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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
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現在の世界

 皆が数日間、食事中になると怯えるようになったきっかけの夜。

 ご飯を食べている最中に我に返り、血の気が引いていく感覚に襲われたので、すぐ皆に謝ろうとした所。

 レイシアが親に叱られた子供のように泣いてしまっていて、プリシラから「今だけでも許してあげて」と言われ、黙っている僕。


 今だけも何も、レイシアはちゃんとした理由で僕のご飯をお預けしていただけなので、そこに手を上げた僕の方が悪いです。いくら自分を見失うほど飢餓に狂ってたとしても……。


 冷静に考えると僕、この世界に来たばかりの時もご飯が食べられなくて苦しんでましたっけ。

 自分を擁護するのもアレなんですけど、そういった過去の経緯も狂った理由にある気がします。


 レイシアは人間だった頃も併せて六十年程生きているとはいえ、内面は子供のままのようです。それはここにいる皆も同じで、そこは汲み取ってあげないといけません。レイシアには後で沢山謝っておきます。


 周囲にいる皆に目を向けると、完全に怯えてしまっています。

 僕、よっぽど酷い状態だったようで、アビスちゃんとミルリアちゃんが子猫が寄り添うように抱き合って震えてます……。


 その後、僕は元々いた世界の誠意の表し方の一つ「土下座」で皆に謝りました。見慣れない姿勢に戸惑いながらも、謝られている、という事は皆理解してくれたようで許してはくれました。

 けど、暫くご飯の時間になると怯えられるという状況はどうしようも無かったです。


 暫く経って、プリシラから「目覚めた後に抗えないほどの空腹感に襲われる」、と聞かされ「なんで先に教えてくれなかったんですか!」とキレたのはまた別の話。


 --------------


 九尾の襲来から三日後。

 空いた時間に場内で運動をしていると、同族化した体に大分馴染んできているのが解ります。皆と兵士詰め所にある訓練場で手合わせをした感じ、特に体に異常は無いみたいです。


 訓練の後、王女として国を作っていく為に必要な知識をプリシラやエステルさんに教わりつつ、レイシア、エリーナと共に周辺地域復興に向けての具体的な道筋、闊歩するモンスターの排除についてなど、小まめに示し合わせをしています。


 この三日間、討伐隊をローテーションで数部隊組み合わせながら、少しずつ城の周辺地域からモンスターの生息域を減らして行きました。具体的には国境に繋がる街道沿いを中心にです。


 皆と話し合い、先ず第一優先にしようと決めたのは、過去に国境とお城の合間に存在した街の復興です。今後、国外から建築家や商人、移民者を呼び寄せる上で、この国境と城の合間にあった街は、とても重要な中継地点になります。この街が機能すれば北側に直接復興の足を伸ばしていけるので、何をするにも足がかりになる大切な街なのです。


 城下町に現存する職人さんの力を得て、先ずは荒れ果てた街道の整備が必要です。地面が荒れていると、馬車もかなり揺れますからね。


 そして、一番警戒している事。それは勿論九尾の再襲来です。

 彼女は城の西側から来ました。なので、西側方面には監視の目を強化し、西の荒野を定期的に巡回するなど、おかしな点があれば直ぐに対応可能な状態にしてあります。


 必ずしも西側から来るとは限りませんが、国内の地図を見る限り、東南北に拠点となりえる場所は無いと思われます。

 東側は復興の為戦力が集中していますので、怪しい場所があれば直ぐに気づきますし、北側は何もない荒野が暫く続き、雪が積る山岳地帯があるのみです。勿論、そんな北側にも警戒の目は置いてますけどね。南側は神都エウラスと山で隔たれています。他国からこの国に入るには、南東に位置する国境から入国しなければいけません。


