〜木運びのウサギは地獄耳〜
「なぁ、そのお遊戯会さ、いつなの?」
ウチの居候は、暖炉の前に猫顔負けにふてぶてしく寝そべって僕に尋ねた。
あれから数日。都市に行くのは決まったんだけど、今は冬の終わり。雪崩が怖いし、村の学校のお遊戯会、レイジュの一番稼げる仕事が終わっていない。実際、食事も仕事部屋で取ってるし。そんな訳で延期。今、2人はうちの店番をしてもらってる。
「前も言った。まだかかるよ。あとさ、君がそこで寝てると僕が寒い!」
「寝てません、起きてますー!」
「起きてるならどいてくれよ」
「寒いからヤダね!
てか、気になってたんだけど、お前らの食料って、どうやって取ってんの? 人来ないんだろ、この時期?」
「寒いのにこんな村に来る方が物好きかな?
あー、もしかして都市って動物いない? 兎とか、鹿とか」
「俺らぐらいかよ。
ウサギ? シカ? 耳付きや角付きのイーターのことか?」
「待って。何言ってんの? 確かにイーターと言えなくもないけど。
あぁ、噂をしたら。そこに居て。よく分かるよ」
は? みたいな彼の声を聞きながら、その真上の天窓を開ける。
「持ってきた!」という勢いのある声と共に、ウサギが彼の頭に落下した。
「何だよ、コイツ!」
「さっき話してたウサギだよ。昔は四つ足だつたらしいけど、今は二足歩行できるし、話せるぞ」
「見りゃ分かる! で、ウサギが食料配達人?」
「そうよ。アンタの言ってた耳付きの子らとも仲良くしてるわ。シーエ。この黒髪ロングが言ってたのは、人に私らみたいな動物の耳が付いている子らのことよ」
「その呼び方本気でヤメろ。都市の初対面のやつ、俺が黙ってたら、そんな風に呼んで女扱いするし、しゃべったら裏切られた感満載でこっち見る!」
思い出したのか、武器まで握りしめて震えてるシャンレイに思わず笑うと、睨まれた。
かがんで彼らに言葉をかける。
「表に置いてくれたんだよね? ありがとう。このシャンレイもどいたし、温もっていきなよ」
「お言葉に甘えるわ。そうそう、まぁたメイヤーのとこに馬来てたわ。あのしゃべり方、種族的なものらしいけど、直せばいいのに」
「馬は便利だろ。都市にもいる。あれ、あいつら喋らないな?
金持ちは馬車欲しがってるけど。お前らの食料がもっと無くなるぞ?」
「それなら、署名運動、うちにも数年前にきたよ。もちろんした」
お前ならそうだと思った、と今度はこっちが苦笑いされた。
「都市ついたら、俺の知ってる都市の耳付き、紹介させろよ。変人だけど、お前となら気が合いそうだ」
ドアを開けたまま、はいはい、と返事をして木を引っ張り込む。葉の量も多いし、太い。1週間以上はもつだろう。根っこの方をシャンレイも持ってくれた。
「そうそう。ジャラジャラ煩いの、また山に登っていこうとしてたわ。 【きぞく】 じゃない?」
その言葉に、彼も僕も動きを止めて。
せっかく引っ張りあげた木が、ずり落ちた。




