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ツリーとオーナメント

 元々いた世界基準で十二月に入り、年の変わり目も近づいています。

 この世界で言うと、今の時期は「天球下弦四のクオル」です。この世界では一月~四月を「天球上弦」、五月~八月を「天球中弦」、九月~十二月を「天球下弦」と呼ばれています。


 例えば九月の場合は、天球下弦一のクオルという形になり、五月は天球中弦一のクオル、一月だと天球上弦一のクオルです。そして一ヶ月の長さは25日区切りになっています。

 元々居た世界より65日分少ない感じですね、結構差があります。


 僕は自分の記憶の断片がこれ以上薄れないよう元々の世界基準で話してたりしますが、同じ世界出身であるシズカさんも、僕と話す時は元々の世界の言葉を使ってくれます。なんかこう、誰も知りえない、話しても信じてくれない事を解ってくれる人がいるのって本当に心強いですし、嬉しいです。


 今回のクリスマス行事でも、シズカさんの存在は凄く大きいです。

 だって、僕が話さなくても何をすべきか解ってるんですよ。示し合わせ程度はしますが、後はシズカさんに任せっきりでいい場面が沢山あるんです。本当に感謝です!

 プリシラが僕とシズカさんのやり取りを見てヤキモチ焼いてたりするのがアレですけどね。


 そして現在、僕の自室でクリスマス準備の為の作業中です。

 皆にはそれぞれ買い出しや小物制作、学院内の掲示板にクリスマスパーティーのお知らせを張り付けたり、役割を分担して作業をお願いしています。


「ミズファさん。クリスマス飾りの試作ですが、このような形でどうでしょう」


 小物作り担当のシズカさんが木に飾り付ける予定のオーナメントを持ってきてくれました。

 手の平には銀色の紙と木片で器用に作られた星形のオーナメントがあります。


「わ、とっても可愛いです。顔とか書いたらゆるキャラっぽいです!」


 この世界では通じない言葉でシズカさんを褒めます。巫女さんって手先が器用なイメージでしたけど、まさにイメージ通りでした、凄いです。


「ミズファさんに喜んで貰えて、私頑張ったかいがありました。ご褒美はほっぺにチューでいいですよ」

「え……」


 目を瞑って、僕のキスを待つシズカさん。あの、なんで正面向いたまま顔を近づけてるんですか?


「シズカ、何をしているのかしら」


 いつの間にかプリシラが来ていました。至って普段通りの口調ですが、目が怖いです。あれは人殺しの目です。


「あら、ええと。勿論冗談ですよ、やだなぁプリシラちゃんてば」

「……そう、それは愉快な冗談ね」


 シズカさんがニコニコしながら震えていました。

 ……僕も震えていました。


「所でミズファ。貴女が言っていた綿と糸を仕入れて来たわ」


 プリシラの後ろを見ると、メイドさん達が大き目の箱を数個部屋の中に運び込み、お辞儀をして退出していく所でした。


「あ、プリシラも有難うございます!」


 パタパタと箱に駆け寄って中身を確認すると、沢山の綿と糸が収められています。


「何に使うつもりかは解らないけれど、これで良かったのかしら?」

「うん、十分です!」


 糸は様々な小物に取り付けて、木に吊るす為に取り寄せました。そして綿は大きめにちぎって木に飾る予定です。本当は長く引き伸ばして巻き付けようかとも思ったのですが、「イルミネーション」との兼ね合いを考えると、綿は散りばめた方が映えるかな、と思ったのです。この辺は飾り付ける人によって好みの差が出ますよね。


 この世界は電気が無いので、イルミネーションは魔法具で代用します。代用するのはレイシアが作り出したウィスプの街灯で、その超小型バージョンを作るのです。かなりの量の宝石を必要とするので、ここが一番難題を抱えている所でした。お金に関してはなんと、国が補助してくれるので全く問題になっていません。


 レイチェルさんの許可を貰った後、お城へ謁見の取次ぎを行い、数日前に王様にも会って来ました。一生懸命、クリスマス行事と雪の調和と素晴らしい景色を説明した所、二つ返事で了承してくれました。

 王様も雪は遠くの山岳に積もる白い山でしか知識が無く、降る雪に興味があるとの事。学院内であれば、有事に発展するような危険も少ないだろうという理由もあります。何より、僕達がいる間はそんな事は学院内ではさせませんけどね。


 そんな訳で、宝石に関しては一番知識のあるレイシアにお願いしています。エリーナも魔法具には凝る人なので、レイシアの補助で同行しています。宝石商は貴族街区にありますが、第一層の一般居住区の冒険者ギルドにも置いているので、帰ってくるまで結構時間がかかりそうです。


