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捨てられた水

これは単なる日常の一コマを切り取った似非エッセイです。

 駅のホームにある自動販売機の取り出し口に、それは置いてあった。ディスプレイを眺める内に自分が飲みたいと思った、いろはすのもも味が。ほんの気まぐれだった。特別好きだったという訳ではなく、完全にその時の気分に思考を任せた結果がいろはすだった。

 それが何故。お金を入れてないにも関わらず、既に出てあるのか。

 考えてみればすぐに分かる。誰かが買ったいろはすのもも味が、なんらかの事情で放置されていたのだろう。それを最初に発見したのが自分だったというだけ。経緯が容易に想像できるならば、大したことではない。

 だが、そこでふと思った。誰も取らなかったこのいろはすは自分が貰ってもいいのではないだろうか、と。いや、それは窃盗に当たる(正確に言えば、遺失物横領罪か)。その罪を犯すと懲役一年以下、または十万円以下の罰金が科せられるらしい。たかがいろはすのために、そこまで重い咎を背負うなど愚行も甚だしい。どうせ捕まるならもっと得した気分になるような────もちろん冗談だ。

 とはいえ、自分が見つけてしまった以上は自分自身でどうにか対処するしかあるまい。順当な手続きを取るなら、駅員にこのいろはすを渡すべきだ。しかし、たかがいろはすだ。これを持って来られたところで駅員は快く引き取るだろうか。いつ何が起きてもすぐに対応できるように常時気を張っているであろう駅員に対して、人間の一日分の水分補給量の三分の一程度しかない水を渡すなど侮辱に値するのではないか。食べ物ではないので腐る心配は無いが、それを落とし物として駅員から警察に届けられたところで、一体誰が取りに来るというのか。

 思考の末、自分はまだ未開封のいろはすもも味を手に取る。ひんやりとした冷感が掌に伝わる。その足で駅のトイレまで引き返し、手洗い場へ。そこでいろはすのキャップを開け、中の水を全て流す。空っぽになったペットボトルは、キャップと分けてゴミ箱へ。

 落とし物を口にするのは人としてどうかと思ったが故の帰結だった。

似非エッセイだから間違っても訴えないで。

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