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学生達と雪

 オーナメント作りが学院の皆さんに広まってから更に二日後。

 現在、学院敷地内の大広場が沢山の人で混み合っています。

 ツリーが完成した訳では無くまだ準備段階で、です。理由はやっぱりオーナメントでしょうね。


 協力してくれる学生さんがオーナメント作りをしていると、それを見かけた他の学生さんも作成作業を気に入ってくれて、更にオーナメントの認知が広がっていきました。どの人も、可愛い飾り物を自らの手で作り出す、という行為が楽しくて仕方が無いらしく、仲間内ではミルリアちゃんが完全にオーナメント作成に魅了されています。


 僕達は学院への通学が始まった後、クリスマス準備作業を寮から特殊能力学科の研究棟へと場所を移しています。ここならエリーナ達皆で集まれて便利なのです。


「主、様。もっと……木片が、欲しいです」

「うん、ちょっと待っててくださいね!」


 隅にある材料保管用の木箱から木片を取り出して、ミルリアちゃんに渡します。

 普段、僕に対してお願いをしないミルリアちゃんが、材料が足りなくなると躊躇せず僕に頼ってくれます。それが僕も嬉しくて、ミルリアちゃん以外の皆にも、小まめなフォローをしています。


 レイシアやエステルさんは呑み込みが早すぎて、「こういうオーナメントも作りたい」と自ら飾りのデザイン案を作ってきていました。その上で、学生さん達も連日オーメント作りを楽しんでくれているので、直ぐに材料が枯渇します。


 そこで建築家さんから直接、木片やコルクガシを板状にした物を大量に買い取り、道具屋さんからは紙や絵具、小さな瓶、薬草類のハーブ等をかき集めて、寮内のメイドさん達の協力を得て各方面から研究棟に運んで貰う事で対応していました。


「ミズファよ。飾りも出来上がってきておるし、そろそろ頃合いではないかの?」


 コルクを様々な形に型取りして、彩色した紙をデコレートしたオーナメントを一つ完成させたツバキさんが、僕に次の作業段階について促しています。


「そうですね。学生さん達の評判も上々ですし、そろそろ雪を降らせましょうか!」

「うむ。妾は準備が出来ておる故、いつでも声をかけてくれて構わぬ」

「はい、では明日、次のメルに早速決行しましょう」


 僕とツバキさんの会話に各々作業を一時中断して、話の輪に加わってきます。


「いよいよ雪を降らせるのね。私は叩きつけるように降る雪すらも見知っているけれど、この行事に合わせて降る雪はとても楽しみだわ」


 恐らく、吹雪の事を言っているプリシラが、明日からの雪に期待してくれています。


「みずふぁ、雪ってきれいなんでしょ?」

「うん、そうですよアビスちゃん。きっと喜んでくれると思います。楽しみにしていてくださいね」

「うん! わたし、北のうみはあんまり行かなかったからたのしみ!」


 屈んでアビスちゃんの頭をなでると。

 慣れない手つきでオーナメントを作っていたアビスちゃんが、ご満悦に笑顔で返してくれました。彼女にとっても初めて行う行事だと思いますが、近づくクリスマスの高揚感を感じ取ってくれているみたいです。

 シルフィちゃんとウェイル君も同じらしく、クリスマス準備が楽し過ぎて夜眠れなくなり、若干睡眠不足気味だとか。それはちょっと駄目ですね……。


 元々いた世界では娯楽が溢れかえるように沢山あったと断片気味の記憶の中にあります。

 それに比べて、この世界の娯楽はそれほど多くはありません。アビスちゃん達が手放しに喜んでいるのはその辺も理由にあると思います。だから、これからも子供たちが楽しんでいけるような遊びを沢山教えるつもりです!


