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僕と大きな屋敷1

「お帰りなさいませ、レイシアお嬢様」


 屋敷に入ると、沢山のメイドさんが赤い絨毯の両脇に立ってお辞儀をしています。

 ……すごい光景。


「ただ今帰りました。ヘルテ、お客様がいらしていますので、昼食は多めに用意して下さい」

「畏まりました。直ぐに追加で作らせます」

「それと私とお客様は先に湯浴みをして参ります」

「それではご入浴にメイドを四名充てさせます」


 ヘルテと呼ばれたお姉さんの指示ですぐにメイドさん達がパタパタと駆けていきました。

 あと、ヘルテさんとても鋭い眼で僕を見ています。

 こんな身なりだもの、当然不審に思うよね……。


「さぁ、行きましょうミズファ。着いて来て下さいな」


 僕の手を引いて屋敷の奥へと歩き出すレイシア。


「あの、行くって……お風呂でしょうか」

「ええ。恐らくその様子ですと、少なくとも一日は湯に浸かっておりませんよね?」

「はい……」

「それでは駄目です!淑女たる者、常に身嗜みは清潔でありませんと」


 ここに来るまでお風呂の事が頭になかったよ……。


「今日は忙しいですよ。覚悟しておいて下さいね」


 何をされるんだろう……。

 一抹の不安を感じている僕を見るレイシアは何故か嬉しそうです。


 ------------------------


「それではお客様。ごゆっくりお寛下さい」


 そう言うと、四人のメイドさん達はお辞儀をしてお風呂から出ていきました。

 今、僕はとっても大きな浴槽に浸かっています。


 お風呂につくと、メイドさん達に寄ってたかって裸にされて、問答無用で全身洗われました。

「恥ずかしい、どうしよう」なんて考える暇もありません。

 これってヘルテさんの指示だったんじゃないかな……。


 ともあれこのお湯の気持ちよさに比べたら、そんな事も些末事。

 疲れを癒すようにお風呂を堪能しています。


「ミズファ、湯加減は如何ですか?」

「あ、とっても良いお湯加減です。有難うございます」


 遅れてレイシアが入ってきました。

 同じ位の年頃だと思うのに、何処となく色香を感じるんだけど……。

 何か負けたような気がする僕。


「満足して頂けて何よりです」

「とっても大きなお風呂でびっくりしました」

「お母様が湯浴み好きでしたので。皇室にも負けない程の浴槽をお父様が用意して下さいました」


 そう言いながら、何か思い出に耽るように天井を見上げるレイシア。

 なんとなく、余り深く聞かないで置いたほうがいいかな。


「そういえばミズファにお聞きしたい事があるのですが」

「はい」

「お住まいは何方に?」

「う……」


 勿論無い。

 でも、これ以上レイシアに心配をかけたくないし……。

 有る、と答えて安心させるべきかなと判断してそう口に出そうとした時。

 レイシアは真剣な表情で僕を見つめていました。


「ミズファ」

「は、はい」

「貴女さえ宜しければ、一緒にこの屋敷に住みませんか?」

「……え?」

「貴女にはやむに已まれぬ事情があるように伺えます」

「……」

「私は貴女の抱えている重荷を少しでも軽くして差し上げたいのです」

「でも、僕は……。これ以上レイシアに迷惑をかけたくないですし」

「迷惑だなんて一片たりとも思った事などありません」

「で、でも」

「お願いします、ミズファ。私は少しでも貴女と一緒に過ごしたいのです……」


 あれ、いつの間にかお願いされる側になってます。


「あの、それってどういう……」

「コホン。つ、つまりこの屋敷にいれば食事の心配をせずに済みます。それに、その様子ですとやはり帰る場所もありませんでしょう?」

「う……」

「決まりですね」

「え?いえ僕はまだ無いなんて一言も……」

「さて、お父様も首を長くして待っていらっしゃるでしょうから、着替えて食事に致しましょう」

「え、あのレイシア?」


 レイシアは浴槽から僕を連れ出すと、意気揚々と「さぁ、どのドレスを着せましょうか」などと言っています。


 強引ぐまいうぇいです……


 ------------------------------


「お客人はまだ着替え中かい? レイシア」

「ええ、間もなくですわ、お父様」


 ミズファは今、メイドと共に私のドレッサー前で着替えている最中です。

 そろそろ終わるころ合いだと思いますけれど。


 ミズファの滞在許可の件も兼ねて、先にお父様と共に食卓の席へとついています。


「名前はミズファ、と言ったか。珍しく我が娘がお願い事をしてくるかと思えば、客人と一緒に住みたいなどとは」

「我儘を言って申し訳御座いません。ですが、ミズファはやむを得ぬ事情で帰る事が出来ないのです。大切な友人であるミズファの滞在をどうかお許し下さい」

「ふむ……。先ずは会ってみない事にはな。いくらお前の頼みでも、素性の知れない者を屋敷に置くわけには行かない」

「きっとお父様も気に入られる事と思います」


 程なく。ドアをノックする音が響きます。


「失礼致します。お客様のお召し替えが済みましたので、お連れ致しました」

「通しなさい」

「はい、お客様どうぞお入り下さい」


 恥ずかしそうに中を伺いながら、意を決してドアの前に立つミズファ。

 貴族のご令嬢とご紹介したとしても、それを疑う者などいない事でしょう。


 後ろ髪はストレートのままですが、右側の髪を赤いリボンで束ねるように結っています。

 一部分を結う事で、銀色の綺麗な髪にアクセントを与えているのです。


 そしてドレスですが。

 私が選んで差し上げたのは、赤を基調としたフリル型のゴシック調ドレスで、胸にもリボンが施されています。

 私のお気に入りの一着です。


 ドレスに身を包み、胸に手を当て俯きながらもじもじしているミズファ。

 あぁ、もうこのままミズファを連れて遠い国へ逃げてしまいたいくらい可愛いです。


「ほう、これは……」


 お父様を始めとして、壁際にいるメイド達も驚嘆の声をあげております。

 因みに、主に着替えを担当したのはヘルテです。

 私の好みを知り尽くしたように、テキパキと衣装合わせをこなしてくれました。


「ミズファ、とてもよくお似合ですよ」

「ぁ……。あの、有難うございます」


 そこで意を決したようにミズファはお父様へ会釈します。


「お、お初にお目にかかります、グラドール様。僕……わ、私はミズファと申します。どうぞ、宜しくお願致します」

「これは失礼した。私はエルフィス・フォン・グラドール。この街の領主をしている。娘の友人として歓迎しよう」


 ふふ、緊張しているミズファも素敵です。

 私はフォローを入れつつ、ミズファを客席へと促すのでした。


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