〜初めての声と、青い女騎士〜
「おい! 先刻、声が聞こえた! 賊か、もしくは被害者か? どちらでも良い、出て来てくれ!」
メイヤーさんに似た、凛とした声。ファリナちゃんの肩が揺れて、耳がピクリと動いた。
「もしかして、知ってる人?」
声をひそめて尋ねると、肩のところにコクリとうなづく動きがあった。
「待ってて」
小さいけど、とても綺麗なカナリヤやウグイスを思い出させる声が鼓膜を震わせる。え、今のは、ファリナちゃんの声なの?
私も行くって口を開こうとしたけど、何かを待っているかのように動かない。
せめて伸ばそうとした手も思い通りにならず。
私の半分も背がない、可愛い妹候補は出ていった。
「なんだ、これは…
お前か! よしよし、何でこんなところに居るんだい?
そうか、お前も調査なんだな。もう一人、友達がそこに居るのか。安心しろ。撃ったりしないさ。
は? 脱走常習犯? おい、アイツなんぞ私は知らん! いったいなぜー ー
地元民連れて、この近辺で迷子だと!? あの、マヌケネコは何をしている!!
おい、皆!! 子猫でも何でも、動くものはとにかく、私の所へ連れて来てくれ! 探すのは、黒髪ロングの女男だ! 見つけた者には、都市に帰ったら、酒場での代金奢らせろよ!!
あぁっ、久方ぶりに先輩に会えて、良い気分だったのに!!」
声を聞く限り、賑やかな人みたい。
いつの間にか動けるようになっていたので、立ち上がり、声をかける。
「ファリナちゃん。無事?
あの、始めまして。私、レイジュ・リーフィスと申します」
「ん? あぁ、ファリナの友達か。私は、アズサ・レイジーと言う。年は21だ。よろしくな」
差し出された、冷たいけど柔らかい手を握り返す。
紅茶色の髪と眼に、青い鎧がよく映えている。騎士って言葉がぴったり。ギアル若様と同じ年かぁ。
「少し疲れているな。いただいても構わないか?」
顔を覗き込んで、そんなことを突然言われる。なんていうか、都市の人ってみんな思い切りがいいのね。とりあえず頷くと、頭を一撫でされてすぐ、疲れがひいていった。
「あの、即効の栄養薬でもお持ちで?」
「そんなかしこまらないでくれ。女同士、気楽にやろう。
名字のとおりさ。私は、疲労喰い《レイジー・イーター》なんだ。こんな物が生きる糧になっているから、遠征隊長なんてさせてもらっている。まぁ、レイジュのは美味かったよ。自分のためじゃなく、他の者のために頑張ったんだな。えらいぞ」
「ありがとう、アズサさん」
疲れが取れると、涙腺まで緩むのだろうか?
「君の兄上が見つかるまで、時間はあるはずだ。膝を貸させてくれ。おやすみ」
言われたとおり、横になって目を閉じる。
ミリアちゃんが、眠くなるとメイヤーさんのところに行きたがる気持ちが分かった。
[お姉ちゃん、ねた?]
[あぁ。悪いな、書かせてもらうぞ。少し泣かせている。悪いことしたか]
[お姉ちゃん、最近頑張ってたから。ストレス、溜まってたと思うの。アズがいてくれてよかった]
[ただの偶然。お前でも出来るさ。疲れている、頑張っている友達を励ますのは]
[アズ。レイジュ気にいった?]
[もちろん。いい友が出来た。先輩に言われた通りだ。お前もそうだぞ]
[学院も楽しいよ?]
[そうだな。おっと、そろそろ次のページか。悪いな、持ち主の方。使わせてもらったぞ]