 --------------


 次の日になり、いよいよ降雪作業に入ろうと言う所。

 現在大広場の木周辺では、飾りつけ作業の真っ最中です。男の子の学生達が足場を作ってくれて、女の子達から手作りのオーナメントを受け取って、木に飾りつけをしています。

 その流れでいい雰囲気になっている男女が見受けられるようになりました。


 僕達はそんな学生の皆さんにお任せして、作業を見ています。


「とても良いものですよね。こうして手を取り合って一つの事を成し遂げていくのって。そして、そこから生まれるカップルを見ていると、何だか嬉しくなってきてしまいます」


 頬に手を当てて、微笑ましそうに見つめているエステルさん。


「エステル様のお気持ち、私にも痛く解ります。こんなに素敵な行事が存在していたのに、今まで知らなかったなんて……。私もまだまだ勉強不足のようですね」

「それは仕方無いと思うよぉ。大図書館にもクリスマスについては一切の記述が無かったし。私もかなりの本を読み漁った方なんだけどねぇ」


 レイシアとエリーナとは別の方向を見て誤魔化す僕。

 シズカさんがクスクスと笑っています。


「皆、順調のようじゃない」


 僕たちが少し離れた場所で飾りつけ作業を見ていると、レイチェルさんが様子を見に来てくれました。

 この後、雪を降らすと前もって知らせてあったからです。それはここにいる学生さん達にも伝えてあります。

 既にここにいる人達は、僕達も含めて普段より厚着をしています。近づいてきたレイチェルさんも、ドレスの上から可愛い上着を羽織っていました。


「こんにちは、レイチェルさん!」

「ミズファ。ここまで学院内を盛り上げるなんて、アンタこの手の仕事に才能あるんじゃないの?」


 腕を組みながら何か企むように笑みを浮かべるレイチェルさん。怖いです。


「前向きに捉えて楽しむ姿勢を見せてくれたのは、学院の皆さんの方ですよ」

「相変らず謙遜が過ぎるわね。まぁ、別に嫌いじゃないけど、そういうの。で、アンタのクリスマスの事なんだけど。行事の噂が学院の外に出ちゃってるみたいでね、正門の外で一般居住区の子供たちとか、結構中を覗いていたりするのよ」

「え、そうなんですか?」

「ミズファ姉ちゃん、僕騎士団に顔を出しに学院の外によく出るけど、最近凄いんだよ! 正門から出ると、クリスマスと雪について沢山同い年くらいの子から質問されるから」


 頭の後ろで手を組んで飾りつけを見ていたウェイル君がそう言います。

 僕、余り学院から出ないので知らなかったです。外は今そんな事になっているんですね。

 それを聞かされたからには、黙っていられないです。


「レイチェル。クリスマスの期間はこの大広場の周辺だけでも、一般に解放してはどうかしら」


 僕の考えが解るプリシラが代わりにお願いしてくれました。


「ま、そう言う流れになると踏んでたから、「事後報告」よ。学院の名を更に売る絶好の機会を私が逃す訳ないでしょーが」

「だそうよ、ミズファ」

「うん、有難うございますレイチェルさん!」


 僕は笑顔で感謝すると、顔を赤らめつつ横を向くレイチェルさん。


「じゃあ、ツバキさん。そろそろやりましょうか」

「ようやくじゃの。待ちくたびれておったわ」

「御免なさい、じゃあ魔力を供給しますので、さくっとお願いします!」

「うむ。木には雪が程なくかかる程度にすれば良いのじゃな?」

「はい、掛かりすぎると飾りつけにも支障が出ますし、何よりオーナメントが雪で隠れちゃいますからね」

「心得た」


 木の周辺にいる学生さん達に一声かけると、皆が期待の声を上げています。

 その気持ちに応えるため、いきますよ!


 僕はツバキさんと手を繋いで目を瞑り、独自魔法を展開します。


「結界を維持する力+結界を操作する力を合成、最小限の範囲で展開、「独自結界・魔力回廊(マジックスクエア)」!」


 結界を展開すると同時に、ツバキさんに無限の魔力を供給します。

 更に結界能力を分け与えると、ツバキさんは一切の術式を組むこと無く直接魔力を冷気に変えて、高速で上空に拡大していきました。一気に周囲の気温が下がります。


 そして。


 ハラハラと。

 雪が降りだしました。


 以前、ツバキさんが作り出した死の雪では無く、クリスマスを彩る、優しい雪が空からふわり、と舞い降りてきます。


 学生の皆さんが空を見上げて感嘆の声を上げていました。

 中には男女で手を繋いで見上げる光景も伺えます。


 この日、王都の長い歴史の中で、初めて街に雪が降りました。

 それは王都なら何処からでも見えた筈です。

 僕達も降ってくる雪を、皆で暫く見つめていました。


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