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記憶断片の銀色少女   作者: 澄雫
終章
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荒廃した地

 ベルドア王国と魔都ブラドイリアの国境に差し掛かり、山間を通るように街道を進んでいると。この辺りを見回しても人の往来は無く、とても寂れた印象を受けます。ブラドイリアが鎖国状態になっているのでそれも当然なんですけど。殆ど機能していない関所に着くと、暇そうにしている番兵に書状を見せて門をくぐります。


 すると……辺り一面、地平線の先まで何も無い荒野が広がりました。

 雑草などはチラホラ見かけますが、花や木などはまったく見かけません。


 実際に周囲を確認する為、ここで一度馬車を停めて外へ出る僕達。

 地面に降り立つと、以前は街道だったと思われる石畳が途切れ途切れに残っていました。視線を遠くに移すとずっと先までその爪痕が続いています。


「いやーブラドイリアに来るの初めてだけど、ほんとーに何もないねぇ」


 数歩先に進んで、キョロキョロと見回すエリーナ。


「今までプリシラ様のお力で普通の国だと認識しておりましたから……この事実には大変驚くばかりです」


 レイシアはそう言うと、プリシラの顔を伺っているようです。

 プリシラは重苦しい沈痛な表情をしながら、遠くを見つめています。


「元は街道だったこの道なりに、二メル程進めば魔都に着くわ。途中野営を挟む形になるわね……はぁ、憂鬱だわ……」


 思う所がありそうな雰囲気を出していると思ったら、単に野宿が嫌なだけでした。本当は途中に街があったらしいですが、プリシラが破壊しています。


「ここに来るのも久しぶりですね。プリシラちゃんとの楽しい思い出が詰まっている国ですから」


 シズカさんが頬に手を当てて微笑んでいます。周囲の空気を物ともしない、相変わらずマイペースな人でした。

 そしてその横から、腕を組み考えるような仕草をしながらツバキさんが歩いてきます。


「ふむ……今なを異様な魔力の痕跡が残っておるようじゃな。流石は魔王と言った所かの」


 仲間の中で一番感知能力が高い彼女が遠くを見つめながらそう言います。

 この魔力の痕跡は成長した僕にも感じられます。地平線の空に、黒いモヤのような塊がユラユラと揺れ動いています。それは無数の人の顔が固まって出来ているかの様にも見えました。


 ミルリアちゃんにも感じ取れたらしく、遠くの空を見て震えています。

 プリシラが察したように、怯えるミルリアちゃんに近づき優しく抱き寄せます。


「御免なさいね。魔力が高いと、見せたくない物まで見えてしまうから。どうか、我慢して頂戴」

「あぅ、はい……」


 プリシラよりミルリアちゃんの方が背が高い為、抱き寄せているのは逆に見えます。

 そして、何か感動する場面の筈ですが、ミルリアちゃんがプリシラの頭に頬をすりすりしていたので台無しです。


「で、アンタ達いつまでそうしてるつもり? 出来れば早めに出発して欲しいんだけど」


 馬車の中から顔だけ出して、不機嫌そうに出発を促すレイチェルさん。今回の貴賓のような人なので、皆渋々と馬車に戻っていきます。

 因みに、馭者(ぎょしゃ)は居ません。ミルリアちゃんが代わりに馭者をしてくれています。


 理由はまぁ……。大抵馭者は男の人なんです。なので、魔法で作り出したシャワーを浴びている間、皆の裸を見られたりしたら嫌ですし、僕の収納魔法に入れてある大き目の特注のテントは女性陣だけの聖域です。……冗談は置いといて。現時点では部外者を国に入れたくないのが理由です。


 で……暫く元街道を進んだ後。野営の準備をしてお休みタイムになると、エリーナとレイシアから夜這いをかけられましたのでダブルチョップで撃退して置きました。男の人云々の前に、身内に危険人物がいた事を忘れてました……。


