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三人の少女と異世界転移

 翌朝。

 泊めてくれたミルリアちゃんとアビスちゃんにお礼を言って自室に戻ると。

 僕のベッドでプリシラが眠っていました。

 その隣でベッドに腰をかけて、プリシラの頭をなでる仕草をしているシズカさん。

 ……ん? 腰をかけて?


「お帰りなさい、ミズファさん」

「あ、ただいまです、あの……シズカさん」

「はい?」

「なんでベッドに座れるんですか?」

「不思議パワーを炸裂させました」

「……」


 僕の問いかけにこにこしながら答えるシズカさん。


「冗談です。私にも解りませんが、触る、座るだけなら可能なようですよ。その代わり持てませんし、触られている方はその感覚が無いようですけど」

「古代魔法具過ごすぎませんかそれ……」

「あぁ、そうです。私を映している古代魔法具について、伝えて置く事があります」

「伝える事ですか?」

「はい。立ち話もなんですし、テーブルに移動しましょうか」

「あ、はい」


 僕とシズカさんはテーブルへ移動し、それぞれ席へと座ります。

 テーブルの上には僕が立てかけた古代魔法具があり、ずっと画面部分が淡く光り続けています。


「先ず最初に。この古代魔法具が海底神殿にあるのを私が知っている事に、疑問を持っていましたね?」

「あ、そうです!僕もプリシラもそれが不思議だったんです」

「この古代魔法具は、私の友人が持っていたスマホが原点です」

「……え?」

「私は友人二人と共に、この世界に転移させられました。だけど……皆、転移させられた時代が違ったんです」

「……そんな」


 それはとても衝撃的なお話でした。

 学校帰り、シズカさんと友人二人は帰路についていた時の事。住宅街の外れを三人で歩いていると、急に視界が謎のモヤに包まれたそうです。そのモヤの中では見た事の無い景色や街、魔法のような物で戦争をしている風景などが、切り取られた一場面のように周囲に浮かんでいました。

 走馬燈のように様々な場面が浮かんでは消える中、それを見ていた三人は突然、落とし穴に落ちたような感覚に襲われます。


 三人はそれぞれの手を取ろうとしましたが届かず、落ちていく感覚の中、徐々に意識が薄れていきました。気づけば友人の姿は無く、見慣れない景色が広がる知らない土地。

 後になって、そこが倭国“ムラクモ”だと知ったのは大分経ってからの事だそうです。


 何度も死にかけ、挫折を繰り返しながらもシズカさんは力を身につけました。そして、世界を回り友人を探していた時の事。とある場所の遺跡跡から、友人の所有物が「出土」しました。

 その遺跡跡があった場所は、魔都「ブラドイリア」が建国される以前の国の跡地です。

 誤解が無いように言いますけど、プリシラはこの件には関与していません。


 出土したのは小箱で、中には友人の一人が好んで身に着けていた髪留めと手紙が入っていました。

 手紙には元居た世界の文字で、自分は必死に生きている事、特に仲良くなった少女の事、所有物で魔法具を作った事、海底神殿の建設に携わった事、大きな戦争が起きそうだと言う事、皆と会いたがっている事。それらが何枚にも渡って書かれており、日記のようにも見えました。


 その小箱を遺した友人の名は「タチバナ・キョウカ」。


「キョウカさんってまさか……」

「はい、アビスちゃんが語っている人物と同じだと思います。キョウカちゃんが手紙に残した、仲良くなった少女とも瓜二つです」

「……」


 ここで気になっていたキョウカさんの過去が出てくるなんて。


「私は友人を探す上で気づいた事があります。キョウカちゃんは、アビスちゃんと。私は、プリシラちゃんと出会いました。なら、残りの友人はどこに居たと思いますか?」

「あ……」


 恐らく霊峰、火の鳥。確か名前は……イグニシアと、レイスは言っていました。


「いつの時代に転移して、どうしていたのか、本当に霊峰に居たのかは解りません。同じ国に飛ばされていても、時代が違えば会う事も出来ませんでしたからね」

「……」


 僕は思います。

 シズカさん達が転移させられたのは、この際仕方ないと諦めるしか無いかもしれません。

 だけど、何故シズカさん達が辛い目に合わないといけないんでしょうか?

