不可解な黄軍
けん制で攻撃魔法を放った後、魔法耐性を上昇させた防御部隊の皆さんに前進指示を出します。先程までとは違い、風と光属性魔法が混ざっていても、直ぐにやられてしまうような事は無くなりました。
僕の攻撃が広範囲に届く位置まで前進して貰うと、直ぐに僕は次の魔法を展開します。
「範囲指定、【天雷】!!」
威力を抑えた雷を黄軍の学生さん達に落とすと、ごっそりとフラッグが焼け焦げて消滅します。
こちらが攻勢に切り替わったのを察したのか、黄軍が少し後退します。
それに合わせて前進すると、ミシャさんとレイシアが同時に魔法を飛ばしてきます。
レイシアが放つホーリーアローの威力が向上しているらしく、今度は魔法耐性を上回り、防衛部隊の一部がフラッグを射貫かれました。
「対応が早いですね……。 仕方ない、範囲指定、二重風属性耐性強化、二重光属性耐性強化、二重魔法耐性強化」
今度ばかりは、かなり威力を上げないと僕の属性耐性を上回る事は出来ません。魔力がかなり減ったのが解ります。
これでほぼ無敵、と思ったのもつかの間、耐性魔法を防御部隊の皆さんにかけ終えると、ミシャさんの能力が乗った土属性魔法とレイシアの初歩の炎属性の魔法が飛んできました。それ以外の黄軍の攻撃部隊から氷系統の魔法が飛んできます。
いくらなんでも、属性を切り替えるのが早すぎます。
しかも、レイシアはかなり本気で魔法を放っているのか、二重魔法耐性強化がかかっている防御部隊数人のフラッグを燃やしました!
何故僕が耐性を強化した事が解ったんでしょうか。先読みしたように属性も切り替えてきましたし。
今のレイシアの行動は、一度僕のかけた耐性で弾かれた後ならまだ解ります。
けど、迷う事無く本気気味で撃ってきました。こっちが耐性強化していなかったら、レイシアに狙われた防衛部隊数人重症でしたよ!
これって、僕の行動を読んでいるんでしょうか?
となると……プリシラが僕の考えを読み取って、レイシア達に教えていると言う事になりますが、今戦っている黄軍の攻撃部隊にはプリシラはいません。
そう考えている間にも、黄軍からの攻撃は続いています。
此方の行動に即時対応してくるとしたら、このままだと防御部隊の皆さんが僕のせいで壊滅してしまいます。
三重以上の魔法耐性を部隊にかければ凌ぐ事は出来ると思いますが、重魔法を範囲指定で行うと結構魔力の消費が激しくて、頻繁には使えないのです。かなりの人数に耐性付与するので、その分魔力消費は非常に膨れ上がります。
今後もこういった苦戦する状況がどれ位あるか解らない中、ばんばん範囲指定で魔法を展開していると、いざ必要な時に魔力が殆ど無くなっていた、なんて事になり兼ねません。というか、エステルさんみたいな特殊能力者でも無い限り、沢山の人に補助魔法を何度もかけられるのなんて僕くらいしか居ないんですけどね。そもそも、普通の人なら術式を組む必要もありますし。
「防御部隊の皆さん、林に後退をお願いします! そして誰か一人、シルフィちゃんへ状況報告に出向いて貰って、部隊の再編制をお願いして下さい!」
一先ず防御部隊の皆さんに後退指示を出しつつ僕だけが残り、黄軍からの攻撃を一手に引き受けます。僕一人だけなら、耐性強化の魔力消費も殆ど無いので、むしろ楽になりますからね。
その後、攻撃するのが無駄だと悟ったのか、黄軍の攻撃部隊からの魔法が止みました。やっぱり、こっちの行動に即時対応しているのは間違い無いですね。
うーん、面倒なのでちょっと本気出して直ぐに終わらせましょうか。魔力の温存をどれだけ出来るかが重要ではあるんですが……。プリシラに考えが筒抜けというハンデを持っているので、ここが魔力の使い時だと思う事にします。
僕が攻撃するのが解ったらしく、黄軍の攻撃部隊が後退を始めます。そうはさせませんよ。
こちらの行動が解かったからと言って、何でも対応できると思ったら大間違いです。
「範囲指定、天雷+見通す目を合成、「【雷蛇】!!」
雷が僕の指先に収束します。そして、蛇のようにうねり出すと先端に目が出現し、口を開けて黄軍へと襲い掛かります。
雷のようにジグザグに次々とフラッグを貫いていき、防御壁をも貫いてミシャさんがここで戦闘不能となりました。余り射程は長くないので、黄軍の攻撃部隊の約8割程のフラッグを貫いた所で雷蛇が消えます。
