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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
95/107

会議とご飯

「なんなのよあの女。狐風情のくせに!」

「見た感じ、12歳前後にしか見えない女の子でしたね」

「相手は測定不能の古代種よ。見た目通りの年齢な訳無いでしょう」

「プリシラ、ご機嫌斜めですね……」

「ふんっ」


 九尾襲来の後。

 各方面に出向いていた討伐隊がお城に帰還し、仲間皆がそろった所で緊急会議を開いていました。

 討伐隊の皆とは会議直前で再会を喜び合いました。ミルリアちゃんに至っては泣きながら僕を抱きしめてきて、プリシラに注意を受けるまで解放してくれませんでした。再会を喜んでくれるのは嬉しいですけどね。


 そして皆とは改めてゆっくりとお話しする事にして、長方形の大きなテーブルがある軍事用の会議室で緊急会議を始めたのですが。

 始まるや否や、僕の右向かいに座るプリシラがとってもご立腹です。

 今は腕を組んでそっぽを向いています。


「そもそもよ。聞いて頂戴、皆。あの女狐は私達のミズファを娶るなんて戯言を言ったのよ! そんな屈辱的な発言をみすみす許し、ただ見ているだけだったなんて……思い出しただけで腹立たしいわ!」


 あのプリシラがこんなに取り乱すなんてびっくりです。よっぽど九尾のお嫁さん発言が癪に障ったようです。


「妾の居る場所にまでその九尾とやらの魔力が届いておったぞ。妾じゃからこそ感じ取れたとも言えるが。魔王の言うその化け物の戯言は、妾としても捨て置く事はできぬ発言じゃな」

「同感だよ。その九尾とやらがどんだけ強いのかしらないけど、あたしの許可も無く愛娘を嫁に貰うだなんて、笑わせないで欲しいな」


 ツバキさんとエリーナが殺気染みたオーラを放っています。怖いです。


「プリシラ様やアビス様を前にしても、優位にいるように振る舞う程の存在、ですか……。しかも、ミズファの力を目の当たりにしたにも関わらず、娶る等と……。気の遠くなるような強大な存在ですね、その九尾という方は。そして、その方の発言には苛立ちを覚えますので、プリシラ様のお気持ちに賛同致します」

「我が主様を、奪う行為は……絶対に許す事は、できません。主様の気持ちを、無視した一方的な……独りよがりです」

「求婚は珍しい物でも無いですけど、相手がミズファ様でしたら、話は別です。ミズファ様は私達と運命を共にされているんですから、略奪行為に他なりません。断固として阻止します」


 続いて、レイシア、ミルリアちゃん、エステルさんが異を唱えています。

 もはや会議というより、九尾への悪口大会のような状態になってきていました。


「ミズファお姉様。そのような求婚は勿論、お断り致しますわよね?」


 とても大事なお話、と言わんばかりに真面目な顔で僕に訴えるシルフィちゃん。150年の時を経て、人間の基準で言えば12歳程度に成長し、とても可憐な少女へと育っていました。人間としては成人と認められる手前ですね。


「シルフィ姉さん。それは質問じゃなくて強要じゃないかな」


 その隣に座っていたウェイル君。

 あんなに無邪気に元気だった子が、落ち着いた柔らかな少年へと成長しています。

 ウェイル君は既に、このお城のメイドさんや国民の若い女の子達から絶大な人気を誇っています。


「ウェイル。貴方だって大事なミズファお姉様を取られたら嫌でしょう? そこは落ち着く所ではなく、怒る場面ですわよ!」

「うん、まぁ確かに嫌だけどね。でもその九尾と言う人を倒すなら、断る必要も無いと思うからさ」

「う……確かに」


 姉のヒートアップをなだめるウェイル君。良くできた弟です。


「ウェイルの言う通り、九尾を倒せばそれで済む話なのだけれど。とても腹立たしい事に、私やアビスですら倒す事は難しいのよ。その理由と相手の解っている能力を伝えておくわ」


 僕が出会った九尾について、プリシラが皆に説明します。

 先ず、以前プリシラは僕の魔力を計る事が出来ないと言っていました。その時点で僕も測定不能の古代種の領域に足を踏み入れていたようです。

 感知能力が高い者なら、人やモンスターの持つ魔力から大体の強さを測れます。その魔力を測れる内はどうにか倒せる範囲内ですが、測れない相手だと倒せるかどうかも解らない程強い、という事になります。

