これからの事
煌びやかに点滅するイルミネーションが施されたツリー。
その周辺には、沢山の人々で埋め尽くされています。
一時はツリーに近づけない程の混み具合が原因で、一部トラブルが起きていましたが、緊急的に騎士団が配備されて、それ以降スムーズに人々の波が流れています。
ツリーやイルミネーションを沢山楽しみたい場合は、騎士団の誘導に沿って通学路を周回する形になりました。途中沢山の夜店があるので、一般の皆さんにも特に不満は無いようです。何より、通学路も綺麗ですからね。
僕とレイシアも夜店から串焼きを二本購入して、二人で堪能しながら歩いています。
いくらツリーを作った側だからといって、人の波を止める事は出来ないので、現在は寮側の通学路を歩いている所でした。寮方面と正門方面に分かれる道からイルミネーションが一度途切れますが、ここで正門方向に戻ればもう一度一周できるという訳です。
そんな形で二週目のデートを楽しんでいる僕とレイシア。
なをさっきのお願いに対する、レイシアからの答えですが。
「考えさせて下さい」でした。
勿論予想していた答えだったので、いつまでも待ちます。できれば、僕がプリシラと同族になる前までだといいんですけど……。もう二度と会えなくなるでしょうから……。
彼女にだって、将来を見据えて準備している事もあるでしょう。家の事もありますし、不安に思う点だって沢山ある筈です。だから深くは言いません。直ぐに断られなかっただけ、僕は幸せ者です。
間もなく二回目のツリー鑑賞が可能な所まで大広場に近づくと。
「ツリーをもっとゆっくり楽しみたいですけれど、これだけ沢山の人の中ではそれも叶いませんね」
笑顔のままですが、ちょっと残念そうなレイシア。
「レイチェルさんにお願いして来年、次のクオルダも、ずっとその先もこのクリスマスを催して貰えるようお願いする予定です。次はもっと規模を広げれば、この想定外のお客さん達にも対応できるでしょうから」
「それは楽しみです。何れベルゼナウにも持ち込んで、そして世界中に広げて、もっと沢山の人にも楽しんで頂きたいですね」
満面の笑みでお互いに語り合う僕達。レイシアも心から楽しんでくれています。少なくとも、僕のお願いで気を病んではいないようでした。
その代わり、人々の流れから外れた場所で、此方を見ながら意気消沈している仲間達が見えました。
アビスちゃんとシルフィちゃんに至っては体育座りです。これは不味いです。
僕がいなくても楽しんでほしかったんですけど……。
「ふふ、皆様待ちくたびれているようですね。ですが、もう少しだけミズファは私の物です」
そう言うと、僕の腕に手を組んでくるレイシア。エリーナがそれを見て何か叫んでいますが、レイシアは無視しています。
「さぁ、三回目のデートコースへ参りましょう」
「あ、うん了解です!」
振り返ると、シズカさんが皆を連れて夜店へと促しているようでした。
有難うございます、シズカさん!
暫く二人でデートを楽しんでいると、通学路と通学路の合間にある芝の所に、騎士団が集まり出します。そしてそこに敷物を敷くと、後から玉座のようなイスが運ばれてきました。
よく見ると正門までズラーっと道を作るように騎士が並んでいます。つまりこれって。
「どうやら王様までいらしているようですね」
レイシアが身を正してそちらを見ています。
程なくすると、王様と近衛兵、騎士団長さん、その他高官が数人正門から芝へと歩いてきました。
そこにはレイチェルさんもいます。勘のいいレイチェルさんは僕とレイシアに気づくと、デート中なのを察してくれたのか、シッシッと追い払う仕草をしています。彼女なりに気遣ってくれているようですね。
騎士団長さんもこちらに気付いているようですが、王様から隠すように移動してくれています。
シズカさんのように、二人にも心から感謝の念を飛ばしておきます!
