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黄軍と一人の少女

「大分戦力が減りましたわね……」


 緑軍の部隊再編制が終了した後。僕とシルフィちゃんとエステルさんで今後について相談していた所、部隊を見回しながら残念そうに呟くシルフィちゃん。

 緑軍は開始時の約5割程まで人数が減っています。


「でも多分、僕達緑軍が一番活動できる人数多いと思いますよ」


 青軍の残存戦力がちょっと解りませんけど、プリシラがツバキさんと戦っていたと言うのであれば、相当青軍の人数を減らされていると思われます。


「ミズファお姉様のお陰ですわね。防御部隊の皆様が、ミズファお姉様がいらっしゃらなければ全滅していたと仰っていました」

「防御部隊の皆さんが苦境に立たされたのは半分僕のせいでもあるんですけど……」

「どう言う意味ですの?」

「あ、いえ何でもないです!」


 プリシラと繋がっている事実は秘密という事になっているので……。


「シルフィ様、ミズファ様、次はどうされますか?」

「そうですわね……。茶軍に攻めて漁夫の利という手が無難でしょうか、ミズファお姉様?」

「うーん……」


 予想だと、エリーナがミルリアちゃんとアビスちゃんを相手に戦ってる頃でしょうか。

 一気にリーダーを二人落とせるチャンスではあります。


 ですが、レイシアとプリシラが気がかりです。

 僕の考えが筒抜けなので、茶軍侵攻中にあの二人に像を狙われたら即終了です。

 いっそ、先に黄軍を落とすべきかとも思いますが、少なくとも僕かエステルさんのどちらかが間違いなく犠牲になるでしょう。或いは僕がプリシラを引き付けておき、エステルさんと再編成した部隊の皆さんで像を壊してもらうか。まぁ、この考えが既に筒抜けなんですが。


 僕が考えれば考えるほど有利になるのは黄軍という、これでは僕はただの黄軍の回し者みたいじゃないですか!プリシラには後でお話があります。お説教です。


 因みに偽情報を与えて、プリシラを混乱させるという逆手に取る方法はありますが、それをやるのは黄軍を本気で落とすと決めた時です。つまり、そう考えた時点で警戒される訳なので有効とは言えません。

 それに、僕の偽情報を信じてしまい、さっきのレイシアみたいに何らかの理由で本気攻撃を出されたら、誤って人を殺してしまう可能性だってありますからね。


 ここまで考えて、まだ案が浮かばない僕。赤軍或いは茶軍と同時に、黄軍に挟み撃ちにされる前に、どうにかしないとですね。


 あ、そうか。


「いっそ、挟み撃ちの状態にしてしまいましょう」

「え?」

「ミズファ様、急にどうされたんですか?」

「はい、ちょっと思いついたんですけど……」


 二人に作戦を話します。別にプリシラに筒抜けでも構いません。


 -----------


「レイシア、ミズファは私達を誘ってるわ。茶軍或いは赤軍と私達を戦わせる腹積もりね」

「茶軍側に出向かないと言う事は、専守防衛に切り替えたのでしょうか?」

「どうかしら。スキあらば、いつでも攻撃してくると思うわよ」


 大分ミズファの頭の中で葛藤していたようだけれど、作戦を決めたようだわ。

 茶軍側も黄軍側も、どちらも切る事ができない。なら、お互いが攻めてくるように差し向け、潰し合わせるつもりらしいわ。


 私達が警戒して攻めないなら、それはそれで緑軍の好都合、茶軍か赤軍とだけ戦えばいい。

 どっちにしても有益に働く、という事ね。


「プリシラ様、どうされますか? この通り、黄軍は防御部隊の皆様を残すのみとなっていますし」

「ツバキに先制を許したのは痛手だったわね」

「私はミズファの魔法で攻撃部隊の皆様を全て失ってしまいました……」

「仕方無いわ、ミズファの魔法は誰にも止められない。あの子が行動を起こした時点で全力で守りに徹するか、逃げるしか選択肢が無いもの」


 だからこそ、早めにミズファを戦闘不能に追い込まなければならないわ。

 反対側に位置する軍には、シズカという化け物もいるのだから、ミズファばかりに気を取られていられないもの。


 ただし、ミズファには封印能力がある。本人は極力使わないと前持って言っていたけれど、別に禁止されている訳では無い。私と刺し違えるような段階なら、使ってくる筈だわ。

 なら、ここの学生達には悪いけれど、ミズファの盾になって貰うわ。その合間に私の手でミズファを戦闘不能にさせる。ツバキの動向も気掛かりだし、動くなら早い方がいいわね。


