決着
赤軍の残存部隊の魔法が展開され、一斉に僕に向かって放たれます。
赤軍も属性を色々混ぜながら撃ってきていますが、既に僕は魔法耐性を強化しているので、一般学生の初歩と中級程度の魔法攻撃は効きません。
レイシアの時のような即時対応も今回はされないので、此方の部隊は安定して赤軍に応戦しています。
エリーナは今の所、重ね焔を待機状態にしたまま何もしてきません。恐らくは部隊同士の戦いで時間を稼ぎ、魔力を回復してから一気に殲滅して功績を得る作戦なのでしょう。そこで制限時間がきても、一番活躍した軍が判定勝ちするルールなので、そういった場合は功績が物を言います。
赤軍は茶軍を壊滅まで追い込み、青軍を落としているので、現在の功績は僕達緑軍より若干上の筈です。なので、制限時間の使い方も戦略の一つとして考えているようですね。判定勝ちの案は恐らく、シズカさんが出したのでは無いかと思います。彼女も元々は僕と同じ世界にいた人なので。
けど、そんな時間稼ぎを僕が許す訳がないです!
僕の魔力は大体残り5割弱といった所ですが、それでも一般の魔術師から見れば途方もない魔力残量だと思います。シズカさんとプリシラを相手にせずに決着をつけるなら十分な量ですね。
練習していた合成魔法、折角なので使ってみますか。シズカさんが完全無効化を生み出したように、僕も生み出した物があります。
右手を空にかざして、左手を胸にあて、目を瞑り。
「【結界を維持する力】+【結界を操作する力】を合成、【独自結界・魔力回廊】!」
僕を中心に淡い光が波紋のように広がり、周囲の空間に虹色の波がうねるように流れ出しました。これは魔力が可視化した状態であり、虹色の帯が空間の中を川のように流れているイメージです。この合成魔法で魔力残量が残り2割程まで減りましたが、全然問題ありません。
周囲に突然現れた異質な空間に、両部隊の学生さん達が騒めき出します。
「ミズファちゃん、一体何をしたの?」
エリーナが若干焦りを見せるように質問してきました。
この【合成結界】は秘密で特訓した物なので、頭の中を読むプリシラ以外は知りません。
「周囲を流れているうねりは「見える魔力」です。これは僕の独自結界が展開中だという意味に捉えても貰っていいです。魔力のうねりが現れて、途切れる場所までが範囲内で、この結界は僕にしか恩恵がありません」
エリーナが結界を観察しています。そして周囲を軽く見ながら更に質問してきます。
「それで、この結界はミズファちゃんにとって、どう有益に働くのかな?」
「この結界が展開している間は、中に囚われている人物は外に出る事が出来ません。そして、この結界内の僕は約3分程度の間、魔力を一切消費しません。なので僕の今の状態は、実質魔力残量「無限」です」
更に、と付け加えて僕は続けます。
「3分間僕の魔法攻撃は全て、囚われている対象全員に当たります。防御壁、魔法具、完全耐性を無視します」
「……噓でしょ?」
「嘘じゃないです」
エリーナが絶望したような顔をして、その後ろのクリス君は、もはや理解が出来ないとばかりに頭を抱えてうずくまっています。
「あ、でも僕の意思でいくらでも結界内のルールは変えられるので、今回は特別にエリーナだけ対象から外してあげますね」
「……え?」
「それじゃ……赤軍の部隊の皆さん、お疲れさまでした」
僕は頭の中で魔法攻撃を思い浮かべました。
すると、考えただけで無限に魔法が生成され、途切れず赤軍を襲います。ツバキさんの最上級魔法からヒントを得た、3分間だけの完全世界です。
何の魔法か、属性は何か。そんな括りはこの空間には存在しません。イメージした物が魔法になるからです。
そうですね、例えて言うなら【無属性】でしょうか。
あらゆる事象で攻撃を受け、フラッグは粉々になり、瞬時に赤軍の部隊は全滅しました。クリス君も例外なく戦闘不能です。
そして丁度魔力回廊の時間が終わり、周囲の魔力の波が見えなくなっていきます。
「……なにそれ」
放心したようにエリーナが呟きます。
「もう魔力の回復は出来ませんよ。重ね焔の維持も辛いんじゃないですか?」
「……」
僕は少しずつエリーナに近づいていきます。
その分だけエリーナは後ろに後退しつつ。
