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ブラドイリアと新たな目標

 既に国があるのに、一緒に国を作ろうと言い出したプリシラ。

 今までブラドイリアという国について質問しても一切答えてくれなかった訳ですけど、一緒に過ごす内に彼女にも沢山の心境の変化があったのだと思います。

 ブリシラは皆で国を作る為、ブラドイリアの現状について説明してくれました。


 彼女が言うには、国自体は世界に存在を認められてはいるけれどそれは名ばかりで、実際は国としては成り立っていないのだとか。けれど誤認能力を駆使して鎖国状態にしているので、他国に内情は知られていないそうです。

 僅かに残っている人々が住んでいるのはお城と城下町のある魔都のみで、国の7割は荒廃しており、元々街や遺跡があった場所は瓦礫だけが残る跡地になっているそうです。荒廃させたのは、過去に魔王として君臨したプリシラ本人です。


 この土地には元々は別の国がありましたが、プリシラが滅ぼした際に全域に渡って建造物や沢山の人が消滅しました。

 その後、シズカさんが消息を絶った後に、償いも含めて国を興したものの、当時ようやく人間を理解し出したばかりだったプリシラでは、国を執政する力も知識も足りなかった訳です。


「だから、皆にも国作りを手伝って欲しいのよ。今私に最も足りない物は、協力者。以前の私に比べれば、知識も人への理解も備わって来ているわ。でも小娘一人に出来る事など、たかが知れている。そこを皆にも補って欲しいの」


 本来なら、安易に頷けるような内容ではありません。僕だって心境の変化が無かったら、プリシラのお願いには前向きな答えは出せなかったでしょう。

 でも今の僕達なら長い時を皆で協力し合いながら歩いていけます。困難な事もゆっくり手を取り合って解決し合っていけます。


「僕はプリシラが困っているなら全力で助けます。国の事とかは全然解らないですけど、そこは長い時を生きていく上で解決出来る部分も多いと思いますから!」


 皆も、僕に頷いてくれます。


「皆……。本当に有難う。全ては馬鹿な私が起こした後始末よ。それを皆にも手伝わせる事になって申し訳無いと思うわ」


 エステルさんが俯くプリシラに優しく語り掛けます。


「私なら、この中で比較的政治には明るいつもりですし、プリシラ様とは以前より本国で交流があった仲です。そして何より……お友達を助ける事に理由なんて必要ですか?」


 続けて席を立ち、プリシラに近寄ると、頭をなてなでしながらアビスちゃんが続けます。


「ぷりしらねーさまの言ってる事はよくわかんないけど、つぐないはわかるよ。わたしも沢山人ころしちゃったから、それをキョウカにすごくおこられたから……」


 アビスちゃんは、キョウカさんと出会う事で人への理解を示して人化の法を使いました。キョウカさんが居なくなってしまった後も、寂しさを紛らわす為に海のモンスターを統べ、人間を自ら襲う事は無かったと続けて話してくれました。討伐しに来た相手は止む無く、という事はあったようですけど。


「だからね。わたしもぷりしねーさまと一緒につぐなうよ。それに皆とずっと一緒にいられるってきいて、すっごくうれしかったから。居なくならないってみずふぁが約束まもってくれたから。だから、わたしもがんばる!」

「アビス……」


 プリシラがアビスちゃんを抱きしめます。本当の姉妹のように。

 続いてウェイル君が元気に挙手して席を立ちます。


「なら、僕は姉ちゃん達の騎士になる。皆の国を守る強い騎士になるよ!」


 それを聞いたシルフィちゃんも負けじと席を立ち。


「でしたら、私はお姉様達の宮廷魔術師になりますわ! お姉様達が居ない間、修行を沢山積んで置きますの。国作りに少しでも貢献出来るよう、頑張りますわよ!」


 ウェイル君も頷きます。そしてそんな二人を誇らしげに抱きしめながら、ミルリアちゃんも話してくれます。彼女も人間である以上、本来は寿命からは逃れられません。だから、プリシラと同族になる事で長命な二人とずっと一緒にいられて、とても嬉しいと。僕とプリシラの為なら、どんな協力も惜しまないと言ってくれました。


