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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
97/107

それはまたも唐突に

 国境まで続く街道沿いの安全を確保して、道の復旧作業に着手してから一週間経ちました。

 今の所は九尾の襲撃も無く、街道の街、正式な名前は【フォルーナの街】の復興に向けて、職人さんや兵士、仲間の皆が頑張っています。


 本来なら、僕が眠っている合間に周辺の復興が成されているのが理想なのかもしれませんが、シズカさんが生前の頃はプリシラとアビスちゃんの三人で霊峰に出向いたり、世界を旅していたのです。理由はミツキさんの手掛かりを探す為です。


 一番何かしらの手掛かりがありそうだった霊峰ですが、二人で頂上まで行った所、火の鳥は不在で人がいたような形跡も痕跡も無かったようです。霊峰が駄目だと、もう世界中の遺跡を探すしか手が無かったので、旅に殆どの時間を費やしたのです。僕はそれで良かったと思っていますし、城と城下町の維持はしっかりとされていましたから。


 プリシラのお話を聞く限りでは、とても充実した、素敵な思い出の旅になったと言っていました。結果的には、ミツキさんの手掛かりは見つからなかったんですけど、シズカさんは旅に付き合ってくれた二人に笑顔で感謝していたそうです。それは二人へのセクハラ染みた行為まで行く程に。と付け加えられてドン引きするまでがワンセットでした……。本当にマイペースな伝説的人物ですね。


 復旧作業に着手してから、プリシラとアビスちゃんのコンビは一際輝いています。

 シズカさんとの旅もあって、プリシラとアビスちゃんは本当の姉妹のように仲が一層深まっていて、二人を見ていると余りの甘さに砂糖吐きそうです。


 プリシラが言っていましたが、シズカさんが天寿を全うした後、泣き崩れて自失していた自分を、アビスちゃんは小さい体で一生懸命支えてくれたそうです。きっと、アビスちゃんは大事な人を失う気持ちを痛い程理解していたからだと思います。そんな事されたら、愛に似た感情に変わってもおかしくないですよね。


 そして、僕以外の皆が同族化から目覚めた辺りで、国の中にモンスターが出現し始め、復興は先送りになっていた、という訳です。そんな状態の中、突然現れたのが九尾ですから、この女の子がモンスター激増の原因なのは疑うべくもないです。モンスターを引き連れて城を襲撃しようとしてましたし。


 作業を現地視察しに来ていた僕は、皆の作業を見つめながらそんな風に考えていると、僕の考えが解るプリシラが、作業指示と必要な資材を国境まで仕入れる段取りを決め終えて近づいてきます。


「あの女狐、いつになったら来るのかしら。来て欲しい訳では無いけれど、復興をしていく上で言えば、安全性は無きに等しいわ」

「そうですね。いつ何処で何をするのか解らないので、引き続き皆には警戒を怠らないように注意を促してください」

「ええ。だけど、万が一にも私の大事な者を奪うような行為をされたら、また国を滅ぼしかねない力で暴走してしまうかもしれないわ……」

「ふぅん。それはそれで見てみたいぞ」

「見たい訳無いです。復興している所をまた自ら壊したら、プリシラの心が砕けちゃいます」

「そういうもんか」


 取り合えず、現状は警戒し続けるしか無いですね。せめて皆の命だけは狙わないで欲しいんですけど。

 僕だって大事な皆を失ったら、世界が壊れようとも復讐するでしょう。

 そうならないよう……ん?


