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三つ巴

 30分程で緑軍陣地に戻った僕はその後の状況をシルフィちゃんに確認します。

 未だにプリシラとシズカさんが接戦状態にあり、エリーナとクリス君は遺跡跡側から二人の戦闘区域を迂回するように緑軍へ迫っているらしい、との事。決着をつけに来たようですね。


 そして茶軍ですが……。


 今僕の両隣には、右手を握って離さないアビスちゃんと、左腕にしがみついて離さないミルリアちゃんがいます。どっちもずっと泣いたままです……。


 あの後、アビスちゃんが必死に抵抗しましたが、もう魔力が枯渇状態にあったミルリアちゃんでは僕の攻撃を防ぐ事ができず、直ぐに「像が破壊されました」。流石にボロボロの二人に攻撃なんて、そんな可哀そうな事出来ませんからね。


 凄く頑張った末で、本当に御免なさいですけど、ここで茶軍も敗退となりました。

 像が破壊されるとアビスちゃんが泣き出し、僕にしがみ付いてきました。

 ミルリアちゃんもゆっくり僕に近づいてきて、アビスちゃんに続くように泣き出してしまいました。


 そんな二人を置いて離れる事なんて出来ないので、そのまま二人を連れて戻ってきた訳です。

 そろそろエリーナ達もここに到着する頃でしょうから、僕はずっと離さないアビスちゃんとミルリアちゃんに向けて思っていた事を伝える為、語り掛けます。


「アビスちゃん、ミルリアちゃん。これが終わったら、ちゃんと一緒に遊べる時間を作ります。お願いですからもう泣かないでください」

「ほんと……?」

「レイチェルさんが妙な事を言い出したせいですけど、権利なんか無くても僕、二人といくらでもデートしますよ。他の皆もです!」

「主、様……」

「だから、少しだけ待っててくださいね」


 二人に笑顔を向けると、ようやく手を放してくれました。


「みずふぁ、やくそく!」

「うん、約束です」

「私も、主様のお声が、かかるのを……お待ちしています」

「うん、ミルリアちゃんも必ずお誘いしますから!」


 思えば、皆と一緒にいる事は多いのですが、遊びに出かけたり等の時間は減っていたように思います。王都に来てからずっと慌ただしかったですからね。

 折角大きな街があるんですから、皆とお買い物したり、美味しい物を食べたりしたいです!


