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日常風景と新たな通学仲間

「……んぅ」


 小鳥が鳴く声が聞こえ、目が覚めます。目をゆっくり開けると天幕が見えました。

 背中ふかふかですし、ベッドで間違い無いですね。昨晩、いつ僕は寝たのか解りません。


「またこのパターンですか……」


 以前お酒を飲んだ時と同じように、レイチェルさんが僕に近づいてきた後からの記憶がありません。

 頭痛は前ほど酷くはありませんけど。


「はぁ……学院に通うのが辛いです」


 独り言のように呟き、起きようとすると腕に温もりを感じました。


「ん?」


 隣に目を向けると。


「みずふぁ~だいたん~……むにゃ」


 アビスちゃんが僕に抱き着いて寝ていました。


「あぁ、そういえば今日からアビスちゃんも貴族専用寮に出入り出来るんでしたね」


 基本的にはミルリアちゃんの部屋がメインですが、アビスちゃんの気分次第で好きな部屋に遊びに行ったり、寝泊りしても良いと皆からの承諾も得ています。

 それにしても、アビスちゃんの寝顔はいつ見ても可愛いです。けどね、とっても気になる事があるんです。


「大胆ってなんですか!?」


 何? 何したんですか僕? アビスちゃんの夢の中の出来事ですよね? 昨夜の事と無関係ですよね?


「……ん~?」


 アビスちゃんが僕の絶叫のせいで起きたようです。

 目をこすりながら「ふぁ~……」とあくびをしています。


「あ、御免なさい、起きちゃいましたか?」

「みずふぁ~おはよ~」

「お早うございます、アビスちゃん。あの、つかぬ事をお聞きしてもいいでしょうか」

「ん~?」

「前夜のご飯中、僕何かしましたか?」


 僕の質問に暫く無言のアビスちゃん。

 その後。


「……ぽっ」


 赤くなりました。

 両手を頬に当てて目線を逸らしています。


「プリシラねーさまから、黙っておきなさいって言われたー」

「……あ、はい」


 僕の二回目の人生終了宣告でした。


「エステルさんには後で誤解を解いて置かないと……」


 まぁ、昨晩何をしたのか分からないので、解くも何も無いんですが。

 取り合えず謝っておくだけでも違うでしょう……。

 

「みずふぁ、私いったん、みるりあの所帰るね。せーふくにお着替えしてくる」

「あ、了解です!このメルからアビスちゃんも学院に通う事になるんですよね。アビスちゃんの学院服姿、楽しみにしてますね!」

「うん!」


 アビスちゃんはベッドから出るとパタパタと入口に駆けていき、僕の方へ手を振った後退出して行きました。彼女を見送った後、僕もベッドから出ます。

 本来ならシズカさんも今日から学院通学の予定だったんですが、僕が魔力を全部消費したせいで明日に見送りになっています。プリシラは予定通り、アビスちゃんと今日から通学するようです。


 部屋の様子を見ると、皆と夕ご飯を食べる為に増やしていたテーブル等が綺麗に片づけられており、いつもの個室に戻っています。そのまま小棚に置いてある時計に視線を移すと、針は朝8時を指していました。


「まだ時間に余裕がありますね」


 僕はいそいそと着替えてカフェテラスへと向かいます。

 昨晩満足に食べれた気がしないので、朝ごはんをしっかり食べる為です!


 この中庭にあるカフェテラスは専属のスタッフが交代制なので、かなり早くから注文を受けてくれます。寮を利用している学生が比較的、早起き傾向にあるのも理由の一つです。


 さっそくテーブルの席につくと、隣で朝ごはんを取っていた学生達が魔法大戦の話題で盛り上がっているようです。行事告知は今日の午後の筈ですが、どうやらもう学院に広まっているみたいですね。


 話を聞いていると、エリーナやツバキさんと同じ軍になりたい、と言った感じでした。

 学院出身者ですし、一番人気はこの二人なのは間違いないですね。

 程なくしてウェイトレス番のメイドさんがオーダーを取りに来たので、ハムサンドとスープとサラダを注文します。


「ミズファ、聞こえる? 今何処にいるのかしら?」


 プリシラが頭の中に話かけてきました。


 僕は今カフェテラスで朝ごはんを取る所です。


「そう。じゃあ私も其方に行くわ」


 あ、了解です!