 プリシラが青ざめて硬直しています。

 僕も青ざめています。


 僕の隣に何かいます。

 でも、その何かは大体間違い無い人物です。そもそも今喋ってました。会話に混ざってました。


 ずっと修行を続けていたので、強さに比例して大分前から「予感」が機能していませんでしたが、今も自分の命に係わる危険な予感はしないので、僕を殺す気は無いようです。けど、隣に来るまで気付かないなんて。「予感」は駄目でも「直感」はあっても良い筈なのに。


 何を考えても無駄です。もう隣にいるのが全てです。仕方ない……。


完全無(インヴァリ)

「妖術・幻依封縛」


 無効化能力を上回る速さで口を封じられました。

 僕とプリシラは金縛りにあったように身動きが取れず、喋る事も出来ません。

 その状態の中、隣にいた人物、九尾が僕を抱きしめながら胸の中に顔を埋めてきました。


「私が来るのを待っていたのか。私は可愛いからな。早く私とシタいのは解るが、そうイキり立つな」


 そう言いながら僕の体を弄びます。良く解りませんが、変な事をしたいのはそっちでしょう!

 助けを呼びたくても喋れませんし、ここは作業現場から少し離れているので、周りには誰もいません。


「別に殺しに来た訳じゃないから安心しろ。始めは暇つぶしに国家指定級を殺そうとは思ったが、銀の髪のお前に嫌われては面倒だ。妃とするならば相思相愛が望ましい」


 こんな事を僕にしている時点で、嫌う理由は既に達成されていると思うんですが。

 ていうか、本当にそんな単純な理由で襲ってきたんですか……。

 破壊と無差別殺人が目的じゃ無いだけマシかもしれませんが。


「取り合えず。国家指定級、名は確か……プリシラだったか。この銀の髪は私が頂いていく。こいつを娶った暁には、式に貴様らも呼んでやるぞ。貴様らにとっては謎とされている地下世界への招待だ。喜ぶがいい」


 そう九尾が言うと、九本の尻尾の中に僕は隠されます。もふもふしてて気持ちよく、とても良い匂いがします。その尻尾に巻き付かれたまま、僕と九尾は地面の中に沈むように消えていきました。


 -----------


「獲れたばかりの魚と、栄養価の高い野草を一緒に蒸し焼きにしました」


 頭に猫耳があるメイドさんが、透き通った水晶のような物で出来たテーブルの上に、美味しそうな料理を更にまた一品追加しました。

 僕は今、水晶のテーブルの上にある沢山のご飯を夢中になって食べています。


「……」


 それを、なんだこいつ的な目で見ている九尾。


「おい、お前」

むぐむぐ?(なんでしょうか)

「……。いや、やっぱりいい……」


 引き続きご飯と格闘を続行する僕。

 九尾はドレスの裾をギュッと両手で握って何か悔しそうです。


「私の初めてより食い物を取るとは……本当に私の魅力は食い物以下なのか……?」


 そんな事をぶつぶつと呟いて落ち込んでいるようです。


 それで。

 何故僕が平然とご飯を食べているのかと言うと。要は僕のご機嫌取りです。

 九尾が僕を「ここ」に連れてきてから、ご飯までの経緯ですが……。


 先ず僕は九尾に捕らわれました。

 巻き付いていた尻尾から解放されると、広大な洞窟の中にいるかのような景色が目に映ります。

 そして、九尾はお姫様抱っこをするように僕を抱えて歩き出します。


 九尾が歩いている最中、目に映るのは海底神殿で遭遇した魚人の群れでした。

 九尾が通ると、無表情のまま首を垂れる魚人達。どうやら魚人は地上世界で言う所の、兵士のような役割のようです。


 あと一つ驚いた事があります。周囲にある鍾乳石のような柱に「ランタン」が取り付けられているんです。これはレイシアが苦心して編み出したウィスプの街灯のような物ですが、魔法具のそれよりも遥かに明るいです。


 九尾は洞窟の隅に歩いていくと、大きな扉の前に着きました。

 そして、その大きな扉を開くと。


 広大な都市が広がりました。


 海底神殿の入り口のように、階段から下を見下ろす形です。

 とても広い都市が眼下に映っています。


 眼下に映る街並みは、灯りがふんだんに使われていて、まるで明るすぎる夜景のようです。

 その都市を目指してピラミッド型の階段を九尾が下りて行くと、一旦小さな広場に出ました。更に隅に歩いていくと、地面に魔法陣があります。九尾はその魔方陣の上に乗りました。