「決めたわ、緑軍に攻めましょう。向こう側の軍と鉢合わせするならそれでも構わないわ。緑軍を無理やり戦闘に参加させて、三つ巴にすれば勝機は必ず出てくる筈よ」

「攻められるのですね。解りました、では防御部隊の皆様に進軍要請を出して参りますね」

「ええ、それと像の防衛は数人だけでいいわ、陣地内は蝙蝠に監視させているから。それに、いつまでも黄軍にツバキが来ない所を見ると、シズカに捕まった可能性が高いわ。今が緑軍に攻める絶好機よ」


 本来は蝙蝠で他軍を監視するつもりだったけれど、レイチェルに監視能力の領域を超えすぎている、とか言われて禁止にされてしまったわ。まったく、だれに向かって言ってるのかしら。


 レイシアの合図で緑軍陣地の林の中へと侵入していく黄軍部隊。

 どうやら、緑軍の斥候らしき学生が、私達を遠くから見ているようね。此方の攻撃を受けないよう遠くから監視するようにミズファが指示していたわ。


 緑軍の陣地中央付近まで侵攻しても敵部隊がいないわね。恐らく像付近に固まっているのかしら。

 その方がこちらとしても楽ね、像ごと一気に殲滅できるのだもの。


 そして像のある方向へ向かおうとした矢先。

 何者かが遺跡跡の方角から歩いて来ている事に気付く。


「レイシア、念の為気をつけなさい」

「ええ。ですが、近づいて来る方から余り魔力を感じませんので、五姫ではありませんね。それでも、学院上位成績者以上のようですけれど……」


 黄軍部隊にも指示を出し、木に隠れ様子を伺っていると。

 姿を現したのはシズカだった。繋がっていた事もあるこの私にすら直ぐには特定させない程、静かな海のように落ち着いた物腰で近づいて来ているけれど、内に秘めている力は嵐その物。一度荒れた海に捕まれば、その後は何も残らない。


「レイシア、黄軍陣地方面にいつでも後退できるようにして置いて頂戴!」

「ええ、まさかシズカ様が緑軍へ来るなんて……。しかも、たった一人で。黄軍部隊の皆様、遺跡跡方面に向かって警戒して下さい」

「魔法が届く範囲まで近づいてきたら、部隊に攻撃指示を出して」

「解りました」


 シズカは此方の様子など一切気にする事も無く近づいて来ている。

 赤軍はエリーナも攻めていると言うのに、シズカまでこんな場所に来るなんて……。クリスという少年に防衛を任せているにしても、彼だけでは厳しいのではないかしら? 何しろ彼は補助に特化した特殊能力であり、攻撃魔法は一般の学生より素質がある程度。とても青軍を抑えられるとは思えないわね。しかも、青軍にはウェイルがいるのだから。


 やがて、こちらの魔法が届かない一定の距離で立ち止まると。


「プリシラちゃん、かくれんぼですか。どの木に隠れているんでしょう」


 黄軍部隊を盾に隠れている私を探すシズカ。その至って静かな物腰に、恐怖すら覚えるわ……。

 初めて出会った際も、異様に落ち着き払っていたわね。


「では、黄軍の皆さんに退場して貰ってから探す事にしましょうか」


 ここで部隊の数が減れば、ミズファの抑えが利かなくなるわね。けれど、そうも言っていられないわ。

 相手は一定距離内の戦闘においては、ミズファより厄介なのだから。


「プリシラ様……」

「解っているわ。もう少し近づくまで待って」


 そして、唐突に走り出すシズカ。


「今よ! 一斉攻撃指示を!」

「皆様、走ってくるシズカ様へ向かって一斉攻撃をお願いします!」


 走ってくるシズカの表情は、心底楽しそうに見えた。

こうして彼女と戦うのは久方ぶりね。いいわ、来るなら来なさい。その静かな自信、直ぐに後悔へと変えてあげるわ。



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