 そして、僕の主な役割ですが。

 クリスマス行事の監督役の他にも、大事な仕事があります。

 学院敷地内の大広場の中心に、クリスマスツリーを立てる仕事です。


「じゃあ僕もそろそろ木を見繕ってきますので、後は宜しくお願いしますね」

「ええ、後は任せて頂戴」


 プリシラにも小物制作をお願いしつつ、大分遠くまで行けるようになった移動魔法で「静寂の森」へと移動します。

 この森は、ほんの少し前までレイスの森と呼ばれ、蔑まれた場所です。

 今は沢山の人々が訪れ、森の動物と触れ合ったり、珍しい薬草が採れるなどで大変人気がある森になっています。


 この森は一年を通して緑が生い茂る常緑樹です。とってもクリスマスツリーにピッタリな木が沢山立っているので、ここから特に大きな木を探し歩きます。


 周囲の木を見回しながら歩いていると、相変わらず謎の動物が警戒心ゼロで僕の目の前を通り過ぎたり、小さなリスっぽい動物が肩に乗ってきたりしています。


 暫くウロウロしてましたが、冷静に考えてみると……余りに巨木過ぎると飾り付けが大変な事に気づきました。気づくの遅すぎです。


 となれば、見た目が一番良さそうな木を探すべきだと考え直して周囲を見回すと……直ぐに見つかりました。葉の伸び方が綺麗な三角をしています。

 グルグルと木一周しつつ見てみると、程よい大きさで飾り付けも比較的やり易そうです。

 よし、この木を持って帰りましょう。


 まぁ……ちょっと飾りつけ多くなりそうなのと、イルミネーションも予定より必要数上がりそうです。僕も宝石集めを手伝ったほうが良いですね。


「対象指定、シャドウボックス!」


 移動魔法のように地面に黒い影が出現し、木が根元から沈んでいきます。

 全てを影に収納すると、直ぐに学院へと戻ります。

 移動場所は予め木を立てると決めていた大広場です。


 景色が学院敷地内へと変わり。

 僕が立っている場所は、様々な学科棟へと繋がる石畳の通路が沢山交わる大広場です。

 大体の人はこの場所を通る為、一目に付きやすいのと、周囲には建物が無いのでツリーを立てるには申し分ない場所です。しかも、近くに木のベンチが等間隔であるので雰囲気も出そうです。


 大広場の中心に立ち、収納していた木を出現させます。大広場に突如として現れた木、という事になりますが、今は学生の皆さんはお休み中なので、誰も気づいていません。

 うん、これで下準備の一つは終了です。宝石集めは大事ですけど、取り合えず一度自室に戻って、様々なオーナメントの原型を完成させてからですね。


 -----------------


 数日後、学院に生徒の皆さんが通いだすと、クリスマスパーティーのお話は瞬く間に広がりました。

 更に突然大広場に出現した木の話題もあって、周囲が僕達のする事に興味を示してくれています。


 オーナメントを原型通りに制作する段階になり、完成した分を木の下まで運んで、いつでも取り付けられるよう準備を進めていると、数人の学生の女の子がお手伝いを申し出てくれました。

 勿論こちらとしては大助かりなので、その申し出を有難く受け取ります。

 すると……。


 次の日から、次々に協力の申し出が集まりだしました。

 中には貴族のご令嬢方からも出来る事があれば、と申し出があった位です。

 ここまで前向きに捉えて貰えるなんて予想外だったので、びっくりです。


 特に難儀していた魔法具用の宝石の入手を貴族の皆さんにお願いしてみると、快く引き受けて下さって、更に次の日には人が人を呼び、あっという間に必要数の宝石が集まりました。

 使用せずに宝物庫に眠っていたり、交友のある貴族から未使用の宝石を譲って貰ったのだそうです。

 国からの援助金をお支払いしようとすると、皆さん首を横に振って受け取ってくれませんでした。

 今準備している行事はきっと素敵な物に違いないから、宝石など些細な物だと……。

 皆さん、本当に良い人ばかりです。


 そして、協力の為に集まってくれた皆さんにまだまだ足りないオーナメントの作り方を教えると、それがちょっとしたブームになってしまって、暇が出来ると仲の良い人同士でオーナメント作りをしてくれているようでした。


 初めは仲間内だけで作り上げる予定だったので、最終的なオーナメントの飾りつけは、かなり物足りない感じになる筈でした。ですが、学生の皆さんのお陰でとっても素敵なツリーが完成しそうです!

 皆さんの期待にしっかり応えないといけませんね。


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