 余りに強大な相手だと、感知能力など無関無く「恐怖」という形で相手の力量を知る事になるでしょう。


 そして、九尾は僕の魔力総量を言い当てました。

 僕に勝てる見込みがある事を意味しています。


 そして、九尾は「御魂」と呼ばれる謎の自身複写能力を持ち、倒せたとしても本体では無い可能性が高いと言う事です。その本体ですら無い相手に勝てるかどうか解らないのですから、プリシラが憤るのも無理は無いかもしれません。


「それは厄介じゃな……。下手を打てば、ミズファ以外が遭遇すれば容易く殺される可能性もあるかの」

「今後は必ず複数で行動致しましょう。九尾という方がどのような行動に出るか解りませんので」

「そうだねぇ。討伐に出向いた皆が帰ってこないなんてのは御免被るよぉ」

「ねぇねぇ」


 今後討伐隊は一部隊での行動を禁止する方向性で話を進めようと思った矢先、アビスちゃんから何か提案があるようです。


「どうしました、アビスちゃん」

「んと、おなかすいた!」

「……」


 うん、腹がすいては戦など出来ないと元々居た世界で先人が残していますし、重要な提案です。

 場の緊張感が一気に吹き飛んでしまいました。


「時間的にディナーの用意も出来ている頃でしょう。そろそろ食事にしましょうか」


 プリシラがアビスちゃんの頭に手を置きながらそう言います。

 そういえば僕もなんか妙にお腹がすいてきている気がします。丁度いいですね。


 -----------


 夜のご飯の席。

 白いクロスが長方形のテーブルにかけられ、その上に沢山の料理が並んでいます。

 皆は談笑しながら美味しそうに食事していました。

 それを見つめていた僕は、我慢できずにレイシアにお願いします。


「あの、レイシア」

「何でしょうか」

「あのですね」

「ええ」

「ご飯をください……」

「だめです」

「……」


 涙目でご飯を要求する僕。

 このやり取りは一度、ベルゼナウの街でしているのですが、今回は断られました。


 最初は食べる気満々だった僕ですが、モンスター討伐にすっ飛んでいった事が王女にあるまじき行動だとレイシアから怒られ、その罰として夜ご飯を抜きにされました……。


「だって僕、起きたばかりだったんですよ! 準備運動のつもりでいたんです」

「そうですか。準備運動は今後、城内で行って下さい」

「うぅ……」


 時間が経つにつれて、凄い勢いでお腹がすいてきました。

 ハラペコなのはいつもの事ですが、今の僕は凄まじい飢餓に苦しむような状態です。


「あの、割と本気でご飯食べたいんですけど……」

「ミズファちゃん、そんなに食べたいのかなぁ?」

「うん、食べたいです!」

「うんうん、そっかぁ」


 エリーナが食べさせてくれそうでした。今の僕には本当の親に見えます。


「ちょっと待っててねぇ」

「うん、解りました!」


 わくわくして待ちます。

 わくわくして待つのですが。


 エリーナはそれ以降、僕など存在していないように食事を続けています。


「あの、エリーナ」

「ん、なにかなぁ?」

「いつまで待てばいいのでしょうか」

「次のメルまでかなぁ」

「……」


 明日?

 え、死にますよ僕。自分の腕にすら齧り付きそうですよ?

 食べ物が視界に入る分、拷問に拍車がかかります。


 どうして僕こんな酷い目に合ってるんだろう。

 あ、じゃあ奪い取ればいいんだ。なんで気づかなかったんだろう。


 おもむろに席を立つ僕。

 それを見たプリシラがナイフを手から落とします。


「レイシア。まずいわよ……」

「どうしました、プリシラ様」

「ミズファが……」


 僕に振り返るレイシア。そして恐怖に引きつった表情になります。

 その瞬間、僕は一気に殺気を国全体に広げます。


 飢えに苦しむ僕は、そのまま皆に攻撃魔法を放つと、部屋の中がパニックになりました。

 いい気味です。逃げ惑う皆を無視して美味しいご飯を食べる僕。

 殺さないだけありがたく思えです。


 そして。

 暫く食べた後に、我に返りました。


 周囲が大惨事になっています。

 地面に落ちていたご飯を無我夢中で食べていたらしい僕はアビスちゃんと視線が合うと、「ひっ」って言われました。

 皆もドレスが破けていたりして、酷い格好で怯えています。


 その後。数日の間、ご飯の時間になると皆終始無言で、震えながら食べていました。


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