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暗闇の中の少女

 ライトフィスプの明かりを頼りに暫く一本道の通路を進んでいると、また魔法陣だけの部屋に着きました。

 転移した場所よりもかなり狭く、魔法陣も20個程度のようです。

 因みに大広間に残したライトトゥルーオールは持続式なので、僕が解除しない限り数時間は消えません。


「この魔法陣の中から正解を当てればいい訳ですね」


 周囲を見ると、部屋のあちらこちらに白骨死体があります。

 僕は大広間で明らかに正解への道を進んだ筈ですが、迷った末に死亡したと思われる死体と同じ場所に飛ばされました。

 恐らくですけど、正解してもその中から脱落者が出るような仕組みなのでしょう。

 だとしたら、一刻も早く皆の所に戻らないといけません。

 段々仲間が欠けていくとか、そんな猟奇殺人みたいなのは嫌です。


 早く戻りたい気持ちはありますけど僕は焦っておらず、いつも通りです。迷っているつもりもありませんし、不安なんて微塵もありません。この魔法陣はおバカさんだなぁと考える余裕すらあります。


 何せ、僕を最初の犠牲者に選んだのですから。


「見通す目+完全無効化インヴァリッドスキルを合成、【全てを見通す神の目(ゴッドアイ)】」


 全てを見通す神の目(ゴッドアイ)を展開すると、一つを残しそれ以外の魔法陣が弾け飛びます。

 正解のみを除外し、それ以外の全ての魔法陣を無効化しました。

 この合成魔法はとても強力なのですが、自分が見えている範囲にしか影響を及ぼせません。

 視界に入る物であれば全て透視できますし、膨大な魔力があればほんの少しの未来を見ることも可能なはずです。つまり、逆に言えば今の僕には未来までは見えません……。


 最初の大広間でも使おうかと思っていましたけど、アビスちゃんが停止している魔法陣を見つけてくれたので使いませんでした。


 正解の魔法陣に乗ると、今度は無効化した部屋より少し広い場所に転移したようです。

 後数回くらい無効化を繰り返せば、皆の所へ戻れる予感がします。

 さて、ちょっと魔力消費気味ですけど頑張りますか。……と思った時。


「うぇぇぇぇぇん!!みんなどこなの、一人はいやだよ、そばにいてよ。わたしを一人にしないで……」

「……?」


 声がした方向にライトウィスプを向けると……壁際で見知った子供が泣いていました。


「アビスちゃん!?」

「……みずふぁ?」


 僕を見つけると泣きながら走ってきて、スカートにしがみ付きます。


「みずふぁぁぁ、ひどいよ!わたしをひとりにしないでよぉ!!」

「ど、どうしたんですかアビスちゃん?」

「ひとりはいやだよ。もういやだよ……」

「アビスちゃん、落ち着いてください。僕はもうどこにも行きません」


 優しく語りかけながら頭を撫でてあげます。

 真っ暗な空間に一人でいたのですから、怖いのは当然ではあります。けど、アビスちゃんの怯え方はそれとは別のようです。


「うぇぇぇぇん!」


 僕はしゃがみ込み、アビスちゃんが落ち着くまで抱きしめつつ語りかけてあげます。


「大丈夫です、僕がずっといますから、ずっと傍にいますから」

「うぅ、ぐす……ほんとに?」

「うん、本当です」

「ん……」


 国家指定級とも言われる子が、何故こんなに怯えているのでしょうか。

 一人にしないで……ですか。以前に何かあったんでしょうか?

 目の前にいるアビスちゃんは、年相応の見たままの女の子のようです。いえ、むしろ今の姿だからこそ怯えているのかもしれません。


「アビスちゃん、落ち着きましたか?」

「……うん」

「良かった、お手て繋いであげますから、僕と一緒に皆の所に戻りましょう」

「うん」


 僕はその後、アビスちゃんを連れて正解の魔方陣を5回程転移しました。

 そして何もない小部屋に転移すると、直ぐに壁の向こうから声が聞こえてきます。

 耳を澄ますと仲間の皆が僕とアビスちゃんの安否を心配しているようでした。


「ミズファ、聞こえてる?ミズファ、返事をして。ミズファお願い、返事をして頂戴」


 僕の頭の中にプリシラの声が響いてきました。

 恐らく、ずっと僕を呼んでくれていたんでしょう。さっきまで僕に声が届いていなかったので、相当遠くに飛ばされていたか、精神系統を遮断する結界か魔法具があったのかもしれません。


 プリシラ聞こえますか?


