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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
94/107

突然の来訪者

 目覚めてから先ず始めに行きたかった場所。

 プリシラ達に連れて行って貰い、そこに到着します。


 城の裏手に特別に作られた場所。

 その場所は花壇で四角に囲われており、綺麗な赤い花が咲き乱れています。そしてその中央には、とても大きな墓標が建てられていました。

 僕は墓標の前に立つと、ここへと来る途中に用意した花束を供え、ゆっくりと話しかけます。


「お早うございます、シズカさん。僕だけ目覚めのご報告が遅れて御免なさい。ちょっと寝坊してしまいました。でもこの通り、僕もちゃんと同族化を果たしましたよ。寝坊した分、しっかりとこの国の復興に向けて頑張りますから、見ててくださいね」


 僕が眠っている間、沢山の出来事があった事と思います。

 シズカさんがこの国の為、プリシラの為にしてきた事、全部僕が引き継ぎます。


 そして、ここに来る途中プリシラから聞きました。

 生前に、ミツキさんの手掛かりを見つけられなかった事。だから、どんなに時間が掛かっても僕が必ず見つけて見せます。


 シズカさんへの新たな誓いを胸に秘めて、墓標へとお辞儀をして振り返ります。

 僕の考えが解るプリシラが、大粒の涙をこぼしていました。

 そんな彼女に近寄ると、僕は指でそっと涙を拭ってあげます。


「ミズファ……有難う」

「うん、大好きなプリシラとシズカさんの為ですから!」


 笑顔でプリシラに返事をします。

 それと合わせて兵士さんが一人、慌てて走ってきました。レイシアが用件を聞くと、どうやら西側の荒野からモンスターがこの城へ向かって来ているとの事。数は約30匹前後の見込みだそうです。


 それを聞き、最初の僕のお仕事は決まりました。


「なら、そのモンスターはこの僕が直々に葬ってあげますよ!」


 皆へ一方的にそう言うと、返事も聞かず城門へパタパタと元気に駆けて行く僕。


「こらぁ、ミズファちゃん! 急に走らないでってずっと前から言ってるでしょー! あと、王女なんだから軽率な行動禁止ー! ってアビスちゃんまで走らないのーー!」


 エリーナが久しぶりのお母さんモードですが、無視です。

 ずっと寝ていた訳ですし、リハビリも兼ねて早く戦いたいので!

 一緒に「わーい、みずふぁとかけっこー」と言いながら走って来たアビスちゃんと共に、皆の前から去っていく僕達なのでした。


「ミズファはやっぱり、ミズファのままですね」

「そうね。けれど、中々起きてこないものだから、皆の心配した時期がどれだけ長かったか、解っているのかしらあの子」

「後でミズファちゃんにはお小言決定だねぇ」

「あぁそうです、名案があります。夜になれば、眠っていた反動で急激にお腹がすくでしょうから、軽率な行動を控えて頂く為に、今宵のミズファのディナーは抜きに致しましょう」

「レイシア、とても酷い拷問ねそれは……」

「それはいいアイデアだねぇ。泣いてすがり付いてくるミズファちゃんが思い浮かぶよぉ」


 何か三人で話していたようですが、当然僕には聞こえませんでした。


 ---------------


 アビスちゃんと一緒に城下町へと出ると、西門へと駆けて行きます。

 走りながら周囲を見てみると、明らかに眠りにつく前より国民の数が少ないです。やはり、閉鎖された場所だけで繫栄して行くのは難しいのでしょうか。早急に近隣の街を復興させて、他国に開拓地として宣伝し、沢山の人に移民して貰いましょう。


