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クリスマスという概念と降雪の許可

 魔法大戦から三日程経ったお昼どき。

 寮の中庭にある、いつものオープンカフェでお昼ご飯を食べている僕達。テーブル三つを占拠するという、ちょっとばかり迷惑な団体になり出していますが、空いてる席は早い者勝ちなのです。


 その三つのテーブルを占拠している面子が豪華なので、周囲の学生達から聞こえてくる話し声を聞く限り、むしろ好意的な目で見られてたりします。

 エリーナとツバキさんは先生のお仕事から解放されてますし、シルフィちゃんとウェイル君も遊びたい盛りを我慢して魔法と剣術を頑張っていたので、それをちゃんと解っていた学院と騎士団の団長さんが、暫くお暇をくれたそうです。皆と一緒にいられる時間が増えて、とってもご満悦な僕なのです。


 そして仲間の輪の中にはエステルさんもいます。お友達になったので、彼女とも一緒に過ごす事が増えました。周囲からの目も、大体はエステルさんがいるのも理由だったりします。


 そして、僕はスパゲティを堪能し、皆もご飯を大よそ食べ終えた頃に話題を切り出しました。

 内容は勿論アレです。


「クリスマス?」


 エリーナが頭上にクエスチョンマークを出してそうな感じに首をかしげています。


「はい、とっても遠くの国の風習、というか行事というか……まぁそんな感じのお祭り的な行事があるんです。それを、この学院内でやりたいなって思ってました」


 続けて疑問に思っているレイシアが挙手しつつ質問してきます。


「具体的には、どのような行事なのですか?」

「本来はとある聖人の降誕を祝う神聖的な行事なんですが、僕の知る国では部屋とか木に可愛い小物なんかを飾り付けて、親しい人や家族皆で盛大なパーティーを催して楽しむお祭りです」

「それはつまり、ミズファが主催されるパーティーという形なのでしょうか?」

「主催とかそういうのでは無いんです。なんて言えばいいのかな……」


 悩む僕にシズカさんが助け舟を出してくれました。


「レイシアさんが思い描いたのは、貴族さん達が主催するパーティーだと思います。本来そういったパーティーは政治的理由や家同士の繋がりなど、一定の義務に沿って行う物ですよね。ですが、ミズファさんの言うクリスマスという名のパーティーは、一クオルダに一度、身近な人と心温まるひと時を過ごす、一切のしがらみが無い楽しい行事なんです」

「まぁ、大変素晴らしい行事ですね。大切な方とだけ過ごすパーティー、考えただけで心が躍るようです」


 レイシアが頬に手を当てながら微笑んでいます。

 シズカさんにお礼を言いつつ、僕も付け加えて説明します。


「クリスマスは準備を皆でするのも楽しいですし、そしてパーティーではプレゼントの交換を行ったりするんです!」


 これにはミルリアちゃん達三姉弟とアビスちゃんが嬉しさを全身で表していました。

 基本的に貧民層は「無償で貰える」という概念が無いのでプレゼントを貰うという行為に馴染みが無く、僕が贈った時計が人生で初めての貰い物、というくらいでした。

 アビスちゃんも人の世と暫く関係を断って過ごしていた訳なので、当然貰い物には縁がありません。以前時計をアビスちゃんにもあげた所、まるで宝物のように常に時計を胸に抱きしめて過ごすという微笑ましい事がありました。


 今はもうミルリアちゃん達も貧しい状況では無いので、プレゼント交換への思い入れは他の皆よりも強いようです。彼女達がどんなプレゼントを用意するのか、今から楽しみです!