 ------------


 二日後。


 何もない道を進んでいると、お城が見えてきました。王都には及びませんが、公国と同程度には大きいです。因みに道中モンスターには一切遭遇しませんでした。プリシラの残した魔力の痕跡が大きすぎて、モンスターですら恐怖でこの国に近づけないようです。むしろモンスターだからこそ、人間以上に六感が働いて恐怖を感じてしまうんでしょう。


 やがて城の城下町に着き、正門を通ると。

 人々が普通に生活していました。


 見た所、この町と城は城壁に四角形で囲われています。正門から真っすぐ一本道が城まで続いていて、その道の両脇はお店が並んでいるようです。ここから見える分だとそんな感じです。


 そういえば。

 破壊された筈の国で、なんで城と城下町は無事なんでしょうか。

 そんな僕の一瞬の疑問に、プリシラが頭の中に語り掛けてきます。


「正門から見える部分は無事に見えるけれど、多少城も城下町も壊れているわよ。本格的に破壊しようとした所にシズカが現れたという訳ね」


 成程……納得です。

 そして、この何事も無く生活している人々ってもしかして。


「ええ、察しの通り誤認して生活しているわ。そして、三百クオルダ前の生き残りの子孫たちよ」


 そう説明されてもいまいち腑に落ちません。

 他国と関わらなくても、この町だけで生活していけるものなんですか?


「集落や村は基本、外部とは余り関わらないでしょう? それと同じで、生活にはなんら支障は無いわ。それに、村などに比べて城下町は物を作り出せる職人も料理人も沢山いるし、町の隅には畑や牧場もあるわ。いくら無能な私にだって、この城下町だけで自給自足できる程度には国を治める位、できるわよ」


 腰に両手を当てて、褒めてもいいのよ? と言った具合に自慢げなプリシラ。可愛いのでなでてあげます。


「でもね。そこからの先に進もうとすると、震えてしまうのよ。王の真似事は出来る。けれど、ただ……怖いの」


 自慢げな表情がすぐに沈んで俯くプリシラ。

 そんな彼女に僕は語りかけます。


 僕達はプリシラの力になるって決めたんです。これからは、そんな怖さなんて一切感じさせませんから!


「ミズファ……有難う。シズカの事もあるし、貴女には本当にお世話になりっぱなしね。この国の発展は、どんなに苦しくても成し遂げたいの。それが唯一、私のできる償いだから」


 うん、もしプリシラの償いを世界が認めなくても、僕がプリシラを認めます。受け止めます、ずっとです。だから、同族化するまで待っていてくださいね。


「ええ。シズカと一緒に、待っているわ」


 僕とプリシラが会話をしていると気づいているのでしょう、シズカさんが僕達に微笑んでくれています。

 プリシラはそんなシズカさんの笑顔に頬を赤くしながら。


「さて、レイチェルの機嫌も悪い事だし、早速お城に向かいましょうか。ミルリア、城に向かって頂戴」

「畏まり、ました」

「突然何よ!? 私何も言ってないでしょうが!」


 つまらなそうに馬車の窓から外の景色を見ていたレイチェルさんが怒ります。プリシラが照れ隠しの為、レイチェルさんをダシに使いました。


 レイチェルさんが、「後で覚えておきなさいよ!」と言ってますが、プリシラは無視です。酷いです。

 海底神殿から学院生活まで、一緒にいる機会は多かったですけど、この二人が絡む場面を余り見た事がありません。

 でもこの国に来てから、少しずつ「打ち解けた頃」に戻りつつあるのだと思います。


 同族化のお手伝いが終われば、レイチェルさんは国境まで迎えにくる使いの者と共に、学院に戻る事になります。そうすると会う機会が殆ど無くなってしまいます。だから、僕の方から沢山会い行きますよ。それに、沢山修行を積んで、国間移動魔法を可能にすれば、いつだって気軽に会えますしね。


 その後お城に到着すると、主が長期不在の中、城をしっかりと管理維持していたメイドさん達が迎えてくれました。そしてプリシラから豪華な一室を借りて、数日程過ごした後。

 いよいよ、同族化の儀式が始まります。


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