「……!!ミズファ!!馬鹿、心配したじゃない!!」


 御免なさい、僕はなんともありませんし、ここにアビスちゃんもいます。


「そう、良かった……。アビスも無事なのね。二人とも本当に何も無くてよかった……」


 プリシラ、アビスちゃんの事も心配してくれていたんですね。


「アビスはあれでも私のライバルだったのだから、その……それだけよ!」


 プリシラは何だかんだで、良いお姉さんになれそうですね。


「……馬鹿な事を言っていないで早く戻ってきなさい!」


 あ、はい。


「みずふぁ、ぼうっとしてどーしたの?」


 僕とプリシラの会話が解らないアビスちゃんは不安そうに見上げています。


「あ、大丈夫ですよ。アビスちゃんも皆の話し声が聞こえますよね?」

「うん、皆ふあんそう。れいちぇるがみんなにあやまってる。れいちぇる悪くないのに」


 僕は優しくアビスちゃんを抱き寄せながら。


「レイチェルさんは学長さんっていう偉い人なんです。そして僕達の殆どは彼女の教え子なんです。だから、レイチェルさんは皆の命を第一に守る義務があるんですよ」

「だかられいちぇるあやまってるの?」

「うん、そうです。でもね、その上でここに来る前、僕は転移っていう危険に挑む辛い決断をレイチェルさんに迫ったんです。悪いのは僕なんですよ」

「みずふぁ達にもいろいろあったんだね」

「うん、でもこれからはその輪の中に、アビスちゃんもいますからね」

「うん!」


 よかった、少し元気になってくれました。後は皆の所に戻るだけです。

 けど、この小部屋は見た所完全に出入り口が無いみたいで、四方全て石壁で囲まれています。

 正解ルートなので、出れない事は無い筈なんですけど。


「さて。ここからどうやって出ればいいんでしょう」

「でれるよ?」

「え?」


 アビスちゃんがそう言うと、壁に向かって歩き出します。そのまま激突するかどうかの所で壁をすり抜けていきました!


「成程……そういう意地悪トラップなんですね」


 RPGとかでよくありますよね、こういう一見すると通れないけど隠し通路がある、みたいなの。

 現実に見れてある意味感動しましたが、このダンジョン自体にはドン引きです。


 僕とアビスちゃんが隠し通路を通って大広間に出ると。


「……ミズファ!!」


 レイシアが僕に気づき、一番に抱き着いてきました。

 その後、皆が僕とアビスちゃんに駆け寄ってきます。


「ミズファちゃん、すっごい心配したよぉ!!もう会えないかもって考えたら凄く泣きそうになったんだからねぇ!」

「うむ、妾も心底心配したのじゃが……見た所、随分ミズファは落ち着き払っておるな。この程度は試練にもならぬと言う事かの?」

「主様、よかった。ご無事で……本当に良かった」


 僕って幸せ者ですよね。こんなに沢山心配してくれる人が傍にいるんですから。


「ミズファ、アビスさん悪かったわ。アンタ達が居なくなってから考えたのよ。犠牲者枠っていう可能性を……。ほんと私軽率だった、ごめん」

「初めに無理を言ったのは僕なんですよ。感謝こそあれ、レイチェルさんが悪いなんてまったく思っていません」

「れいちぇる悪くないよ。頭なでなでする?」

「ほんとお人よしなんだから……。でも本当に無事でよかったわ」


 レイチェルさんがしゃがむと、アビスちゃんからなでなでされています。二人とも可愛いです。


「ミズファはいつもいつも私を心配させてばかり。私……嫌いになってしまいますよ?」

「え、そんなの嫌です!ごめんなさいレイシア」

「ふふ、冗談ですよ。ご無事で……本当に良かった」

「びっくりしました……」


 なんか皆の顔を見て安心したらお腹すいてきちゃいました。

 時間は丁度お昼過ぎくらいみたいですし、ご飯にするには良い時間ですよね。


「ほんと緊張感が無い子ね、貴女は」


 プリシラが頭の中に呆れたように語りかけてきます。


 お腹がすいてはいくさはできないのです。それと実際問題、魔力使いすぎました。休憩しないとまずいです。


「アレを使ったのね、それなら仕方無いかしら。私も貴女に収納させている紅茶を飲みたくなったし、良い頃合いかしらね」


 じゃあさっき僕とアビスちゃんがいた小部屋で休憩にしましょう!

 僕は善は急げと皆に休憩を提案し、満場一致で小部屋へと移動します。


 僕の収納魔法の真髄を見せる時です。何せ、温度がある物は収納する直前のままなんですから!

 冷たい物も溶けたりしませんし、勝手に解凍されたりもしません。

 皆当然、各々好きな物があるので、それを旅先で楽しめるのってけっこう嬉しい事だと思うんです。


 皆と囲むご飯にウキウキしながら、収納魔法にしまっていた食べ物を取り出す僕なのでした。


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