「参ったなぁ。ミルリアちゃんだけじゃなく、愛娘にまで想定外の事されちゃって、打つ手なくなったよぉ」
いつもの温和なエリーナに戻っていました。
「このまま大人しくしてくれるなら何もしません。せめてプリシラとシズカさんの決着がつくまでゆっくりしませんか」
「解ったよぉ。ここで差し違えてミズファちゃん倒しても、そこで私の魔力枯渇するだろうからねぇ。シルフィちゃんまでは無理だよぉ」
その場にペタンと座り込んで両手を上げつつ、降参の意思を示してくれました。
僕は部隊の皆さんに待機をお願いして、エリーナの隣に座ります。
離れた場所で戦っているエステルさん、シルフィちゃんVSレイシアを観戦する為です。
制限時間残り20分程、といった所でしょうか、レイシアは五姫と特殊能力者二人を相手に一歩も引いていません、凄いです。数人しかいなかった黄軍の一般生徒は流石に戦闘不能になっているみたいですが、驚く事に、結構な数がいた筈の緑軍の部隊もほぼ壊滅状態です。
レイシアのデートにかける執念、なんでしょうか。
基本はシルフィちゃんを狙いつつ、定期的に直ぐ術式が組める初歩魔法を挟む事で、エステルさんの天球へと響く独唱曲を阻害する戦法のようです。
攻撃は最大の防御とはよく言ったもので、シルフィちゃんは絶え間なく魔法攻撃が来るので、防御壁ばかりで中々攻撃に転じられていません。
ですが、僕側にいた部隊の皆さんがシルフィちゃん達の援護に回りたいと言うので、お願いしました。それがレイシアを追い詰めるきっかけになり、緑軍の部隊からの波状攻撃を防御壁で防ぐ事で精いっぱいの様子でした。そろそろ頃合いでしょうね。
立ち上がり、レイシアの傍まで移動すると、僕は部隊の皆さんに攻撃中止をお願いします。
「レイシア、もう十分でしょう。一緒にゆっくりしませんか」
「嫌です! ミズファとの時間は誰にも……」
「御免なさい、レイシア。特定の人とだけの時間は作るつもりはないです。僕はレイシアを含めて、皆との二人の時間を作りますから」
「……え?」
「最初のデートのお相手は、勿論レイシアです! 当然ですっ」
僕の笑顔の発言に、涙ぐむレイシア。
「行事が終わったら、僕皆と一緒に用意したい物があるんです。その後に二人で遊びましょう。少しだけ待っていてくださいね!」
「ええ。解りました、ミズファ。いつも貴女に待たせられてばかりですから、慣れっこです。もう少しだけ、待つ事にしますね」
レイシアは涙交じりの可愛らしい笑顔を僕に向けてくれました。
そして、レイシアとエリーナを含めた緑軍皆で、プリシラとシズカさんの元へと向かいます。
まだ少し離れているのに、プリシラとシズカさんの攻撃の余波が来ています。この余波だけで部隊の一部が、同行を辞める程です。
そして戦闘区域に入ると、どうやら間もなく決着がつきそうです。
二人の最後の交戦、圧しているのは。
シズカさんでした。
「【二条神明流奥義、「鳳仙花」】」
「【真祖・血術深紅の大災厄】!」
シズカさんの頭上に赤い血だまりが出現し、ドロリ、と滴り落ちると、それはあらゆる武器に変化し、数えきれない程の赤い凶器がシズカさんを襲います。
そして、同時に発動していたシズカさんの技で、プリシラは赤い大きな花の中に囚われます。
シズカさんの目の前まで迫っていた大量の武器が停止し、またもやドロリ、と滴り落ちるとそのまま消えました。
花が回転しながら花弁を散らしていくと中からプリシラが現れ、その場に倒れて腕のフラッグが消滅しました。ここで決着です。
シズカさんが微笑みながらプリシラを抱きかかえて、こちらに寄って来ます。
「ミズファさん、それに皆さん、私とプリシラちゃんの遊びに付き合ってくれて有難うございます」
「いえ、むしろ最初から二人の戦いを見れなかったのは残念です。見た所、プリシラも満足したみたいですね」
幸せそうにシズカさんの腕の中で眠っているプリシラ。こうしていると、本当にただの少女にしか見えないですね。お疲れ様です、プリシラ。
「どうやら、赤軍も黄軍も負けのようですね。私も楽しかったので、ここで降参です」
エリーナとレイシアを見たシズカさんは、笑顔で僕に降参の意思を示します。
これをもって第一回、魔法大戦が終了しました。




