閉会式とやりたい事
魔法大戦が終了した事を知らせる魔法が上空へと沢山撃ち上げられています。
格軍の生徒が先生の誘導の下、戦場中心にある遺跡跡へと向かっています。
結局、この遺跡跡がある中心での戦闘は緑軍では起きませんでしたね。
レイシアやエリーナも様子を伺うに留まったらしく、大胆な行動に出れていない様子でした。せめて、中央を制圧するメリットでもあれば向かったかもしれませんけど。
それと、像の有無についても今後意見が分かれそうです。近くを歩いている学生も、「像があると戦いに集中出来ないからいらないよね」と、話している姿も見受けられます。
まぁ、一発逆転の為なので、優勢側はいらないとは思いますけど。けれど、像が壊されるかもしれない、という不安感を各軍が共通する事も戦略の一つ、という考えもあります。今回は手探りという所も大きかったと思いますし、次回以降への課題になりそうですね。
そんな事を考えながら地面に視界を落として歩いていた僕。ふと前を見ると、和ゴスを着た女の子が歩いています。魔法大戦中、一度も会えなかったツバキさんです。
僕は直ぐに駆け寄って声をかけました。
「ツバキさん!」
「ぬ、ミズファか」
ツバキさんは僕を見るとちょっと微笑んでくれましたが、直ぐに暗い表情になりました。
「あの、ツバキさん魔法大戦お疲れ様でした!」
「うむ、ミズファもお疲れじゃ。……はぁ」
だんだんクールダウンしていくツバキさん。
僕が隣に並んで心配そうに顔を伺うと、ぽつりと話し始めます。
「この妾が初めに敗退とはの……。シズカ殿の対策は幾つか用意しておったのじゃが、身軽さと、技の面妖さに手も足も出んかった。伝記の御仁の前では、対策など何の意味も成さぬな」
とても悔しそうです。
「あのプリシラさえ勝てなかったんですよね。僕もシズカさんと戦う状況になっていたら、瞬時に間合いを詰められた時点で、何も出来ずに負けていたかもしれません」
「シズカ殿に聞いたのじゃが、あれで弱体化しておると言う話であった。一体、以前はどれ程の力を擁しておったのじゃろうか。まるで底が見えぬ……」
シズカさんの技は魔力を介して発動されますが、基本的に物理攻撃なので魔法耐性を完全に無視して相手に直接魔力を叩き込んでいます。
その点では、三分しか持続しない僕の魔力回廊の上位互換とも言えます。
まぁ、魔力を使う方向性がまったく違うので、一括りにはできませんけどね。
ツバキさんはどう足掻いても勝てない相手を認識してしまって、完全に落ち込んでしまったようです。
けど、氷属性への完全耐性が無い限りは、ツバキさんの最上位魔法である「完全世界」は世界最強の部類であると言えます。アビスちゃんでさえ、本来の姿でもその術式をまともに受けたら結構ヤバイかも、と本人が言ってた位です。
「元気出してください、ツバキさん。気晴らしという程でも無いんですけど、今度僕とデートしてください。一緒に遊びましょう!」
「な……!?」
唐突な僕のお誘いに、言葉を詰まらせつつ頬を赤らめているツバキさん。
「い、今……何と?」
「デートして下さい!」
「わ、妾とか? じゃが、それは魔法大戦勝者の権利ではなかったかの?」
「そんなの関係ないです! あ、でも勿論他の皆にもお誘いしてるので、ツバキさんだけでは無いです。御免なさい」
「そ、そうか……」
初めは嬉しそうでしたが、直ぐに落ち込むツバキさん。
慌ててフォローを入れます。
「あ、勿論デートする時は二人だけですよ! 順番、という事になってしまいますけど……」
「それは、まことか?」
「うん、本当です!」
僕の返事でツバキさんに再度、笑顔が戻ります。いつも気丈に振舞っていますけど、ツバキさんだって、こうして一喜一憂する可愛い一人の少女なんです。
「そうか……そういう事であれば、いつまでも落ち込んでもおられぬな。今から、でぇとを楽しみにして置くとするかの」
その後、僕とツバキさんが楽しくお喋りしつつ遺跡跡に向けて歩いていると、他の皆も集まってきて、普段の仲間内に戻っています。たまには皆と戦うのもいいですが、やっぱりこうして仲良くしていた方がいいです!
