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プリシラとシズカ

 黄軍が一斉に魔法を放つと、シズカは軽やかに回避しながら間合いを詰めて来ている。

 そろそろ「技」を開始出来る間合いだわ……盾として利用している黄軍の学生には本当に悪いとは思っているの。けれど「黄軍の勝利」を達成する為よ、どうか我慢して頂戴。

 シズカが現れた時点で、個人で好成績を収めるという目標は誰にも達成出来ないけれど、軍の勝利は所属者全員が様々な評価を得られるから、無駄にはならないわ。


 どのような者でも、「対象を攻撃した瞬間」は第三者からの攻撃を回避する事は難しい。私が狙うのはそこよ。シズカは魔力の殆どをミズファに継承しているから、今はもう強力な魔法耐性を自らに付与する事は出来ない筈。ただし、相変わらず重魔法は扱えるし、三~四重程度までなら初歩の強化魔法を術式省略で可能よ。


 いくら初歩とはいえ、重魔法の自己強化なんてされたら、殺すつもりで古代血術を使わなければ攻撃を当てる事すらも出来ないわね。シズカの重魔法は、初歩を五姫の扱う魔法と同等の威力にまで昇華させられる、とんでもない化け物よ。


 殺し合いをしている訳では無いのだから、シズカも私も本気なんて出すつもりは無いのだけれど。

 でも、シズカを屈服させたいと思う気持ちは以前と変わらない。膝をついて私の前でうなだれるシズカを思い浮かべただけでゾクゾクするわ。


「レイシア、シズカの技が始まるわ、下がっていて」

「ええ、リーダーという立場である以上、シズカさんと戦うリスクが高すぎますものね。大変歯がゆい所ですが……解りました」


 後方に走って行き、木にレイシアが隠れるのを確認した頃合いに、シズカが攻撃に転じる。


「【二条神明流一の型「神歩」】」


 シズカが目にも止まらなぬ速さで黄軍に接近し、肘を突き出して空撃ちすると、直線状の学生達のフラックが風圧で粉砕される。


「ニの型「古月」」


 流れるように、次は矢を射出するような動作で、掌底と呼ばれる手のひらを前に突き出すと、扇状に立っている学生のフラッグが吹き飛び粉々になる。


「【三の型「薙」】」


 体を回転させ、その勢いで手刀を黄軍に向けて空撃ちすると、残り僅かになっている学生のフラッグを真っ二つに切り裂く。


 これ以上シズカに技を使わせては駄目だわ、今のほんの少しの間に、黄軍が全滅直前まで減らされている。

 今の一連の動作、僅か1分よ……。


 次の「型」に割り込むわ。

 本気を出してもいいなら、全ての攻撃を相殺できたのだけれど。本当に歯がゆいわね……。


「【四の型「炎舞」】」

「【真祖・血術赤き魔槍(ブラッドスピア)】」


 赤い三又の槍がシズカの斜め上に出現し、フラッグめがけて高速で射出される。

 タイミングは完璧だった筈よ。けれど……炎を纏った足で槍を蹴り上げられ消滅し、シズカを仕留める事は出来なかった。


「型」は初めから私の攻撃にぶつけるつもりだったようだわ……。

 残り数人となった学生に攻撃を止めさせ、レイシアの位置まで後退させつつ、シズカの前に姿を現す。


「何故私の攻撃が解ったのかしら」

「プリシラちゃんは隠し事が出来ない子ですからね」

「……それはどういう意味かしら?」

「木から少し身を乗り出したんですよ、プリシラちゃん。攻撃する合図をしてくれるなんて、おちゃめさんですね」


 確かに、フラッグを狙う為にシズカを見たのだけれど。それは、ほんの一瞬よ。

 それで私の攻撃意思を即座に感じ取るなんて、やはり化け物ね。


「かくれんぼの次は何をしましょうか?」

「挑発のつもりかしら?」

「冗談です。純粋に楽しんでいるんですよ。楽しいからこそ負けたくないですし、ミズファさんとのデート権は渡しません」

「悪いけれど、私はあの子に関しては貴女以上に本気よ。いずれ、ミズファをブラドイリアに連れて行くわ。彼女を新たな王として迎える用意が、私にはあるの」

「なんとなく解っていましたよ。私が居なくなった後に建国した国の事。そして「ブラドイリアという国があると誤認させているだけ」だと言う事も」


 やっぱり知っていたのね。いえ、一度この世界から消えたからこそ、誤認に気づけたのかしら。城と城下町は確かにあるのだけれど……国として成り立つ程の体を成していない。私一人では国を成す事は難しいと判断したが故の誤認能力。けれど、私はミズファとなら、一から国を作れると思ったの。


