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学院行事2

 魔法大戦と呼ばれる行事について、レイチェルさんが拳を利かせながら説明してくれます。

 説明すべき人が相応の見た目の人なら、熱血っぽさも感じたんでしょうけど、レイチェルさんの見た目が少女なのでただの可愛い何かでした。

 ただ、時折説明の合間にワインを飲む仕草には艶めかしさを感じます。


 レイチェルさんの説明を聞いていると、要はスポーツ競技のような物でした。


 五つの軍に生徒を分けて戦い、最後まで残った軍が勝利するという形式の行事です。五つに分かれた軍にはそれぞれリーダーを配置し、全員小さなフラッグを腕に取り付けます。リーダーが虹色のフラッグで、それ以外は軍毎に五色に分かれ、それぞれ赤、青、緑、茶、黄色となります。

 このフラッグを壊されるか奪われる、或いは生徒が戦闘できない状態だと戦闘不能判定となります。

 基本的に自軍のリーダーを倒されないように守りながら、他軍のリーダーを倒す事が勝利条件となりますが、陣地には更に防衛しなければならない像があり、これを壊されても負けになります。


 勝利条件を達成する為ならば、一時同盟するのも有りですし、「一部を除いて」禁止される魔法はありません。

 五姫と特殊能力者も参加可能ですが、余りに一瞬で決着がつくような能力は禁止になります。これが一部を除く、に該当します。


 そして、一番大事な安全性ですけど。

 学院が誇る古代魔法具の一つに、「全ての能力を半減させる」という物があります。

 これを学院が作り上げた結界魔法と併用する事で、その結界内であればどんな魔法も特殊能力も威力が半減します。

 この魔法具の存在は王都の防衛力その物にも直結する為、長い歴史で戦争を仕掛けられた事例はほぼ無いと言うとんでもない古代魔法具です。


 基本、戦況維持の為になんらかの属性防御壁を展開し続ける事になるので、結界内であればほぼ無傷といっても良いでしょう。なを、奇襲攻撃はフラッグ狙い以外禁止となります。


 陣地にある像は、魔法耐性の魔法具が内蔵されており、生半可な攻撃では中々壊す事ができません。

 ただし、劣勢を逆転勝利できる可能性を秘めているので、戦略性は十分にあると言えます。


「ここまでに質問ある?」


 レイチェルさんが腕を組み、全員を見渡しつつ質問を促しています。


「はい、学長様」


 そこで、エステルさんが挙手しました。


「エステル言ってみなさい」

「軍分けについて質問があるのですが、どのように生徒を分けるのでしょうか? 場合によっては戦力が偏ってしまう懸念がございませんか?」

「そうね。ただ適当に割り振ったり、自由に組ませたりしたら何処かの軍の強さが特出してしまう。そうならない様、学院側で可能な限り、力量差が均等になるよう配慮するわ」

「配慮、という事は完全には無理という事ですね」

「それは当然でしょ。例にあげるけど、ウェイルを見なさい。この子は魔法が半減しようが何だろうが、二刀剣で戦うすべを持っている。相手を必要以上に傷つけない制限の下であれば、武器の使用も可能よ。こんなのがいる軍は有利になって当然だからね。そこは幾らでも戦略で翻せるんだから頭を使いなさいって事よ」


 つまり一騎当千の人物がどこの軍に所属するかは解らないと言う事です。

 とはいえ、当日まで解らないと戦略を練る時間も無いので、魔法大戦が始まる三日前程度には学院の上位成績者、五姫、特殊能力者の所属軍が告知される事になっているようです。