「宮殿に転移」


 そう呟くと周囲の景色が一変し、海底神殿と似たような作りの建物の前に立っています。

 地上のお城をややオープンにした、開放的なお城と言った所です。


 その九尾の言う宮殿の中に入っていくと、またもや驚いた事があります。

 宮殿の奥から可愛いメイドさん達が近寄って来て、九尾に向かってお辞儀をします。

 ここまでは、地上のメイドさんと別に何も変わりません。


 驚いたのは、メイドさん達が【獣人】だった事です。

 学院に在籍していた頃、休息時間の暇つぶしに大図書館に何度か立ち寄った事があります。そして読んだ書物の中に、伝説上の存在として、頭に獣の耳が生えた人種がいたと書かれた本があったのを思い出します。


 この地下世界は、その伝説上の獣人の世界でした。


 獣人のメイドさん達に先導されるように九尾も後を着いていくと、とある部屋に通されます。恐らく彼女の自室と思われる部屋に僕は運び込まれました。

 地上の貴族の屋敷となんら遜色ない豪華な部屋ですが、部屋を飾り付ける装飾品や調度品がとても女の子らしさが出ていて、九尾の趣味が部屋に表れているようです。


 そこから、ピンク色の透き通ったシルクの天幕がついたベッドに近づくと、僕はその上に放り投げられました。とてもフカフカです。


 目線だけは動かせるので、僕を放り投げた九尾を見ていると、何かもじもじしています。自問自答しているようですが、聞こえません。やがて決心したかのように、僕に近づいてきます。


「銀の髪のお前。私は本気だ。本気でお前を愛してしまったんだ。だから……お前に気に入られるにはどうすればいいか、考えたのだが。やはり、これが一番だろう」


 そう言うと、九尾は来ているドレスを脱ぎ始めました。

 その行為に僕は異を唱えたいですが喋れません。


「あぁ、動けなければ行為にも及べないか。仕方ないから妖術を解除してやる」


 ようやく、体の自由が利くようになったようです。

 九尾はベッドに乗ると、僕の体に重なってきました。


「私は……その、初めてなんだ。だから出来るだけ優しくしてくれ……」


 頬を赤く染めながらそう言うと。

 下着だけになった九尾が僕にキスをしようとしました。

 その瞬間。


 ポカっとチョップをお見舞いしました。


「きゃうっ!?」


 可愛い声と同時に頭を抑える九尾。


「ちょっと落ち着いてください。僕はこんな事で喜んだりしませんし、求めてもいません」


 嘘です。ほんとは少し興味はあります。元々男の子だったせいもあるのか、可愛い子から迫られたらドキドキします。でも、そういう行為はちゃんと段階を踏むべきです。


「私の初めてがいらない……? 馬鹿な事言うな! 一体それ以上に何が望みだと言うんだ!」


 別に望んでないし、元の場所に帰して欲しいんですが。

 恐らく今それを言っても無駄でしょうし、ここで彼女を無力化したらもっと帰してくれないでしょう。

 黙って流れに従っておきます。


「ご飯を要求します」

「……は?」

「ご飯が食べたいです。僕の事が好きなら、要求に答えてくれますよね?」


 寝ている僕は九尾の顔を見上げる形でそう言います。

 それを聞いた九尾は僕から離れて、ペタンと女の子座りで放心してしまいました。

 何やらぶつぶつ呟いていたので耳を澄ましみると。


「私が食い物以下……? この私の求愛行動が?」


 あの、放心するのはいいんですが、目に毒なのでせめて膨らみかけの胸を隠してください……。

 

 そんな訳で。

 九尾に連れられて食卓の間に着くと、丸い水晶のようなテーブルに座るよう促されます。

 そこから次々と地上では食べた事の無い魚介類の料理がテーブルに並び、地底世界の美味しい料理を頂く事が出来たのでした。


 

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