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僕と大きな屋敷2

「さ、ミズファ。私の向かいの席へどうぞ」

「はい、失礼いたします……」


「自前にレイシアから教わった通りに」席へと座ります。

 挨拶と立ち振る舞いもレイシアから習いました。半ば強引に……。


 僕の目から生気が無くなるほど着せ替えさせられた件も含めて、レイシアには後でお話があります。

 お説教です。

 というか、そもそもね。


 レイシアが領主さんの娘さんだなんて僕、一切聞いてないんだけど!?


 凄い所のお嬢様なのはもう……身をもって実感したけれど、その更に上を行っていました。

 本来なら、僕のような身元不明者が近づいていい人物じゃないよね?


 あとこの席順。

 僕のあまり役に立たない記憶の断片では、僕の席はレイシアより目上の席なんだけれど。

 ここでいいの?

 不安な視線をレイシアに向けると、彼女はとってもにこにこしています。

 なにそのかわいい笑顔……。


「なるほど。レイシアは随分とミズファ嬢を大事に思っているようだな」

「勿論です、お父様。私の一番の親友ですもの」

「ふむ、そうか」


 あ、レイシアなりに気を使ってくれてたのね。

 それはそれで大問題だよ……。


 もう逃げ出してしまいたい。

 ここにいるより路地裏で体育座りしてた方が僕にはお似合いだよ。

 こんな凄いお屋敷に僕なんて馴染める訳ないよ。

 滞在する約束をレイシアとしてしまったけれど、これは断って置いた方が……。


「新鮮な魚介類が市場に出ておりましたので、本日の昼食にご用意させて頂きました。米と合わせてパエリア風に仕上げております。どうぞ、お召し上がり下さい」


 老執事風の男の人が美味しそうな料理を僕の前に置いてくれました。


「さ、ミズファ。私達の事はお気になさらず、召し上がって下さい」


 レイシアから促され、慣れない手つきながらも料理を口に運びます。


「~~っ」


 美味しい。

 花畑で気が付いてから食べる最初のご飯。それがこんなに美味しい料理なんて……!


 一口でネガティブは何処かに飛んでいったようです。

 あっさり手のひらを返しました。


 -------------------------


「レイシア、ミズファ嬢が帰られぬ、已むを得ぬ事情とはなんだい?」

「ご両親の痴情のもつれと伺っています」

「な、何?……それは、その。ミズファ嬢、心中察しよう」


 レイシアが唐突に何か言い出しました。

 僕、何か色々失ってはいけない物を失った気がします。


「ミズファは大変心を痛めています。暫くご両親から離れ、心の傷を癒したいとミズファは言っています。大切な親友が辛い思いをしているのですから、手を差し伸べるのは当然の事ですわ、お父様」

「そうか……。うむ……。レイシアの話し相手となってくれるのならば、むしろ私としても助かるが……。解った、滞在を許可しよう。ただし、領主である私がご息女を預かっているなどと公然する事は出来ない。その点は理解して貰いたい」