「更に、クリスマスを行う少し前から雪を降らせますよ!!」

「……」


 複数人から何言ってるのこの人、的な目で見られました。ちょっと悲しいです。


「よう解らぬが、雪はそのクリスマスとやらに必要な物らしいのじゃ。本来雪とは、ブラドイリアと公国の北部にある山岳地帯にしか降らぬ故、人には馴染みの無い物じゃからの」


 既に雪を降らす協力を取り付けたツバキさんが皆に説明します。

 僕は地方によっては普通に雪の中を過ごしている人がいると思っていたのですが、公国はとても暮らしていける環境で無いと判断しているらしく、歴史上ずっと雪の降る山岳地帯は未開の地となっているそうです。プリシラの国も雪が降る場所には誰も住んでいないとの事。


「雪を見たことの無い学生が殆どだと思います。けど、直に雪と接すると楽しいですし、何より綺麗ですよ。きっと皆に気に入って貰えると思います!」


 レイス討伐の折にツバキさんが雪を降らせた事がありますが、知識としては知っていても実際に雪を見るのは初めてという人が大半でした。

 僕と皆では雪への理解が違うので、これは直に知って貰うしかないです。

 飾り付けられた木に積もる雪、楽しくパーティーで過ごす中、窓の外で振る雪。そして積もった雪で遊ぶ概念。全部皆に教えるつもりです。


 その後、一通り飾りつけや下準備等も説明し、皆にお手伝いをお願いすると、全員快く引き受けてくれました。

後は……偉い人の許可ですね。


 -----------------


「ふぅん、クリスマスね……」


 皆とお昼ご飯後の昼下がり。

 学長室の来客用ソファで、レイチェルさんが書類に纏めた僕のクリスマス企画を読み終え、考え事をしています。


 魔法大戦後、学生の皆は一週間程学院をお休みになっているので、現在本館にはレイチェルさんや先生方、大図書館を利用する学生しかいません。


「ミズファ。確認なんだけど、雪を降らす事にほんとに意味があるわけ?」

「はい、これはどうしても譲れない要素です。雪が降る情景を見たことの無い人が殆どだと思いますし、こればかりは実際に見てもらうしか無いんですけど」

「そもそも、何で雪が降る景色をアンタが知ってるのか、全然理解出来ないんだけど」


 まだ大した歳を生きてない僕のあり得ない知識に、ジト目のレイチェルさん。


「ま、まぁ興味が沸いた事はとことん調べる性格なので……。そういう訳で、レイチェルさんにも是非協力をお願いしたいんです。どうでしょうか」

「んー……私もそのクリスマスとやらを体験してみたいから、この行事自体は構わないわよ。けど雪に関しては学生達に危険が無いという前提になるけど、平気なんでしょうね?」

「雪が積もると通学中、歩き辛いとかの弊害はあると思います。雪が降ると言う事は寒い訳なので、普段より厚着しないといけませんし。でも、それを差し引いても雪が降る景色は絶対皆に見てほしいんです」


 それに、そこまで積もらせる訳でも無いですからね。自然的に降る雪と違い、降雪量は自分達で決める事ができるので、軽く雪合戦で遊べる程度を考えています。


 天井を見上げながら暫く考えていたレイチェルさんが、ようやく重い腰を上げてくれました。


「……解った。アンタはこの国の英雄なんだし、少しくらいの余興は王も許してくれるでしょ。何より、時間と言う今まで知りえない概念を取り入れたのもアンタだし。なら、今回のクリスマスっていう行事と雪にも期待していいと私は考える」

「有難うございます。きっとレイチェルさんにも気に入って貰えると思います!」

「どうだか。それと、もう一つ交換条件があるわ」

「なんでしょう?」


 しばし間を置くと。


「……ち、ちゃんと私ともデートする事」


 顔を赤らめつつ横を向いているレイチェルさん。


「いいですよ、むしろ此方からお願いします! レイチェルさん、僕とデートして下さい!」


 笑顔でレイチェルさんに応えます。


「ま、まぁアンタがどうしてもって言うなら、し、しょうがないわね。ちゃんと私の事……エスコートしなさいよね」

「勿論です!」


 こうしてレイチェルさんの許可を取り付け、デートのお約束もしました。

 疲れる性格の人ですけど、とても良い人です。たまに見せる少女らしさ、そのまた逆に魅せる妖美さは学生達からも人気です。


 その後、細かな日程等も話し合った後、学長室から退出しました。

 正式に許可も下りましたし、これよりクリスマス準備の開始です!


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