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灯りの魔法具

 ツバキさんの手によって雪が降ってから更に二日後。少しずつ降り続いた雪が積り、学院内は白一色に染まりました。まだ朝の8時前だというのに沢山の学生達が寮の外に出て、見慣れない景色と雪の感触を楽しんでいます。


「皆元気ですねー」


 ベッドから起きて着替えを済ませつつ。

 僕は自室の窓からはしゃいでいる学生達を眺めて和んでいました。

 その隣には、目をキラキラさせつつ僕をジーっと見上げているアビスちゃんがいます。


「みずふぁ、雪、白い! つもってる、はやく!」


 謎の呪文を唱えているアビスちゃん。けどちゃんと意味は理解しているので、アビスちゃんを連れて僕達も外に出ます。

 一般寮と貴族寮を繋ぐ中庭に出ると、少し隅の方にプリシラとレイシアがいました。しゃがんで何かをしているようです。


「レイシア、プリシラお早うございます! 二人とも何してたんですか?」

「あ、ミズファお早うございます。すみません、部屋までお迎えにいくつもりでしたけれど、積もっている雪を見て居てもたっても居られず、先に外へ出ていました」


 僕の声に笑顔で挨拶を返してくれるレイシア。


「お早うミズファ。私もレイシアに付き合っていた所よ」


 二人に近づくと、レイシアとプリシラの前に小さな可愛い雪だるまがありました。

 少し前に作り方を教えていたのですが、早くも実践してたようです。


「わーかわいいー。ねーねーこれなぁに?」


 アビスちゃんもしゃがむと、二つの雪だるまを見て喜んでいます。

 僕もその隣にしゃがみつつ。


「これは雪だるまって言うんですよ。積もった雪を少し手に取って握り、それを誰も踏み馴らしていない、サラサラな雪の上でコロコロと転がすんです。すると少しずつ雪が大きくなって、こうしてお人形さんみたいになるんですよ」

「へー。わたしもつくりたい!」

「うん、いいですよ、一緒に作りましょう!」


 後でレイチェルさんを通して、学院の皆にも雪だるまの作り方を教えるつもりです。

 それと、雪合戦もですね。これはやった人にしか解らない楽しさです!


 程なくして小さな雪だるまが更に二つ出来ると、レイシアとプリシラが作った雪だるまの隣に並べます。

 アビスちゃんがピョンピョン跳ねながら喜んでいると、その様子を見ていて我慢できなくなったのか、プリシラが唐突に跳ねるアビスちゃんを抱きしめていました。

 段々、プリシラにもミルリアちゃん属性が備わってきているようです……。


 その後、少し遅れて貴族寮から出てきたエステルさんと一般寮の皆と合流して朝食を取り、学院へと通学します。因みにオープンカフェはクリスマス期間中お休みしているので、ご飯を食べる時は一般寮内にある食堂になります。食堂とはいいますが、高級レストランみたいな豪華な作りなので、お嬢様方がお茶をしに来ても、まったく違和感はないのです。


 通学中、ウェイル君とアビスちゃんが雪の中を走り回って転んでいるのを見て和みつつ、大広場に向かいます。

 大広場に近づくにつれ、普段見ない子供達や沢山の人々が行き交っているのが解ります。

 そして大広場に着くと、木が立っている中心部は沢山の人で賑わいを見せていました。


 降雪の量を調整した木は、葉に少し乗っている雪がオーナメントと上手く調和され、見事なクリスマスツリーとなっています。沢山の人がそのツリーを見上げては喜んでくれて、家族で来ている人は子供を肩車して、オーナメントに触らせていたりします。学生の皆さんも親を呼んで一緒に見ながら、「あのオーナメント私が作ったの!」と、言うと周囲の人も褒めていました。


 この時点でツリーは完成していると、ここに居る誰しもが思っているでしょう。ですが、まだ飾り付けていない物があります。それはイルミネーションです。最終的な仕上げとして、あとはそのイルミネーションの魔法具を取り付ければ、ツリーは完成です。