「有難う御座います、お父様。ミズファには内密にこのお屋敷で過ごして頂きますわ」


 無事? 僕はこのお屋敷に住めるようになったようです。

 ご飯が余りにも美味しくて自我が飛んじゃってたけど、もうこうなったらどうとでもなれです。


「ミズファ、滞在の許可を頂けました。これからは我が家のように寛いで下さいね」

「有難うございます、グラドール様、レイシア様」

「エルフィスで構わない。私もミズファと呼ばせて頂こう。宜しく頼むよミズファ」


 改めてお辞儀する僕。


「ミズファ、早速ですけれど。私の日課にお付き合い頂いても宜しいですか?」

「日課ですか?」

「ええ、常々普段の生活にも転用できる魔法具を作り出せないかと試行錯誤していまして」


 何を言ってるのか解らないけど、凄い事をしてるっていう事はなんとなく解ります。


「ええと、解りました」

「有難う御座います。それでは、昼食後に研究棟へ参りましょう」

「研究棟って……レイシアのですか?」

「ええ私個人の、です。講師の案で作りました。魔法術式の修行も其方で行っています」


 魔法……。

 昨日の夜に見た街灯とかもやっぱり魔法なのかな。

 記憶の断片でも僕は魔法が使用できた形跡はないから、色々興味があります。


「僕に出来る事があるのでしたら、お手伝いしますね」

「本当ですか?ミズファにお手伝い頂けるのでしたら、普段の何倍も効率が上がりそうです」


 とても嬉しそうに微笑むレイシア。

 つい手伝うと言ってしまったけれど、魔法も使えないのに何を手伝うの僕。

 レイシアの笑顔が眩しいです……。


「ミズファも無論、知っている事と思うが、レイシアは【エウラスの風姫】【倭国“ムラクモ”の氷姫】【王都アウロラの炎姫】などと並ぶ【ベルゼナウの光姫】と呼ばれる才女だからな。この街を夜の間、ずっと照らし続ける魔法具を作成したのもレイシアだ」

「お、お父様。恥ずかしいのでお辞め下さい。そもそも、その魔法具は魔力と経費の都合上、照らし出せる範囲は正門周辺だけです!」

「それでも十分偉大な功績だよ。そんなわが娘の自慢話くらい大目に見てくれ」

「もう、お父様ったら……!」


 エルフィスさんをポカポカ叩くレイシアが可愛いです。

 レイシアって本当に凄い子だったんだね。

 僕、だんだん小さい小動物のような気持ちになってきました。


「ミズファ、お父様なんか放っておいて早く参りましょう」

「これは嫌われてしまったな。私は商業区の査察で出かけるが、余り根を詰めすぎないようにな」

「もうお帰りにならずとも、ミズファと二人で暮らしていきますのでお構いなく」


 どことなく本気で言っているようにみえて怖いです……


 そんな親子の触れ合いを見つつ、確信めいた事があります。


 ……ここは【異世界】なんじゃないかなって。


 ----------------------------


 レイシアの研究棟。

 お屋敷の庭に建てられている長方形の建物です。


 建物の中に入ると、イメージとは逆に整理整頓された綺麗な部屋でした。

 部屋の中には沢山の本棚があり、ぎっしりと本で埋まっています。

 研究室というより図書室かな?


 と、思えたのは入り口だけみたい。


 更に奥に進むと、今度は机が複数設置されていて、その上には腕輪、耳飾り、首飾り、指輪等が沢山置いてあります。

 レイシアのかな? まだ僕と同じくらいの少女とはいえ、女の子だもんね。

 装飾品はどれも色鮮やかな、大きな宝石がついています。

 とっても綺麗。


 ん? 宝石の中で何か渦を巻いてます。

 なんだろう?


「ミズファ。散らかっておりますが、其方の椅子にお座り下さいな」

「はい」


 装飾品が置かれている机に促され、レイシアと一緒に座ります。


「凄いですね。こんな大きな宝石を見たの初めてです」

「あら? ミズファは魔法具を見るのは初めてですか?」

「あ、この装飾品って魔法具なんですか」

「ええ、そうです」


 一見、記憶の断片にある「アクセサリー」だと思ったのだけど。


「魔法具は必ず、一定以上の大きさの宝石が必要なのです」

「え、なんか凄く高価そうです……」

「ええ、勿論高価ですよ」

「因みにこの指輪の値段はいくらなのですか」

「それはぎりぎり魔法具で使用できる大きさですので、金貨15枚くらいでしょうか」


 金貨……この世界のお金かな。


「15枚ってやっぱり高いですよね?」

「え? ええ、一般の領民でしたら金貨一枚でおよそ二クオルは不自由せず暮らせると思いますよ」

「そ、そうなんですか」


 解らない単位を言われました。

 クオルってなんだろう。


 そっか……。

 僕、この世界について何も知らないんだ。

 このままだと生活に支障がでてしまうかも。


 うん。

 なら勉強しよう、生きていくなら絶対に必要な事だと思う。

 せめて、少しでもレイシアのお手伝いができる様に。


加筆修正


➡何を言ってるのか解らないけど、凄い事をしてるっていう事はなんとなく解ります。


➡「ええと、解りました。」

「有難う御座います。それでは、昼食後に研究棟へ参りましょう。」


1メル=一日

1メルダ=一週間

1クオル=ひと月

1クオルダ=一年


銅貨100枚で1銀貨相当

銀貨100枚で1金貨相当

金貨100枚で1大金貨相当


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