その後三回目のイルミネーションを楽しみつつ歩いていると、騎士団の合間から見える王様は凄くご満悦そうでした。
一般の人々に気を使っているようで、芝上は割と暗いにも関わらず、ライトウィスプも松明も灯さずツリーを鑑賞したり、周囲の通学路を灯すイルミネーションを見ています。その代わり闇に紛れる不埒ものを見過ごさぬよう、厳重な警戒体制が敷かれていますが。
王宮付きのメイドさん達が手押し車でワイン等を持ち込んでいるので、王様とレイチェルさんが一緒にグラスを傾けながらツリーを楽しんでいます。それを見ている僕もなんだか嬉しくなってきていました。
周囲の一般の皆さんも、王様に向けて敬意を表しています。こんなに民と触れ合えるような場所まで来る王ですから、人気があるのも解る気がします。
三度目のツリーの下に着くと、レイシアが見上げながら何やら呟いているようです。
「この素敵なクリスマスツリーも、貴女が居なければ心から楽しむ事なんて……できません。次のクオルダに催されても、隣に貴女がいなければ、なんの意味もありません。なら、何も迷う事なんてありませんよね。既にどうしたいかなんて、初めから決まっていたのです。なら、私は貴女と……貴女と共に」
よく聞きとれません。
「レイシア、何か言いましたか?」
「いいえ、そろそろ皆様の所へ戻りましょう」
「あ、うん。レイシア、デートは楽しめましたか?」
「ええ、心から」
「良かったです。レイシアが楽しんでくれていなかったら、皆に謝ってでもレイシアとデートを続行するつもりでしたから」
「ふふ、ミズファらしいですね」
「もう、僕本気ですよ!」
僕の言葉から逃げるように少し先に走っていくレイシア。
「私は、貴女の……貴女だけの物ですよ、ミズファ」
そこでも何か呟いていたようですが、僕にはまたもや聞こえませんでした。
遠くからツリーを眺めていた皆の所へ、レイシアとのデートから戻ると。
「もー、レイシアちゃん一番初めな上にデート時間長いよぉ。もう遅いし、このメルの夜は誰もデート出来ないよぉ」
エリーナが珍しく泣きそうでした。
「御免なさい、講師。ミズファとの夜の時間だけは、誰にも譲れない大切な物でしたから」
レイシアが皆に謝りつつ頭を下げますが、直ぐにプリシラが頭を上げさせます。
一番初めに出会い、僕を保護してくれた彼女の気持ちを、皆が汲み取ってくれているようです。
エリーナだって我儘を言いながらも、根底ではデートが長いなんてまったく気にしていない筈です。
その夜は仲間皆と改めてイルミネーションの通学路を歩き、夜店に寄りつつツリーを鑑賞して、煌びやかな時間を楽しみました。
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次の日からも順に皆とデートをしながら、「お願い」をしていきます。
寮で行うクリスマスパーティーの為の買い出しを行いつつ、エリーナ、ツバキさん、ミルリアちゃんの順でデートをしました。三人は僕とのデート中の「お願い」にとても驚いていましたが、その場で直ぐに頷いてくれました。
クリスマスを過ぎた後も皆とのデートは続いていきます。
レイシアと同じように返答を待つ事になったのはエステルさんのみでした。
アビスちゃんは元より人間では無いので、歳も取りません。シルフィちゃんとウェイル君はハーフエルフなので、とても長命であるとレイチェルさんから教えられています。なので、二人にはこのまま成長して貰った方がいいと思ったので、お願いはしていません。今から二、三百年後でようやく人間の14、5歳程度らしいです。
そして街の中でのデート中、明確にお断りをされたのがシズカさんです。
プリシラを介して、早い段階から「お願い」を知っていた彼女ですが、その時点ではやんわりと断られていました。再度、このデートでお願いをしてみましたが、はっきりと断られました。
彼女の言っている事を聞けばそれも当然であると思います。
既にキョウカさんが待っているから、一人にしてはおけないと。
ミツキさんという方も、いつの時代にどうしていたのか解らない以上、少しでも手がかりを探しながら天寿を全うしたいと告げられました。
寮へと戻ると、僕の頭の中を読んでいたプリシラが、シズカさんの考えを変えようとしていましたが、シズカさんの強い意志は曲がらず、それ以上の無理強いはしませんでした。
せめて、プリシラと同族の存在になるまでの間、シズカさんとの時間を沢山作りたいと思います。
だって……僕がここにいる事が出来るのは、誰のおかげですか。
僕がここまで強くなれたのは……ここまで成長できたのは、誰のおかげですか。
そう考えた僕の頬に、いつの間にか涙が流れていました。プリシラだって泣きたいのを我慢しているのに。そんな僕を、シズカさんが優しく胸に抱きしめてくれます。
彼女から「もう一度生を謳歌させてくれて、本当に有難うございます」と言われた後。
沢山、沢山、彼女の胸の中で僕は泣き続けました。
12/23 クリスマスの矛盾点を修正しました。




