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シズカと五軍

「……んぅ、あれ?」


 目を開けるとシズカさんが僕の顔を見下ろしていました。

 頭には柔らかい感覚があり、どうやらシズカさんが僕を膝枕してくれているようでした。


「目が覚めましたか?」

「そっか、僕全魔力を消費して倒れたんですね」

「そうみたいです。私の為に本当に申し訳なく思います」


 そう言いながら、シズカさんは僕の頭をなでてくれました。


「いいえ、感謝しているのは僕の方ですから」


 僕が笑って応えます。


「貴女程の魔力を持ってしても、蘇生魔法はギリギリなのね。しかも魔法具を付けているのに」


 プリシラが僕の隣で口元に指をあてて考え込んでいます。

 念の為用意したつもりの魔法具でしたが、それでギリギリと言う事は今後も蘇生魔法が浸透する事は無いようですね。ですが、それよりも。


「プリシラ、シズカさんと本当の意味で再会出来たのに、そんな事を考えていていいんですか?」

「倒れてる貴方を無視して、どうして私だけ感動に浸れると言うの? ……まったく失礼してしまうわ。シズカがどうしてもっていうから膝枕を譲っているけれど、本来は私が貴女にしてあげるつもりだったのよ」

「あ……御免なさい。僕、ただプリシラに喜んで欲しかったので」

「ええ、貴方のどこまでも純粋な気持ちはしっかりと私に伝わってきている。本当に、本当に感謝しているわ。有難う、ミズファ」


 そう言うと、プリシラは顔を近づけて、僕の頬にキスをしてくれました!


「あ……あぅあぅ」


 一気に真っ赤になる僕。


「ふふ、ミズファさん初々しい反応ですね」

「ち、ちょっとミズファ! いつまでも近づく私の顔を頭の中で浮かべないで頂戴、恥ずかしいじゃない!」

「そ、そんな事言われましてもぉ……」


 何度も言いますが、恥ずかしなら覗くのやめればいいと思います!


 僕はシズカさんに感謝を伝えながら体を起こします。フラフラしますが、別段問題は無さそうです。

 むしろ、心地の良い気だるさです!


「ミズファ、無理しては駄目よ。何なら、学院は休んでもいいのだから」

「いえ、レイシアとの約束は守りたいので。それに今日、このメルからシズカさんも通学出来るんですし、むしろ嬉しくて早く行きたいくらいです!」

「本当に純粋な方ですね、ミズファさん。可愛すぎて、本気でデート権を取りたくなってきました。誰にも渡したくない気持ちです」

「シズカ……堂々と浮気とは良い度胸じゃない」

「二股と呼んでください」

「余計悪いわよ!!」


 シズカさんは僕の顔をぬいぐるみのようにむぎゅーっと抱きしめています。胸が凄く大きい人なので苦しいです。


「んぅー、二人とも仲良くしてぐだざいー。くるしひぃ……」


 苦しいながらも、今まで感じる事のなかったシズカさんの甘い女の子の香りが、僕の気持ちを更に嬉しくさせているのでした。


 立てるようになった僕は二人を改めて朝ごはんに誘い、カフェテラスへと移動します。

 席に着き僕とプリシラがメイドさんに注文すると、シズカさんはニコニコしているだけでした。メイドさんが困ったように「ご注文をお願いします」と言うとシズカさんは慌てて料理をメイドさんに頼んでいました。


 その後、しばし三人でお話していると料理が運ばれて来ました。食べようと思いつつも、何気に視線を隣へ移すと、シズカさんが注文した倭国料理をじっと見つめています。そっと顔を伺うと、涙を流していました。