 全体の軍分け告知は、魔法大戦を開始する一週間くらい前に行われます。


「軍の分け方次第では、ミズファと戦う事になってしまうかもしれないのですね……」

「我が主に……反旗を翻すなど、私には……できません」


 レイシアとミルリアちゃんが悲しそうに俯いています。


「アンタ達ならそう言うと思ってたわ。魔法大戦で勝利した軍にいた子は、ミズファと一メルデート権を付けてあげる」

「……は?」


 何か一切そんな話は聞いていないような単語がありました。


「あのレイチェルさん、つかぬ事をお聞きしますけど」

「何よ?」

「デート権というのは何ですか?」

「何だも何も、アンタに拒否権は無いわよ、「あれ」について協力して欲しいんでしょ? だったら我慢しなさいよね」

「あぅ……」


 弱みを握られました。

 僕の意気消沈に反比例して周囲が盛り上がっています。


「この私が通う歓迎パーティーとしては申し分無いわね。いいわよ、参加してあげるわ」

「プリシラちゃんにデート権を持っていかれてしまうと私がヤキモチを焼いてしまうので、ちょっと本気出そうかなって思います」


 プリシラのいつも通りのやる気と、シズカさんからはベクトルの違う殺る気を感じました。怖いです。


「まぁ、冗談は置いておいて。私もミズファさんとはゆっくりお話ししたいと思っていましたから。そこにデート権を充てる予定です」

「あ、そう言う事でしたら、僕もシズカさんと沢山お話ししたいです!」


 僕とシズカさんが笑い合っていると、プリシラから冷たい視線を受けました。怖いです。


「学長殿。無論、妾も参加出来るのであろうな?」

「勿論よ。アンタとエリーナの参加は生徒達のモチベーション維持にも繋がるんだからしっかりやんなさい」

「当然だよぉ。正直、この行事アタシ負ける気しないからね」

「ふん。お主と当たった場合、手加減せぬぞ」

「それはこっちのセリフだよ、ツバキちゃん」


 早くも一触即発です。慌てて僕がブレイクに入りました。


「ミズファとデート……ミズファとデート……」

「主様と二人きり……主様と二人きり……」


 エリーナ達の隣では、レイシアとミルリアちゃんが謎の呪文を唱えていました。

 本気で怖いので止めてください。


「ウェイル、アビス様。戦う事になっても私、容赦致しませんわよ!」

「僕レイスの森よりもっと強くなったから、シルフィ姉ちゃんと当たったら絶対勝つよ!」

「よく解んないけど、みずふぁとデート!」


 一人を除き、言ってる事はぶっそうですが、三人とも相変わらず仲良く輪を作っています。


「ミズファ様」


 僕の席の正面に座っているエステルさんから声をかけられます。


「なんでしょう?」

「同じ軍になった際には宜しくお願いしますね!」

「あ、こちらこそです!」

「私ちょっと楽しみになってきました。これもミズファ様が時間という概念を作ってくれたお陰ですね」

「いえ、別にそんな。それに時間がなくても十分成立する内容ですし……」

「謙遜する所が、ミズファ様の可愛らしさに華を添えてますね。五姫の皆様がやる気なのも解ります」


 いまいち褒められるのは苦手です。

 皆の妙なテンションには疑問がありますが、やる気があるのは良い事なんだと思う事にします。


「私も、ミズファ様とのデート権を目指して頑張りますね!」

「え」


 僕の間の抜けた返事も他所に、エステルさんはプリシラ達に挨拶をしていました。様子を見ていると二人は知り合いのようです。


 僕は視線を目の前に落とすと、焼いた魚の切り身に細切れにした野菜をたっぷり入れたソースがかけられている料理を一口。

 むぐむぐと食べつつデート権について考えます。 うーん……皆そんなに僕とデートしたいんでしょうか? まぁ、悪い気はしませんけどね。あ、これ美味しいです!


 レイチェルさんはその後、補足事項や注意事項を話してくれました。先生達が【遠見の玉】と呼ばれる大きな水晶型魔法具で監視していたり、不測の事態へ直ぐに対応できる先生を各軍に配備するので、行事の穴を付く行為や不正行為は出来ません。単独行動している者は遠見の玉で解るので逆に不正し辛くなります。それに王様や騎士団、ギルドのお偉いさん方も見に来るので、不正がバレたら将来に響きます。


 その代わり、優秀な行動を取った者も目に付きやすくなります。何も相手の撃破だけが全てでは無いので、像を守ったり、仲間を間接的に助けたり、補助魔法で援護したり等、評価される部分は多いそうです。けど他軍を撃破した人数が多い人が一番優秀評価になるのは当然ですけどね。

 ここで王様や騎士団のお偉いさん等の目に留まり、将来有望だと判断されたら国に取り上げて貰う事もあり得ます。


「ま、今後も定期で行うから後は実戦で覚えて貰うわ」


 レイチェルさんはメイドさんに追加のワインを頼みつつそう言います。


 さて、僕の身の振り方ですけど。

 ここにいる皆が例え二人ずつでも結託されたら、勝つ見込みが下がりそうです。皆は僕の事をよく知っているので、逆手に取る行動なんかもお手の物でしょうし。戦略上わざわざ僕と戦う必要も無い訳で、足止めや陽動なんかで誘き出したりすれば、暫く拘束する事も可能です。


 何より問題なのはプリシラなんですよね。ただでさえ規格外の強さを持ってますし、彼女にだけは僕の行動が筒抜けです。「繋がっている」というこの能力は他人には調べようがなく、禁止されてる訳でも無いですし、他軍の動向を調査する戦略上問題もありません。加えて、考えが筒抜けであれば状況により単独でいつでも僕を潰しに来れる訳です。

 僕の頭の中に語りかけて来ない所を見ると、割と本気のようです。


 まぁ今からあれこれ考えても仕方ないですね、先ずは軍分けされてからです。

 五つの軍の陣地に仮設の建物が設けられ、そこで作戦を練る事が出来るそうなので。

 皆には今まで沢山修行で相手をして貰ってましたけど、こうした形でぶつかるのも面白そうですね。

 僕もエステルさんみたいに、ちょっと楽しみになってきていました。


 その後、行事のお話は一先ず終了し、皆と一緒に夕ご飯を楽しんでいると。

 僕の席にレイチェルさんが来ました。何やら手に持っていて、見ればワインの入ったグラス。

「さぁ、皆今宵は無礼講よ!」という言葉と共に、無理やり口にグラスの中身を注がれてしまいました。


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