「まぁ、今はその話は置いておきましょう。学院生活も思いの外、気に入っていた所だし。」


 赤い魔法陣を出現させ、戦闘態勢に入る。

 奇襲に失敗したからと言って、それで負けるつもりはないわ。


「はい、楽しいですね。ミズファさんとの学院生活も、プリシラちゃんとの戦闘も」


 シズカもゆっくりと「型」の動作に入る。

 そうね、楽しみましょう。もう二度と来ないかもしれないと一度は絶望したこの「時間」。

 それを用意してくれたミズファ、本当に感謝しているわ。


 -------------


「青軍が既に負けてるんですの!?」


 シルフィちゃんが信じられないように聞き返す。

 黄軍が緑軍陣地内に侵入したと同時に青軍へ斥候を送った所、程なくして既に敗退していたとの知らせを受けました。

 プリシラとの戦いでカティアさんとルチアさんを失い、手負いとなったツバキさんとウェイル君はシズカさんに負けたようです。開幕から暫く、近接戦闘が出来るウェイル君がシズカさんを抑えていたようですが、戦闘経験の差が出てしまったようです。けど、かなり善戦したようですね。


「だからシズカさんは次の目標をプリシラにした、という所ですか」


 黄軍とシズカさんにも斥候を送っているのですが、現在二人は戦闘中のようです。……うー、直接見に行ってみたいです。

 青軍がいないのなら、黄軍側からはもう像に奇襲をかけられる事も無いですし。


 因みにエリーナはまだ、緑軍に姿を見せていません。

 ミルリアちゃんとアビスちゃんが頑張っているのだと思いますけど、像まで辿り着けているなら、それほど苦戦する事もなさそうです。


 先に茶軍を見ておくべきですね。プリシラとシズカさんはきっと、緑軍には暫く攻めてきません。そんな気がします。


「シルフィちゃん、エステルさん、僕ちょっと茶軍に行ってきます。斥候の報告なら、黄軍はもう壊滅に近い状態のようですし、プリシラもシズカさんと戦闘中のようです。なので、今の内に後方の憂いを断って置きます」

「解りました、私達はこのまま像の近くで待機で良いのですよね?」

「はい、今のプリシラとシズカさんへの介入はしない方が良いと思います」

「勿論ですわ、ミズファお姉様。場を読めない私でも、今の二人に水を差すような行為は致しませんの。ここはお任せ下さいまし」


 二人の了承を取り付け、緑軍と茶軍の境界まで移動すると、やはり赤軍も茶軍もこちらに攻めて来ている様子はありません。そのまま走って茶軍の像近くまで移動します。


 茶軍の陣地内にも学生が見受けられません。赤軍との戦いで壊滅したのでしょう。茶軍が既に敗退している可能性も考えましたけど、像を視認した時点でそれは間違いであると解ります。

 アビスちゃんもミルリアちゃんもまだ生存しています。そしてエリーナの姿が見えません。


「あ、みずふぁが来たよ、みるりあ。きをつけよー」

「解り、ました。主様を警戒……」


 二人は僕が近づいてくると戦闘態勢に入ります。

 けど二人には聞きたい事があるので、まだ戦うつもりはありません。


「二人とも、頑張っていたみたいですね」

「うん、わたしがんばったー」

「アビス様のお力で……今も、どうにか敗退は避けられて、います」

「エリーナはどうしたんですか?」

「えりーなはおいはらった!」


 えっへん、と言わんばかりに腰に両手を当て、ドヤ顔のアビスちゃん。


「凄いです、流石はアビスちゃんですね」

「みずふぁにほめられたー」

「あぅ、私も……頑張りました」

「うん、ミルリアちゃんもお疲れ様!」


 僕の言葉を聞くと、両手を頬に当ててもじもじしているミルリアちゃん。

 他軍に褒められて嬉しがる二人がかわいいです。


 大体戦況が解かってきました。

 見た所、茶軍もこの二人を残して生徒は全滅、赤軍も恐らくエリーナとシズカさん、それとクリス君と像の防衛部隊くらいでしょうか。そして青軍は敗退し、黄軍もほぼレイシアとプリシラのみ。


 と、なれば……最終的に相手になるのは。

 僕の攻撃態勢に気づき、頬が緩んでいたアビスちゃんとミルリアちゃんが警戒します。エリーナとの戦いで消耗したようで、二人とも可愛い学院服が所々破れていたりしていて、痛ましいです。

 とっても頑張った二人ですが、せめて僕の手で倒してあげたいと思います。


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