 因みに、西側には以前港町がありました。ここからエウラスとの海路が繋がっていましたが、当然今は港町はありませんし、九尾が来た方角なので放棄されています。

 九尾は地底世界の住人という話でしたが、もしかすると海に面する大陸沿いに何かあるのかもしれません。


 ここまでが皆と話し合い、周知した内容です。

 後は何故九尾がこの国を襲うのかです。


 暇つぶしと称してプリシラとアビスちゃんに戦いを仕掛けに来たようですが、本当にそんな理由だけでしょうか。とはいえ、こんな何も無い国を奪い取るのが目的だとしても、それはそれでおかしな話でもあります。奪うなら王都等の豊かな国の方が余程理に叶っていますし、彼女の実力を考えれば、王都が誇る古代魔法具すらも余り意味を成さないと思います。


 国の破壊が目的ならなをさら他国の方がいいでしょう。この国はこの城以外何もありません。

 九尾の目的が読めないので、他国の情勢も一応しっかり把握しています。


 隣の「元」公国はこの百五十年で大きく改革し、現在はセイルヴァル王国になりました。奴隷制度を廃止して、魔法具大国として名を馳せています。ベルステンさんが国の改革に大きく貢献したようですね。


 神都エウラスは僕が永い眠りにつく時に居た、歴代最悪と称された第一巫女姫の悪評をにより、国のイメージがダウンしています。現在はとても良く出来た巫女姫さんが治めているので、全力で悪化したイメージを回復すると共に、国の在り方の見直しを図っているそうです。


 そして南東にあるベルドア王国は現在、間違いなく世界一の大国です。今も変わらず魔法学院と聖白騎士団(ホワイトナイト)は国の両翼となり、数々の学院生が残した功績を元に、国の発展が著しいです。

 僕の残したクリスマスも今や世界に広がって、毎年大人気の行事になっているとか。あ、時計も王都を中心に既に世界に浸透済みです。

 そしてレイチェルさんですが、プリシラの蝙蝠で連絡を取る限り今も学長さんをしています。元気だから余計な心配するな、との事です。変わらないそっけなさが逆に嬉しいです。国が落ち着いたら、絶対レイチェルさんに会いに行きますよ。


 倭国ムラクモは最近、火の鳥が姿を現すようになった、との事。霊峰を遠めに眺めると、頂上を飛んでいる姿を見る事があるらしいです。国自体は僕がお世話になったコウガ王の頃から特に変わった所は無いようです。一つだけ言えば、宝石の原石が世界一の輸出国なので、その関係上セイルヴァル王国と堅い友好関係を結んでいます。


 最後、エルフの国シャイアですが。この国にしてみれば百五十年など、数年程度の感覚なので変わった事など何もありません。というか、余りこの国に詳しく無いだけですけど。

 あ、シルフィちゃんとウェイル君はこの国に一度行ったらしく、国につくなり大歓迎を受けたとか。ハーフだからと嫌われたり、差別されるような事は一切ありません。その証拠に国の長を補佐する役目の人もハーフだそうです。シルフィちゃんとウェイル君は世界有数の称号を持つので、エルフの希望の光と称され、長から祝福を受けています。因みに長は、学院修業式に来ていたあの女性です。


 世界は概ねこんな感じで平和です。九尾が他国を襲った形跡はまったく無いのです。ですが目的が読めない以上、今後も襲わないとは限りませんので、レイチェルさんを介して各国に警戒を呼び掛けています。


 そういえば、この国には誤認能力が常に働いているのに、まったく九尾に効いてませんでしたね。ほんと、色んな意味で規格外の人物です。


 あ、九尾の目的が解らないってずっと思ってましたけど。


 それは最初の襲撃の事で、今は僕をお嫁さんにするっていう目的が出来たんですよね。うーん……お嫁さんはちょっと遠慮したいですが、友好的な解決方法でなんとか仲良く出来ないものでしょうか。

 

余り女の子と戦うのは気が進まないので。等と考えていると、早速頭の中にプリシラから怒鳴り声が飛んでくるのでした。


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