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「皆、記念すべき一度目の魔法大戦、お疲れ様。見てて思ったけど……。アンタたち、五姫と特殊能力学科の奴らにいいようにやられ過ぎよ!! 魔法学院の生徒なら、もっと自分を磨きなさいよね!!」
レイチェルさんが学院から持ってきた足場に乗って、閉会式が執り行われ……ているかと思いきや、突然怒鳴られました。理不尽です。
「まったく。次回からは開幕数分で吹っ飛んで退場したやつ、罰として一メルダ掃除当番にするからね!」
強制参加の学院行事で罰則が科せられました。理不尽です。
「まぁ、取り合えず、皆よくやったわ。実際なら命を落としている場面も多くあった。各自もそれは十分理解しているでしょ。学院を終業したら危険な場所に出向く事も多くなるんだし、今後の為、自分の命を守る為にも、常に一メルを大切に使いなさい。でないと、私が出先でアンタたちの死体見つけたら蹴り飛ばすからね!」
凄く理不尽でした。
「さて、栄えある一度目の魔法大戦優秀軍は、緑軍ね。緑軍に所属している学院生に盛大な拍手を送ってあげなさい」
ここで沢山の拍手と祝辞が飛んできました。隣を見ると、シルフィちゃんが顔を真っ赤にしてうつ向いています。
シルフィちゃんの更に隣にいるエステルさんは、こういった沢山の人から注目を集める状況には手馴れているようで、手を振って拍手と祝辞に応えています。ていうか、シルフィちゃん。これで恥ずかしがってたら、エステルさんと一緒に歌うなんて無理ですよ。
「そして、今回の最優秀生徒を発表するわ。かなり僅差だったけど、最初の魔法大戦最優秀生徒は……特殊能力学科に在籍している、ミズファよ。ま、僅差とはいえレイスを倒した英雄だし、当然よね。次いで優秀生徒は特殊能力学科に最近入学した、ニジョウ・シズカ。更に次いで、特殊能力学科に在籍しているプリシラと学院終業生、炎姫エリーナ。彼女たちに盛大な拍手を送ってあげて」
レイチェルさんの発表が終わると、さっきよりも更に大きな拍手の音が鳴り響いています。
本当なら生徒達の前に呼ばれるのでしょうけど、まだシズカさんの腕の中でプリシラが眠っているので、レイチェルさんが気を利かせたのでしょうね。
皆の拍手にお辞儀をして応える僕。
「で、今回の魔法大戦における問題点や改善の余地がある部分は、私や各先生達がしっかり認識してる。アンタたちが楽しく行事を行えるように、次回に向けて色々手を加えていくつもり。不満があるなら目安箱設置しとくから、そこに意見嘆願ぶち込んでおきなさい。さて、貴族の従者どもがうるさいし、そろそろご令嬢達を帰さないといけないから、これで終わりにするわ。各自馬車に乗って学院に帰るわよ!以上!!」
レイチェルさんがピョン、と足場からスカートを抑えつつ飛び降りると、閉会式が終わりました。問題点はありつつも、概ね生徒達は魔法大戦を楽しめたようでした。主に参加しているより、見ている側に回った方が楽しかったという意見が多いようです。
さて、学院に帰ったら先ずは皆でしたい事があります。
王都も寒くなってきているので、ちょっとツバキさんにも頼んで、とある事を試してみたいのです。
そのとある事とは、学院に雪を降らす事です。
この国は一年を通して雪は降りませんが、暑さと寒さを感じられる程度には気温が上下します。それでも元々いた世界の国基準で、春と秋程度の温度差ですけどね。
そして、間もなく一年の暦上でいう、12月に当たる時期です。
12月といえば、やっぱりクリスマスだと思うのです。そして皆としたい事、それは勿論クリスマスです! この概念をレイチェルさんを通して広めるつもりです。
そして、雪も魔法で作り出します。その分、普段より学院内が寒くなると思いますけどね。
飾りつけなんかも皆に教えて、学院限定の素敵なホワイトクリスマスにしたいと思います!