 多分、デートって二人でするものですよね。なので順番になりますけど、それぞれちゃんと二人の時間を作ります。


 その後、アビスちゃんとミルリアちゃんは本陣へと戻っていきました。

 僕は手を振って二人を見送った後、気合を入れなおして赤軍との戦闘に挑みます。


「あの、ミズファ様」

「はい、なんでしょう?」


 アビスちゃんとミルリアちゃん二人とのやり取りをずっと見ていたエステルさんから話しかけられます。


「私もミズファ様と遊びたいなぁ、などと……。その、駄目でしょうか」

「え、全然いいですよ、むしろ嬉しいです! 時間を作ったら僕からお誘いしますね」


 続けてシルフィちゃんが右手を挙手しつつ。


「ミズファお姉様! 私も遊びたいですわ!!」

「勿論いいですよ! シルフィちゃんがしたい事、沢山して遊びましょう」


 二人とも、お互いに手を合わせて喜んでいます。シルフィちゃんとエステルさんは仲良くなってからは、よく一緒にいるのを見かけるようになりました。

 一方はお姫様で、一方は一度は奴隷を経験している貧民層の出。それでも気が合う二人には、何か通じる物があるんでしょう。


「さぁ、部隊の皆さん。エリーナ達を迎え撃ちますよ!」


 おー、と皆さんが呼応してくれます。


「黄軍もまだ健在ですから、レイシアの行動にも注意ですね」

「赤軍との戦闘を見据えて、その隙に像を狙うなどもあり得ますわね」

「常に天球へと響く独唱曲(アリアスタースフィア)を展開し続けて、レイシア様などからの奇襲に対応可能にしておきますね」


 そして間もなく戦う事になるエリーナですが。

 クリス君の能力、天使の抱擁(エンゼルリカバー)で幾分か魔力を回復している筈です。茶軍から撤退したのも、魔力を回復する為でしょう。

 今後定期で行事を行うのなら、五姫や特殊能力者など魔力が高めの人からはクリス君の能力がかなり重要視されそうですね。

 魔力が枯渇気味だと、その時点で行動不能と殆ど変わりませんから。それに、完全に枯渇すると意識を失いますし……。


 再編成された部隊の皆さんに炎属性の防御壁を中心に展開するようにお願いしつつ、防衛布陣を敷いておきます。相手はエリーナですからね。


 エリーナは五姫で唯一、最上位魔法を一般学生に合わせた威力で使用できます。

 なので、普通は威力を抑えると魔力燃費が良くなると誰でも思いますし、ただでさえ長持ちするエリーナの最上位魔法は向う所敵無し、のように行事開始前は思えましたが……。


 威力を抑えるには意識を限りなく研ぎ澄まさなければいけないらしく、普通に使用する以上に魔力を注ぎ込んで、威力を抑える為の「魔力の壁」を意識下に作る必要があるそうです。イメージに一番近いのは、膨大に流れる水を塞き止める為の柵、ですね。


 エリーナの使う重ね焔の自動追尾はこういった行事ではとんでもなくズルい、もとい便利な魔法なのですが、威力塞き止めで魔力を使っていたと思われるので、ミルリアちゃんやアビスちゃんの奮戦で、枯渇気味に追い込まれた、と予想します。


 残り時間も1時間程なので、緑軍と戦う場合もう魔力回復する時間も無いですし、与えません。


「ミズファお姉様、来ましたわ!」


 エリーナがゆっくりと木の合間から姿を現します。

 その後ろにはクリス君と、恐らく青軍側に侵攻していたと思われる残存部隊が控えています。


「ミズファちゃんさっきぶりだね。いやー参ったよ、ミルリアちゃんに魔力が無くなりかけるまで粘られるなんて思わなかったからね」

「ミルリアちゃんも毎日修行してますし、アビスちゃんもいましたからね」

「赤軍の殆どはアビスちゃんに壊滅させられちゃったね。まぁ今はそれよりも愛娘かな」


 残りの部隊が攻撃の為、前に出てきます。

 それに合わせて、こちらの部隊も属性防御壁をいつでも展開出来るように身構えます。


「まだ、シズカさんとプリシラが戦ってますけど、いいんですか?」

「本来の目的は勝つ事なのはシズカちゃんも理解してるよ。それに私が無理しなければいいだけだから」


 僕達にしてみればシズカさんが残っても、プリシラが残っても厳しいのは一緒です。

 後方の憂いはもう無いので、前から来る相手をただ受けるだけで良いのは楽ですけど。


「無理をしなければいい、というのは私にも言える事です」


 少し離れた木から、数人の一般学生と共に、レイシアが近づきながらそう言います。

 レイシアも劣勢の中、まったく諦めていない様子です。それにレイシアはまだまだ、魔力を十分に残していますから、その意味ではエリーナ以上に危険ではあります。


 これは、戦闘を終わらせてからじゃないと、まともにお話を聞いてくれそうに無いですね。


「シルフィちゃんとエステルさんはレイシアの抑えをお願いしてもいいでしょうか。部隊の殆どはレイシアに向かわせますので!」

「エリーナお姉様とレイシアお姉様が頑張っているのですから、ここで私が逃げていてはミルリア姉様とウェイルに笑われてしまいますわ。お任せ下さいですの!」

「レイシア様は引き受けました。ミズファ様、栄えある一度目の魔法大戦、勝利して締めくくりましょう」

「勿論です!」


 こうして、三つ巴の戦いが始まりました。


 赤軍の部隊が術式を組み始めました、狙いは僕です。

 エリーナは既に重ね焔を展開し終えて、クリス君は後方から補助に徹しています。


 じゃあ、僕達もいきますか。

 部隊の七割はシルフィちゃん側に付いて貰ったので、残り三割の皆さんに防御壁展開をお願いします。

 制限時間もあまり残っていませんし、まずは素早く赤軍の残存部隊に退場して貰います!


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