〜健気な妹と、刺激が足りなくても暖かい村〜
「北のニラン山だな! 行くぞ、シーエ! サンキュー、ウサギ!」
「うわっ、待って! 引っ張るなよ!! 日記落とし、てか、僕とレイジュのご飯踏むなぁっ!! 」
手を引っ張られて外に消えた2人を見て、ウサギは笑って呟く。
「シーエにあんな風に接する人、初めて見たわ。良かったわね。さて、レイジュに渡せばいいかしら?」
スタンプよろしく日記に足跡をつけて、楽しそうにトコトコと歩いていった。
「それで、兄さんがこれを忘れてニラン山に行ったわけね?」
「そうよ。ごめんね、レイジュもお仕事、忙しいのに」
ウサギが眉を下げると、レイジュは隈のある目で柔らかく微笑んだ。
「いいわ。兄さん、これ、大事にしてるし。いい仕事には気分転換が必要だもの。残り、ミリアちゃんとレイン君のぐらいだし。肩こってきたから、運動したいのよ」
「健気ねぇ。ワガママ、覚えたほうがいいわ。
木は私たちでやっとくから。あの店番の子と一緒に、いってらっしゃい」
「ありがとう。また、あの子も一緒にガールズトークとかしようね。
ファリナちゃん!! お外行こう! ハイキングするから!!
すいません、本日、休業します!」
理由は言えない。兄さんから、シャンレイさんの【食べ物】ナイショにするよう言われてるから。
普通、迷惑そうな顔をしてもいいのに、ウチの子が助かってるなどと皆言ってくれる。この村は暖かいのよ。
刺激が、足りなくても。
[シャンレイが、ごめん]
「兄さん、2人が来てから、楽しそうだもの。自分を生きてるって感じで!
私も嬉しいのよ。
そのコート、よく似合うわ! お使いが終わったら、兄さんに頼んで、絵に描いてもらおうね。手袋してるけど平気? 寒くない?」
[うん。ありがと、レイジュ。ファリナも、鍛えてるから]
そう言って可愛らしく力こぶを作る仕草をするファリナちゃん。こんな妹、欲しいなぁ。
手を繋いで歩いていると、山道の入り口が大きく口を開けていた。
「転ばないようにしてね。特にこの時期は。」
[ラジャー。山登り、得意だよ!]
「あら、もしかして故郷がその辺り?」
なんて、通学路の途中のような会話を交わしながら、地元民以外は案内なしでは必ず遭難する山を、登っていく。
兄さん、私の大切な家族。待っててね。
そして、あの疑り深い兄の初めてのお友達といって間違いないと思う、シャンレイさんも。