 何故、離れ離れにならなければいけないんでしょうか?

 こんなの……酷過ぎます。


「私はキョウカちゃんの手紙を読んで、とっても泣きました。けれど、嬉しくもありました。楽しかった出来事も沢山書かれていたからです。この世界でちゃんと生きてくれていた、それだけで私は十分に救われました。だから、【ミツキ】ちゃんもきっと大きな何かを成し遂げて、私とキョウカちゃんに遺していると思っています」

「シズカさん達は心身共に強かったんですね。僕なんかとは大違いです……」

「そんな事はありませんよ。私は自分の家で古武術を修めていたから生き延びれただけです。キョウカちゃんもミツキちゃんもそれぞれ弓道や剣道の名家の生まれでした。私から見たら、ミズファさんの方がとっても凄い人ですよ」

「僕はシズカさんの力があったから生き延びれただけです」

「それは違います。元々、貴女は私達三人よりも強大な力を備えていたんです。私が関与しなくても、レイスの眷属で終わるような人では無かったと思います」


 うーん、強大な力を持つシズカさんに言われてもいまいちピンと来ないです。

 あ、それよりも気づいた点があります。


「ちょっと疑問に思った事があるんですけど」

「なんでしょう?」

「アビスちゃん程の子がキョウカさんの持ち物を模した古代魔法具になんの反応も示していませんでした。どうしてでしょうか?」

「私にも解りません。ですが恐らく、古代魔法具作成の事をアビスちゃんには秘密にしていたのかもしれませんね。手紙には戦争を止める為に頑張る、と書いた所で終わっていましたから、アビスちゃんに心配させたくなかったのでしょう」

「……」


 アビスちゃんの寝言を思い出します。

 きっと、辛い別れがあったんでしょう……。

 キョウカさんの思いは僕が引き継ぎます。アビスちゃんをずっと笑顔でいさせます。

 だから、【その為には】……。


「二人とも、私を差し置いて密談なんて、いい度胸ね」


 いつの間にか、プリシラが起きていました。ベッドに腰かけて此方を見ています。


「あ、プリシラお早うございます!」

「おはよう、プリシラちゃん」

「おはよう、二人とも」


 プリシラは挨拶を返しベッドを立つと、僕に近寄って来て後ろから抱きしめてきました。


「え、プリシラ?」


 僕は不思議そうにプリシラへと振り返りつつ。


「言った筈よ、シズカが戻って来ても、貴女しか目に映っていないって」

「プリシラちゃん、昨晩あんなに愛し合ったのに、まだそんな事を言ってるんですか?」

「な、誤解を招くような事言わないで頂戴!!」


 朝からハイテンションな二人です。


「シズカ。ミズファと私はもう繋がっているの。貴女が入り込む隙は一切無いのよ」

「んー……それなら肉体を取り戻したら、ミズファさんとプリシラちゃん掛けて決闘しないといけないですね」

「……え」


 なんか話が変な方向に飛んでいます。


「今の貴女で、ミズファに勝てるのかしら?」

「そうですねぇ、お互いある程度出来る事は同じですから。あ、完全無効化(インヴァリッドスキル)はもう私には使えないので、それは無しにして貰いますけど」

「ちょっと、僕戦うなんて一言も言ってませんからね!?」


 なんなんですかこの二人は。


「ノリが悪いですねミズファさん。こういう時は「僕のプリシラに手を出すな!彼女は僕の物だ!」位は言わないと」

「言いませんよ!」

「何よ貴女、この私の事がいらないと言うの?」

「そうじゃなくて!」

「あ、決闘は合成魔法も無しでお願いします。私は全力で武術使いますけど」

「やりませんから!!あとなんでそっちが有利になってるんですか!?」

「朝からテンション高いわね、ミズファ」

「誰のせいですかぁ!!」


 早朝の貴族専用寮に響く声。

 朝から一番ハイテンションな僕なのでした……。


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