 プリシラも既に身嗜みは整えたようです。

 周囲を見ると、カフェテラスにチラホラと貴族のご令嬢も増え始めました。


「ミズファお姉様!」


 声をした方へ振り向くと、シルフィちゃんが此方へ歩いてくる所でした。


「あ、シルフィちゃんお早うございます!」

「お早うございますわ、ミズファお姉様」


 笑顔で挨拶すると僕のテーブル席に座りつつ、メイドさんに注文するシルフィちゃん。


「ウェイル君はまだ身支度中ですか?」

「着替えている最中だと思いますわ。あの子、朝に弱いんですのよ。私が起こさないといつまでも寝ている駄目弟ですの」


 僕も似たような物なのでシルフィちゃんには同意し辛いですが、「そうなんだぁ」みたいな相槌は打っておきます。


「お早う二人とも」

「お早うございます、ミズファさん、シルフィさん」

「あ、プリシラ、シズカさんお早うございます!」

「お早うございますわ、プリシラ様、シズカ様」


 貴族専用寮側からプリシラとシズカさんが来ました。シルフィちゃんとウェイル君には昨夜の晩ごはんの席より前に、シズカさんを既に紹介済みです。

 今日のプリシラは学院服でした。シルフィちゃんもウェイル君も学院服です。

 男子が騎士風なら、女子は魔導士風です。紺のブレザーにスカートは膝上の赤色で、正に制服と言った感じでした。二人とも金髪なのでお嬢様感が凄いです。まぁ、見た目少女ですが。


 僕も一応学院服は支給されてるんですけど、この学院は私服でも一向に構わない為、僕はドレス姿です。その内学院服も着るつもりですが、所持しているドレスを沢山着てからです。半分はレイシアのお下がりなので、着るのが嬉しくて。


「学院服、良く似合ってますよプリシラ!」

「有難う。こういった服は初めて着るのだけれど、案外悪くないわね」

「プリシラちゃんは何を着ても似合いますからね」

「プリシラ様、大変可愛らしいですの!」


 その後、暫く話に華を咲かせていましたが、誰も昨夜の話題に触れません。

 僕も怖くて聞けませんでした……。

 学院服姿のアビスちゃんも来て、可愛すぎて抱きしめたりなどしつつ、皆で朝ごはんを楽しんでから仲良く通学しました。


 -----------


 ミルリアちゃんは今日も僕の着替えを手伝えなくてテンション低かったり、レイシアは朝に僕と会ってからずっと頬に手を当てつつ赤面していたりで、口数が少なかったです。

 二人はフラフラと、朝の出席を取りにそれぞれの学科へと向かっていきました。大丈夫かな……。


 シルフィちゃんと目をこすりながらボーっとしていたウェイル君とも分かれ、今は特殊能力学科へと向かうメンバーのみです。

 お屋敷のような特殊能力学科棟に着き、昨日と同じ応接間のような場所に入ると、早速エステルさんを含めた女子組から黄色い声がかかります。理由は勿論プリシラとアビスちゃんです。シズカさんには一時、僕の中に戻って貰っています。


 遅れてコリンス先生がやってくると「おぉ、もう来ていたか」と二人を確認しつつ。


「皆おはよう! このメルも清々しい朝だな! さて、見ての通り更に新しい仲間が加わった。プリシラ君とアビス君だ、皆仲良くしてやってくれ。さ、二人とも自己紹介を頼む」


 自己紹介を促されると先ずはプリシラが一歩前へ。


「私の名はプリシラ。一介の貴族の出よ。ミズファと同じく、短い期間ではあるけれど、宜しくお願いするわね」


 その妖美な雰囲気と美貌に、部屋内の視線がプリシラに集中しているのが解ります。

 プリシラから背中をポンっと押されると、次はアビスちゃんが自己紹介に入ります。


「んと、私アビス! がっこー楽しい場所だってきいたから来たー。よろしくね!」


 にこーっと笑顔のアビスちゃん。

 これには流石の男子二人も可愛さに目を奪われているようです。うちの子は異性の目も釘付けにしてしまう魔性の幼女でした。

 因みにエステルさんは頬に手を当て、恍惚の表情です。この人、ミルリアちゃん属性持ちでした……。


「さて、自己紹介も済んだ所で皆に連絡だ。午後から全学院生合同の集会がある。まぁ既に、どの学科も集会で告知予定の話題で持ち切りなんだがね」


 はっはっはっ、と笑うコリンス先生。


 実は通学中や学院の敷地内を歩いている時も、周囲の学生から聞こえてくる話し声は大体が魔法大戦の話題でした。実戦形式で自分の実力を試せる機会は少ない為、話題がつきないようです。

 それはこの特殊能力学科でも変わりません。出席確認後、早くも軍分けについてや身の振り方などで盛り上がっていて、男子二人も今回は女子の輪に入っています。


 そんな中、いつ切り出そうか迷いつつもエステルさんに話しかけ、差し障り無い形で昨夜の件を謝って置きます。


「前夜のディナーですか? ええ、とても楽しく過ごさせて貰いましたよ」

「あ、そうでは無くて……ええと」

「ミズファ様。まだまだ少女なのですから、過ちは沢山あると思います。気にせず、前を向いていきましょう」

「……え」


 ほんと、僕何したんですか? プリシラがつっこみ入れてこないのも凄く怖いんですけど!

 結局誰からも昨夜の件は聞かせて貰えず、真実は闇の中に葬られました。

 いいですよ、この鬱憤は魔法大戦で晴らしますから!


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