定で発売します〜
「いいか? ここに敵がいるとしよう。そうだな、3個小隊でいいか」
「せんせー! さんこしょうたいって何?」
「ん… そうだな。ざっくり15人くらい悪い奴らがいるってことだ。一個小隊は5人だ。分かったか、レイン? 他、分からない人はいるかい?」
「はーい! わかりましたー!!」
「よし、いい子だ、みんな。
こいつらはこのジュースの缶を奪いに来ようとしている。山はこの時期危ないから、下の一本道から来るんだ。どう倒す? 少し話し合ってくれ!」
子供たちがわいわいと議論するのを見ながら、頭を抱えたくなる。
なぜこうなった ……
昨夜、色々とヤバいガールズのお風呂タイムが終わった後。僕らが入るとき、あのトラップはやっとこさ解除された。
で、さっぱりして、みんなで寛いでいると、アズサさんが、外を眺めながら言った。
「にしても、この付近は兵の一人もいないな。犯罪が起きたらどうする?」
「皆友達だからねぇ。なんか企んだ時点で即バレるよ。準備を入念に年単位でして、やっと実行にこぎつけれる」
メイヤーさん、そんなこと言ってますけど、貴女一応、義賊とはいえ前科持ちですからね?あ、だからかな?
「余所者が悪い奴の場合はどうするんです、副し ー ー ケホンッ、失礼しました、先輩」
「メイヤーさんに頼んでいるわよ、アズサ」
「では、先輩の手が離せない時は?」
「「成り行きに任せる」」
兄妹仲良く、声がハモった。ていうか、そういう事態が今まで起こったこと無いんだよ。
大きく呆れてため息をつかれる。
「レイジュ、シーエ。この村には危機感がないな。のどかなのを悪いとはいわんが、何かあったらどうする? この村には子供が大勢いたな。よし、彼らを鍛えよう。いいですよね、先輩?」
「そうだね。あたしも行くけど、都市では危険も多いのさ。この兄妹も基礎を叩き込むぐらい損はない。そっちは私がやろう。
シーエ。店の方、中央部分が空いてたね。そこ、こいつに貸してくれるかい?
書き物はお前の紙でいい。
場所代と用具代、どれぐらいがいいかねぇ?」
「泊めてもらいもするのですから、宿泊代込みで300テーナで」
「そんな貰えないわよ!」
レイジュが焦ったように言う。レイジュの一番できがいい服でも、90テーナ。それで、ウサギ宅配三年分にはなる。その倍以上とか!
「都市では物価が高い。これなら安いぞ。向こうで外の物価話は迂闊にできない。
特にレイジュ。お前の服、ランクSAのハイドエンチャントのケープが90テーナだと? 都市なら0を後ろにもう二つ以上付けても、即完売するぞ!?」
「ほら、俺も言ったろ。ここの話、迂闊にできないって。
しかも聞けよアズサ。一番悪いって本人が評するのでもAランクは余裕で超える。3回分生きても、全部遊び暮らせるぐらい稼げるのに。ちなみにそれ、ハイドと真逆のシャイニーエンチャントな!」
[うんうん。もったいない。逆属性のも出来る職人さん、貴重。向こうで見せたら3秒で公爵貰えるよ]
こんな風に途中から、レイジュの賃上げ説得会になった。
次の日、長に相談に乗ってもらうと、
まぁ、何かに備えるのは悪くないというわけで、アズサさんによる軍術学校が開催されることになった。
お知らせの内容も決まったし、メモとして書いておこう。名前が悪いとか言わないでくれよ!? ネーミングセンス無いのは、これ付けたシャンレイなんだから!
期間限定!!都市現役女隊長騎士の軍術学校
料金 15テーナ
参加資格 25歳以下
場所はシーエとレイジュの服屋兼雑貨屋。中央部分で開催いたします。
この前の事件に危機を覚えた村長により、シャンレイの学友であり、遠征隊長として名高いアズサ・レイジー騎士が特別教官に。強くなれること、間違いなし!! 村長公認&オススメ
「君さ、ちゃっかり自分が村の人みたいに言うな」
「事実だろ。優秀な案内人のおかげで、村人全員の顔と名前と家の場所は一致。最近人気だし?」
「はいはい。で、僕らも明日から訓練か」
「レイジュはエンチャントの使い方、もうちょい練習すりゃ十分アズサの奴が手こずるレベルになる。お前、頭いいだろ。軍師方面で鍛えられる。体動かすのは、護身術覚えるくらいじゃねーの。」
「そっか。ありがとう」
思わず礼を言うと、ニマァッと嬉しげに笑うシャンレイ。あ、悪い予感が。
「ん? なになに? 聞こえなかった。な、も一回!!」
「聞き逃したそっちが悪いだろ?!」
思わず顔を赤くして怒鳴ると、本当に猫さながらにじゃれついてくる友達は、楽しげに声をたてて笑った。
そんなこんなで、冒頭に戻る。
人は結構集まったし、これ結構いいな。なんて思って、雪が溶けだした森の方を見ていると、レイジュが作業部屋から出てきた。
「終わったぁ! 兄さん、メイヤーさんのところに行ってくるね。アズサ、行ってきます! 」
「あぁ、行っておいで、レイジュ。
ミリア、上から丸太を転がすのはいい手だがな、お前が持ち運ぶのは難しいし、何より森から持ってくるのは時間がかかる」
「あ、おゆうぎかいのふく、できたんだ!
ミリア、まちがえたのー?」
「いや、上から何かを落とすのは正解だ。何がいいかな?」
「んー「ミリア、エミッションおとすんだ! ほら、メイヤーさん、ねなくてもでるじゃん!アズサせんせい、あたり?」
「あぁ、レーグ、正解だ! 自分のエミッションなら使い慣れてるだろ? ミリアもそろそろでる頃だろうし。自分で出す練習をしてみよう。シーエ、君も参加してくれよ」
え…
「僕もですか!?」
「先輩直々の頼みなのさ。安心しろ、しっかり叩き込んでやる」
後ろは壁。奥の方に引っ込んだシャンレイは、僕を招きいれた。
助けてくれる! と期待して駆け込むと、一言。
「安心しとけ。逃げたいって思うから悪りぃんだよ。アブソーブ。
うわ、酸っぱい」逃げたい欲を喰われて、ふっと意識を飛ばしながら、観念した。
最初から、僕に、逃げ場はないようです。




