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森の結界と運命の少女

 コンコン、とノックの音が聞こえる。


「どうぞ」

「失礼致します。レイシアお嬢様へ父君より伝言を承っております。根を詰めすぎても良い結果は生まれにくい、そろそろ休むように。との事です」

「解りました。今日の分の結果を本に綴り終えたら休みますと、お父様に伝えて下さい」

「畏まりました。それではレイシアお嬢様、お休みなさいませ」

「ええ。お休みなさい」


 メイド長ヘルテは一礼しドアを閉める。


 夜の帳も降りたベルドア王国北方領、ベルゼナウの街。その領主ブラドール伯の屋敷。

 ここの一人娘である私は、今日も日課である各属性の魔法術式研究を本に纏めております。

 生まれつきに光の術式に特出していた私はその才能を見込まれ、魔術の先生を講師として招き、様々な魔法を勉強しています。


 その過程で私が編み出した、光属性の結界を展開する際に、術式の組み上げを高速化する魔法具が学会で高い評価を頂きました。それに伴って王都の魔法学院へ推薦入学が決まり、順風満帆とした日々を過ごしております。


「さて、この辺で切り上げましょうか」


 本を閉じ、軽く背伸び。

 今日もこうして一日が終わり、休む為寝室へと移動しようとした時。


 パンッ!!! というけたたましい破裂音が部屋に響きました。


 振り返ると、部屋の一角に設置されたレイスの森の結界を監視する魔法具【天球水晶】が一つ砕け散っています。

 勿論これはただ事ではありません。


「そんな……。まさか結界が!」


 すぐさま残りの天球水晶を調べると、結界が綻んだのは一か所のみでした。


「不幸中の幸い、でしょうか。これならばレイス自体はまだ出てこれませんね」


 安堵と共に、私は寝間着からドレスへと着替え魔道ローブを羽織ります。


「綻んだ結界を修繕しませんと。このままでは朝に来る行商人に影響が出るかもしれませんね」


 部屋を出てお父様の書斎へと急ぎます。途中メイドと会っても、問題は無いように促して。

 屋敷の正反対に位置するお父様の書斎に着くと、二回ノックします。


「入りなさい」

「失礼致します、お父様」

「どうしたんだ、レイシア?ヘルテからはもう休むと受けているが」

「お父様、非常事態故に外出の許可を頂きたいのです」

「何?」


 事の経緯をお話ししました。

 お父様は驚愕した表情で聞いておりましたが、すぐさま何かを思案しています。


「事情は解った。直ぐに兵士を集め同行させよう。少し待っていなさい」

「お父様、眷属の魂喰らいは魔力を持たない者には見えません。むしろ兵士の皆様がいらっしゃるのは危険です」

「いや、しかしレイシア。お前を一人で行かせられる訳が無いだろう。いくら魔術の才女と名高いお前でもまだ12才の子供なのだ。夜の森へ一人で行かせるなど到底容認など出来ない」

「綻んだのは一か所だけです。それに森の結界内からの眷属の攻撃など、私には何の脅威にもなり得ません。私一人の方が安全です」

「だが、しかしだな」

「それにです。兵を率いて夜の外に出向いては、街の住人へも相当不安を煽る事でしょう。私は事を荒立てたくは無いのです」

「うーむ……」

「不測が生じた場合はすぐさま戻って参りますので、私一人の外出をお許し下さいお父様」


 少し長い沈黙。

 意を決したのか、一息ついてお父様は頷きました。


「……。解った。お前を信じようレイシア。この街には現在腕利きの魔術師が不在だ。講師も招集で王都へと帰ってしまっているしな…。お前に頼るしか無いのが実情だ」

「はい、お任せ下さい。大好きなこの街の為ですもの」


 私はお父様を安心させるように微笑みました。


 -----------------------------


 深くフードを被り裏道を走る私。

 目的地は城壁の一角に設けられた、外へと続く非常用の地下道です。

 これは避難を円滑にする為、ひいお爺様が作られました。


 近道の為歓楽街の方向へ、路地裏などを通って向かいます。

 だんだんと夜でも賑わいを見せる人々の話し声が聞こえ始めました。

 地下道までは通りの反対側に行かねばならないので、すぐに通りを抜けようと全力で走って路地裏から飛び出します。


 通りをすぐに走り抜けたかったので、この時…余りよく前を見ていませんでした。


「「きゃ……!!」」


 私は誰かにぶつかってしまい、フードが反動で脱げてしまいました。


「おいおいなんだお前は。危ないだろうがって……レ、レイシアお嬢様!?」


 その時、よりにも寄って正門にいるはずの衛兵と鉢合わせしてしまいました。


「レイシアお嬢様、こんな夜にお供もつけず何をなさってるんですかい?」

「あ……ええと」


 困りました。

 どういって説明したものでしょう。


 その時…困りながら視線を落とした先。


 私は少女に出会いました。


 長く綺麗な銀色の髪。まるでそこに花が咲き乱れたような可愛らしい顔立ち。

 吸い込まれそうなブルーアイ。

 一時の使命を忘れかける程の胸の高鳴りを感じました。


 恐らく…この出会いが私の運命を決めたのだと、そう確信しました。


 それと同時に、何か悲しそうな表情をしているのが伺えました。

 少女の服装に視線を向けると、奴隷層が着ていると思わしき服。

 衛兵に捕まえられている腕。


 事情を察した私は、逃げる口実とすぐさま結びつけます。

 この子を助けてあげたい、その衝動で一杯になりました。


「それではこの子の手をお放し頂けますね?」

「わ、解りやした……。で、ですがレイシアお嬢様、本当にこのガキあ、いや奴隷を探しておられたんですかい?」

「勿論です」

「……。で、では奴隷をお返ししやす」

「ええ、それでは失礼致しますね」


 衛兵をどうにか言いくるめて、彼女を連れて私は逃げました。

 途中私は彼女を何度も見返してしまいました。

 なんて愛くるしいのでしょう。


 きっと、この子と私は仲良くなれる、いいえならねばならないと思いました。


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