「英雄ミズファちゃんとシズカちゃん、国家指定級、五姫、歌姫、将来最強の魔法剣士を擁する国かぁ。面白そうじゃない。どうせなら、世界を支配してしまえるような大国にしようよぉ」

「ほぅ気が合うの、炎姫。政を為すは人にあり、とムラクモを建国した御仁も語録に残しておった。ブラドイリアは今後妾達がおる国じゃ、相応の国でなければつまらぬでの」


 僕に寄り添ってくれるエリーナ、ムラクモから仕えるべき主を僕に変えたツバキさん。

 二人も変わらず強い意志を示してくれています。言っている事は物騒ですが。


 僕は席を立ち、皆を見回します。そして、全員が僕の視線に頷いて答えてくれました。


「決まりですね。僕達は全力でプリシラを支えます。次の目標はブラドイリアを大きな国にする、です!」


 盛り上がる僕達。

 そこにプリシラが一言。


「因みに、王は貴女よミズファ」


 その言葉に耳を疑う僕。


「……は?」

「聞こえなかったかしら。ブライドイリアという国名はあくまで仮のもの。これからは貴女が王女となり、新たな国の名前を考えて頂戴。勿論私もずっと貴女を支えていくから、心配しないでいいわ」

「え」


 おかしいです。プリシラを皆で助けようって話から、僕が国を作る話になっています。


「あの、つかぬことをお聞きしますが」

「なにかしら」

「何で僕が王女になる流れなんですか」

「その方が皆も嬉しいでしょう?」

「……」


 皆を見回すと、目をキラキラ輝かせていました。


「嘘ですよね?」


 僕は必死に抵抗を試みます。


「嘘じゃないわよ」

「ミズファ。プリシラ様の為に頑張ると決心したのですから、ここは協力して差し上げないと」


 プリシラに続いて、ニコニコ笑顔のレイシアも僕が王女になる事に同意しています。


「え、いえでも王女になるって、お手伝いとかそういう次元の話じゃないですよね!?」

「次元って何よ。いいじゃない、減る物でも無いのだから」

「減りますよ! 命がって……これはもう減らないんでした。ええと、とにかく減るんです!」


 僕は泣きそうになりながら抵抗します。だっておかしいですよ、王女ですよ?

 ちょっと困ってるから、僕と契約して王女になってよって言われて、んぅ解ったーって言うおバカがどこの世界にいますか!


「ここにいるわよ」


 すかさず僕の頭の中につっこみを入れてくるプリシラ。

 都合のいい時だけ語りかけてくるのやめてくれませんかね。


「みずふぁ、一緒にぷりしらねーさまのためにがんばろ?」


 僕のドレスのスカートを引っ張りながら、無垢な笑顔を向けてくるアビスちゃん。

 プリシラが差し向けた刺客のようです。


「……アビスちゃん、ええとですね」

「つぐない、いっしょにがんばってほしいの……」


 次にウルウルした目で見上げてくるアビスちゃん。

 プリシラを見ると視線を逸らされました。


「……卑怯ですよプリシラーーーー!!」


 僕の絶叫後、抵抗空しく新たな王女が決まりました……。


 その後、残り二か月程となった学院生活を楽しみつつ、魔都ブラドイリアへ旅立つ準備も進めています。修業後、僕達がプリシラと同族化する前に、拠点を前もって魔都に移すためです。

 そして、これからはそこが僕達のマイホームになるのです。


 学院生活が終われば、とある儀式でプリシラと同族化の状態に入り、僕達は世界と隔絶され深い眠りにつく事になります。

 時が経った世界はどう変わっているのでしょうか。

 そんな未来への不安はありますが、それと同時に楽しみでもあります。

 だって、大好きな皆と一緒にずっと暮らしていけるのですから。


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