「ミズファお姉様、確かお話ではまだ仕上げが残っているのでしたわね?」

「うん、そうです。今まさにその事を考えてたんです。今の僕なら瞬く間に魔法具を完成させられますから、今日、このメルの夜にとっても素敵なツリーを見せますよ!」

「今のツリーで十分素敵に見えますのに、これ以上に素敵なツリーなんて、私には全然想像できませんの」

「見たらきっと、もっと気に入って貰えると思います。雪が少し降るようにしますので、夜のツリーを見る際には厚着を忘れないでくださいね」

「解りましたわ!」


 しっかりしていても、まだまだ歳相応の幼さいシルフィちゃんが、「夜のツリー楽しみですわね」とアビスちゃんとウェイル君に笑顔で話しかけています。


 学院のお嬢様達のお陰で想定以上に集まった未使用の宝石。

 実はこれを使って、ツリーだけでなく、正門から大広場に繋がる通学路と、寮から大広場に繋がる通学路をサプライズ的にイルミネーションでライトアップする予定です。

 通学路の途中に木のベンチがあったり、人の背と同程度の高さの植木が等間隔で立っていたりするので、そこに魔法具を飾り付けます。特殊能力学科の皆さんに既に取り付け作業のお願いはしてあり、快く受けてくれています。一般学科の皆さんが授業中の内に、取り付け作業をして置く訳です。


 いつの間にか、レイチェルさんの許可証を胸につけた食べ物の露店が大広場の隅に出始めています。

 これも一応僕が出した案ですが、ツリーの景観を損ねないよう比較的離れた位置での商売をお願いしてあります。


 その後皆と別れ、研究棟の僕専用の部屋へと来ると、宝石が沢山入った箱を持って特殊能力学科へと向かいます。

 既に大広間には皆集まっていて、ツリーとクリスマスの話題で持ちきりでした。

 先に来ていたエステルさん、プリシラ、アビスちゃんが僕に気づくと近寄って来ます。


「ミズファ様、少し前に沢山魔法具用の宝石を集めていましたけど、どのように使用するのですか?」

「そういえば一部の人にしか説明していなかったですね。これからこの宝石を魔法具に作り変えるので、詳しく説明します」


 特殊能力学科の皆も僕に集まってきます。特にクリス君が早く説明したまえ、的に興味津々でした。

 時間は有限なので直ぐに説明に入ります。


「この宝石その物を直接魔法具化します。魔法具の効果は「点滅する光」です。レイシアの作り出したウィスプの街灯をとても小さくして、光が点いたり消えたりする物、と言う感じですね」


 早速セレナさんから、光が消えたりする意味の質問をされます。


「この宝石は、時間差で光が点いたり消えたりするように調節して作るんです。つまり、何処かの光が消えている間は別の場所の光が点いている訳です。それを交互に繰り返すと、とっても綺麗なんですよ。これはツリーみたいに実際に見て貰った方がいいですね」


 この世界は最近まで、暗い場所は松明等の炎が出す明かりに頼っていました。ライトウィスプも使える人が限られますし、一定の場所に留めておく訳にもいきません。なので、まだまだ光にたいする知識が無い皆には、点滅する光景が想像できないんです。そもそも、ずっと暗闇を照らす為の明かりなので、わざわざ消す必要が無いですからね。


 ツリーを例えに出すと直ぐにセレナさんは納得してくれました。本人曰く、最初はツリーがどのような物かまるで想像できなかったらしく、オーナメントの飾り付けが終わったツリーを見ると、瞬く間に魅了されたそうです。なので魔法具にも期待出来る、という話です。


 一通り説明し終えると、皆概ね理解を示してくれました。

 コリンス先生の出席確認が終わった後、僕は魔力回廊(マジックスクエア)を使用して、一気に宝石を魔法具へと作り替えていきます。点滅する時間差は三段階に分けました。

 現段階ではまだ宝石は点滅はしていません。一定の時間になったら自動的に点滅するように細工してあるからです。


 皆で手分けして、道具屋から購入してある小さな小瓶に宝石を入れて紐を通します。これで準備万端です!

 特殊能力学科の皆で大広場に移動すると、各自通学路へと別れていきます。

 僕も一般の見学客の合間をぬって足場に上り、器用に宝石をツリーに飾り付けて行きます。

 まだ何かあるのか、と一般の方から質問を受けたので、暗くなったらまたツリーを見に来てください、と皆に聞こえるように質問に答えました。


 テキパキと飾り付けていると見学していた大人の方々も飾りつけを手伝ってくれました!

 流石に大人手があると直ぐに作業が終わります。僕は何度もお辞儀をして感謝しました。


 そんな訳で。


 いよいよ、長期間皆で頑張って作り上げたクリスマスツリーが今夜完成します!


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