レイシアは既に射程外にいました。この魔法は以前レイシアにも見せているので、雷蛇の射程を覚えていたようですね。そして彼女が逃げていく時、ようやく理解した事があります。
レイシアの後ろに隠れるように「蝙蝠」がいたのです。
これでようやく疑問が解けました。蝙蝠を介して、プリシラと常に会話が可能な状態にあった訳です。
更に魔法を展開し、残りの攻撃部隊を行動不能にして、レイシアを追いかけます。
彼女は誘い込むようにチラチラと僕を見返しては逃げていきます。
とっても解りやすいですけど、黄軍のリーダーなので追いかけるしかないですね。
やがてレイシアが立ち止まり、こちらを振り返ります。場所はもう黄軍の陣地内を割と深めな場所まで入っています。
「レイシア、そろそろ観念してください」
「……いやです」
「周りには誰もいないです。 こうしてる間に僕が攻撃したらそれで終わりなんですよ」
「ミズファの事は私が誰よりも知っています。貴女が直ぐに攻撃してこないのは解っています。優しいですから」
「う……今の僕にその手の攻撃は通用しませんよ。プリシラが来ない内に終わらせます。御免ねレイシア」
そして僕は魔法を展開しようとレイシアに手を向けると。
「ご機嫌よう、ミズファ」
頭の中にプリシラの声が響きます。
ようやく話しかけてきましたか、でももう遅いですよ。チェックメイトです。
「それはどうかしら」
プリシラがそう言うと、レイシアが蝙蝠に血を吸わせています。
「……しまった」
その手があった事を完全に失念していました。
魔法陣が目の前に現れ、金髪の少女プリシラが召喚されました。
「さて、これで二対一かしら」
「プリシラ、今までどこにいたんですか」
「敵に教える理由があるのかしら」
「もう血、あげませんからね」
「ツバキを相手にしていたのよ。元からレイシアに呼ばれるまでの足止めのつもりでいたわ」
うわぁ……。
「し、仕方ないでしょう、貴女の血は特別なのよ!!」
「なら、黙ってレイシアと僕の戦闘を見ててください」
「弱みを握って脅すなんて、下種のする事よ。今すぐお止めなさい」
「……」
散々こちらの行動を盗んでた人が言いますかそれ!
「と、兎も角……。観念するのは貴女よミズファ」
無かった事にしました。
冗談はさておき、これは少々面倒ですね。
さし違えれば、レイシアの旗は落とせますが……。その後を考えると、シルフィちゃんやエステルさんに申し訳ないです。無効化能力も手段としてあるにはありますけどね。
黄軍もかなり戦力を減らせた筈ですし、ここはそれで良しとしておきますか。
「逃げるつもり?」
「はい、出直してきます」
「ミズファお願いですから、もう旗を降ろして、ゆっくりしていて下さい。私は、貴女と過ごす時間の為に負ける訳にはいきません」
「御免なさいレイシア。僕もまだ負けられないんです」
プリシラが仕掛けてくる「予感」を感じました。
僕は頭の中に走って逃げるイメージを浮かべておきます。
頭の何かを読んだプリシラが、いつ僕が逃げてもいいように身構えます。
けど、それが狙いです。
「影の扉」
直ぐに影の中に僕の体が沈んで消えました。
「く、頭の中に違う逃走の仕方をイメージしたわね。やられたわ……」
景色が変わり、緑の軍の防衛部隊付近へと戻ります。
いつの間にかシルフィちゃんが居て、どうやら再編成の途中のようでした。
「あ、ミズファお姉様! 単身で黄軍に飛び込んで行ったとお聞きして、心配しておりましたのよ!」
「御免なさいシルフィちゃん、この通り無事です。茶軍と赤軍はどうなりましたか?」
「どうやら、アビス様が孤軍奮闘でエリーナ様以外の赤軍攻撃部隊を纏めて行動不能にしたようですの」
「流石はアビスちゃんですね」
「その後アビス様は後退して、恐らくミルリア姉様と合流したと思われますわ」
エリーナと共倒れが理想でしたけど、世の中そんな上手くはいきません。けど、どの軍も大分数が減ってきていますね。
青軍の状況と、未だ見ぬシズカさんの動向も気になります。プリシラとレイシアも次は何をして来るか解りません。
時計を見ると1時間を過ぎ、残り二時間程となっていました。