 その為には。

 先ず湧いているモンスターの駆除です。なんで急に湧き出したのかは僕にもさっぱりですけど、とにかく倒せばいいのです! 時には拳で語る事も必要です。


 やがて西門に到着すると、番兵とアビスちゃんが会話を交わし、門の鉄柵が上がっていきます。


「アビスちゃん、もう立派な国のお偉いさんですね」

「えへへ、もっとほめてー」


 頭をなでなでしてあげると、大変ご満悦なアビスちゃんでした。

 その後西門の外に出て、モンスターの集団が来ると思われる方角を見ます。まだ視認できる位置までは来ていません。


「さて、アビスちゃん。どんなモンスターが来ているか解りますか?」


 僕は少し準備運動等しつつ、余裕を持ってそうアビスちゃんに語り掛けます。

 そんな僕とは逆に、アビスちゃんはモンスターが来る予定の方角を見ていると、少し不安そうな顔をしています。


「みずふぁ、もんすたーの中に強いのがいるよ。そろそろミズファにもわかるとおもう」

「強い?」


 そう言われた後。

 凄まじい魔力と強大なオーラが遠くから近づいてくるのが解りました。


「え、あり得ないです。プリシラとアビスちゃんの数倍魔力が上です。なんですかこれ?」

「たぶん、「きゅーび」だとおもう。わたしも会うのはじめて……」


 恐らく【九尾】でしょうか。近づいてくるその九尾の魔力は、現在の僕の魔力総量の7割にまで及んでいます。尋常ではありません。


「ミズファ!!!」


 後ろから声が聞こえます。プリシラがスカートの裾を摘みながら走ってきました。


「プリシラ。まさか僕に合わせて走ってきたんですか?」

「途中までは優雅に歩いていたわよ。けれど、其れ所じゃないから走ってきたのよ!」


 プリシラの慌て方は、アビスちゃんと出会った海底神殿の比ではありません。

 彼女も当然、この魔力を感じ取っているでしょうから。


「プリシラ。僕はこの世界に国家指定級より強い存在なんか居ないと思っていました。この魔力の持ち主は何ですか?」

「……アビスから名前は聞いているみたいだけれど、一から説明するわ。と言っても、私にもそれ程の知識が有る訳ではないけれど。この魔力の持ち主の名は九尾。【測定不能の古代種】と呼ばれている存在よ……。古代人の遺した碑石によれば、地底世界の主で、外見は人間とほぼ変わらないらしいわ」


 プリシラの説明に嫌な予感がします。

 その嫌な予感に当たる人物が、とうとう視認出来る位置まで来ていました。


「ミズファ、アビス、いつでも本気を出せるようにして置いて頂戴。どうして今になって九尾が姿を現したのか解らないけれど、近隣のモンスター討伐に出向いているツバキやシルフィとウェイルを犠牲にしてでも、この城以外を消滅させる覚悟は必要よ……」


 プリシラとアビスちゃんが最大級の警戒をしている中、僕はまだ近づいてくる人物を注意深く観察していました。その人物は九本の尻尾をゆらゆらと揺らしながら、とても大きな狐型の獣に横座りしています。


 そして。

 二百M付近まで近づいた時、僕の嫌な予感は的中しました。


「どう見ても少女です……」


 思わず口に出しました。

 またですか。何回目ですかこのパターン!

 なんで強いモンスターは皆して女の子なんですか。


「貴女ねぇ……。時と場合を考えなさい。今は其れ所ではないでしょう!!」


 頭の中にプリシラが怒鳴りつけてきました。

 いえ、もう別にいいですけどね……。


 なんか長い金髪に狐耳とか、まさにそれっぽくて可愛いです。けど、衣装はちょっと少女にしては大胆な胸元が開いているタイプのドレスなので、背伸びしている子供に見えます。

 後、狐耳と狐尻尾といえば和服ですよね? ドレスもそれはそれでいいんですけど、やっぱり和服の方が。


「ミズファ……怒るわよ」


 はい……。

 プリシラが本気で怒っているのでそろそろ自重します。

 そして、九尾は配下と思わしきモンスターを遠くに待機させつつ、近づいてきました。


「退屈凌ぎに国家指定級と戯れようと思えば、なんだお前は」


 九尾は訝し気にしつつ、尖った口調で僕に語りかけています。声も少女その物でした。


「もうその手合いはアビスちゃんの時に一度やっているので結構です」


 僕は相手の返事も聞かずに完全無効化(インヴァリッドスキル)を展開しました。

 けれど九尾は僕の不意打ちに少しも驚きもせず、無効化状態になった自分の体に少し視線を下しただけです。


「ふぅん、術式組まないで魔法使うのか。しかも私の能力が使えなくなった」


 そう言いながらも、異様な程落ち着いています。


「随分余裕ですね?」

「戦う前から【御魂】を一つ失ったし、これでも多少は驚いているぞ」


 御魂? 一つ失った? まだ戦える力があると言う事ですか? 完全無効の名は伊達じゃない筈なんですけど。


「お前、今の不可解な能力は何度も使えないようだな。それでも後六回程度は使える魔力はあるのか」


 僕の魔力残量まで言い当てられました。


「まぁいい。「ここにいる私」は使い物にならなくなった。潔く自決してやる。「次の私」に変わった事は数回あるが、御魂を一つ失う事になるのは初めての経験だぞ」

「次の私?」


 僕の疑問に余裕の微笑みで返されます。

 目の前の九尾は、一切能力が使えない事は間違いないんですけど……。「次の私」と九尾は言いました。それで何となく、僕は理解します。


「お前、名前は?」

「敵に名前を教えても、僕に何の利益もありません」

「そうか。なら妃に娶ってから改めて聞いてやる」

「え?」

「伴侶として相応しい力。その愛くるしい顔立ち。私の好みその物だ」


 少女が艶めかしく舌なめずりをしています。

 それを見た僕は、反射的に自分の体に両手を回します。


「一旦仕切り直しとするか。銀色の髪のお前。必ず迎えに来るぞ」


 それだけを最後に言うと。

 突然九尾の体が光だし、「勾玉」のような形状に変わりました。

 それが地面にポトン、と落ちると粉々に砕け散ります。

 それと同時に、配下らしきモンスター達も引き返して行きました。


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