 プリシラがハンカチで優しく拭ってあげると、そこでようやく自分が泣いている事に気づき、拭ってくれたお礼を言っています。

 そしてシズカさんはゆっくりと箸で料理を口に運ぶと、噛み締めるように食べていました。


 そこでようやく僕も気づきます。

 何気ないただの食事ですら、彼女にとっては遠い過去に消えかけた記憶なんです。

 料理の味を思い出して、食べるという行為を思い出して、生きている事を実感できたのだと思います。

 そして。


 忘れてはならないのは、キョウカさんが遺した古代魔法具です。

 キョウカさんがシズカさんを、友人を助けたんです。それは何よりシズカさんが痛いほど感じている事だと思います。


 そんな、たまに涙を拭いながら食べるシズカさんのペースに合わせて、僕とプリシラも朝ごはんを楽しみました。


 -----------


 シズカさんが復活してから、四日程経過しました。

 あの朝ごはんの後、伝記の所持者であるツバキさんを始め、仲間皆がシズカさんの復活を祝ってくれました。

 学院に向かうと、レイチェルさんも入学を直ぐに認可し、その日からシズカさんも一緒に通っています。


 そして現在、三日後の魔法大戦に向けて各自鍛えています。

 場所は学院の敷地内にある、様々な標的用の的や木偶人形が等間隔で置いてある魔法訓練施設です。

 ツバキさんがシズカさんに対して一戦をお願いし、それをシズカさんが快く受けたので、今は皆でその練習試合を観戦する所なのです。


「のぅ、シズカ殿。御身は復活したばかり故、妾も加減をするが、キツいようなら言うてくれて構わぬ」

「いえ加減など無用ですよ、ツバキさん。なんなら、この国を凍らせる程でも構いません」

「ほぅ、言うの。では伝記の御仁の強さ、早速試させて貰おうかの」


 ツバキさんが術式を組むと、シズカさんは深く息を吐き、ゆっくりと姿勢を「型」に変えてゆきます。


「ゆくぞ、シズカ殿」

「どうぞ」


 ツバキさんの周囲に氷柱が数本浮いています。これを相手に射出する攻撃魔法ですが、危険な場所に刺されば死にます。

 ですが、魔法大戦形式の戦闘なのでそんな馬鹿な真似はしませんし、あくまで腕についている練習用フラッグ狙いです。


 ツバキさんの周囲から氷柱が射出され、高速でシズカさんのフラッグへと飛んでいきます。

 シズカさんは型を構えた状態のまま動かず。


「【二条神明流十二の型「下り陽炎」】」


 それを見た皆は驚きの声を上げています。

 上空から蜃気楼のように揺らめく数人のシズカさんの分身が急降下し、高速で射出されている氷柱を簡単に捕らえ、拳で破壊して消えました。


「な、なんじゃそれは!」


 ツバキさんが一番驚いています。


 それは無理もないでしょうか。シズカさんが使用した物は魔法では無く、術式省略すらしていません。

 元から会得していた武術とこの世界の魔力を合わせた、シズカさんにしか出来ない「技」です。

 彼女から力を譲り受けた時、技の片鱗を感じ取った僕と、彼女と繋がっていた時期があるプリシラだけが知っています。


 彼女は幾つもある技を華麗に型として繋げていく事ができます。記憶の断片にある、格闘ゲームのコンボがイメージに近いです。

 それをされた場合、無力化能力を使わないと僕ですらまともに相手にするのは難しいと思います。


 単体で使っただけでこれなのです。仮にツバキさんを対象に指定していたら、フラッグが折れていたのはツバキさんの方が先だったでしょう。

 過去に存在したキョウカさんと、未だ不明のミツキさんも恐らく、凶悪な能力を有していたと思われます。流石は国家指定級と共に存在した伝説の人物です。


「これは……分が悪いようじゃの。伝説の御仁を相手取るならば、数人の力をもって戦術で当たるしかあるまい。妾の負けとしておくのじゃ」

「いえ、お互いちょっとした運動程度ですから、勝ち負けなど考えていませんよ」


 ツバキさんはこうは言ってますけど、一度相手の力を見た以上今の技はもう効かないでしょう。彼女も全然本気を出していないのですから。

 周囲で見ていた皆も各々対策を考えているようです。レイシアやミルリアちゃんに至っては僕のようにメモを取っていました。


 僕もシズカさんの対策、考えないといけませんね。どうしても駄目って状況じゃ無い限り完全無効化(インヴァリッドスキル)に頼らず戦いたいので。楽しむ為の行事なんですから、元々の力で戦いたいです!


 -----------


 皆と真面目ながらも楽しく訓練を行った後、寮の自室に戻りました。

 日が経つにつれ、周囲も魔法大戦一色に変っています。


 そういえば今日、五姫や特殊能力者なんかの所属軍が公開されていたんでした。

 再度確認しておきましょう。


 あ、それと。


 すっかり忘れていた特殊能力学科の皆のメモ。これを用意していたボードに留めておきます。


 これで良しです。

 残り三日です。頑張りますよ!


 -----------------


 僕用メモ


 五姫、特殊能力者の軍分け(成績上位者省略)


 赤 エリーナ、クリス君、シズカさん

 赤軍リーダー「エリーナ」


 青 ツバキさん、【カティア】さん、【ルチア】さん、ウェイル君 

 青軍リーダー「ツバキさん」


 緑 シルフィちゃん、エステルさん、「僕」 

 緑軍リーダー「シルフィちゃん」


 茶 ミルリアちゃん、【セレナ】さん、サノスケ君 、アビスちゃん 

 茶軍リーダー「ミルリアちゃん」


 黄 レイシア、【ミシャ】さん、プリシラ

 黄軍リーダー「レイシア」



「特殊能力学科の皆の能力一覧」


【ミシャ】さん


「特殊能力」

 木霊する力ある言葉(スピリットエコー)


「効果」

 術式を組むと、どんな場所でも木霊が返ってくる不思議な力があり、その木霊にも術式が組まれていて、結果的に二連続で魔法を展開できる。重魔法と似た能力だけど、術式省略は不可能。


【カティア】さん


「特殊能力」

 拒絶する音域(マジックハウリング)


「効果」

 魔力を消費して、人には出せない音域を口から発する事ができる。その音域を発している間は、効果範囲内の魔術師は術式を上手く組む事ができない。相手がモンスターの場合は、初級までであればこの能力だけで失神させる。効果範囲25M。


【ルチア】さん


「特殊能力」

 植物親和(プラントアフィニティ)


「効果」

 近くにある木、植物、雑草を伸縮自在に操る能力。巨大化や自立歩行させる事も可能。対象に蔦、伸ばした葉などを絡ませ、移動を阻害する力に特出している。花の操作は不可能。


【セレナ】さん


「特殊能力」

 幻霧の誘惑(テンプテーション)


「効果」

 失われかけている精神系攻撃能力。霧を発生させ、その範囲内の対象に甘い幻覚を見せる。精神耐性魔法は現状使える人はいないと思われるので、とても凶悪な能力。霧の効果範囲15M。


【クリス】君


「特殊能力」

 天使の抱擁(エンゼルリカバー)


「効果」

 常に自身の傷が癒え続ける能力に加えて、対象複数にも同じ効果を付与する。睡眠や高価なポーションを使用しなくても、僅かながら少しずつ魔力の回復も可能。一般学生なら十分な魔力回復になる為、補助能力としては脅威的。効果範囲30M。


【サノスケ】君


「特殊能力」

 四精霊の祝福(エレメントブレス)


「効果」

 四属性を常に変更して使用する事で強力な効果を発生させる能力。例えば炎属性の後に違う属性を使用すると、祝福効果が加算され、自動的に極大化したり威力が増加したりする。炎、風、氷、土にのみ対応。

 四属性の魔法に精通しているので、学院も一目置いている程に魔術師として能力が高い。


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