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転移魔方陣

 地下のダンジョンに繋がる階段は直ぐに見つかりました。

 大きな建造物という目印があるので、全体を照らしている僕達なら、探す上で何の問題にもなりませんからね。

 地下へと続く階段を下り始めると、当然ながらライトトゥルーオールの光はここには届きません。


「流石にここからはライトウィスプで進むしか無さそうです」

「それでは、私もライトウィスプを出して置きますね」


 レイシアが直ぐに術式を組んでライトウィスプを展開します。


「ミズファは先頭を、レイシアは後方をお願い出来るかしら?」


 プリシラの指示通りに、僕とレイシアはそれぞれの配置へと移動します。


 今下りている階段は石造りでヒビが入っており、地震で壊れたような形跡があります。

 地上の魔法陣区域もそうでしたし、過去に何かあったのは間違い無いようです。

 海底遺跡でも土属性の魔法が使われた痕跡がある事も、ミルリアちゃんから聞いています。


 真っすぐ下へと続く階段を下りる最中、誰かが僕の手を握ってきました。

 視線を下すと、アビスちゃんが僕の手を握りつつ見上げて、にこーっと微笑んでいます。

 癒しってこういうのを言うんでしょうね。


「……ミズファ、鼻の下が伸びているわよ。それともあれかしら。貴女は幼い子が趣味なのかしら?」


 明らかに僕の状況が面白くなさそうなプリシラから辛辣な問いかけを頂きました。


「伸ばしてません!でも可愛いものは可愛いです!」


 開き直りです。


「……まったくもう。アビス、貴女も少しは自重しなさい」

「じゃあ、ぶらどいりあがお手て繋いでくれる?」

「な、どうしてそうなるのよ!」

「だめなの?」

「うぐ……」


 プリシラが上目遣いのアビスちゃんに押し負けています。


「こ、この私が心を奪われるなんて……相手はアビスよ、落ち着きなさい私……!」


 プリシラが悶えています、可愛いですね。


「ぶらどいりあ、はい!」


 アビスちゃんが両手をプリシラに差し伸べています。


「……解ったわよ」


 渋々アビスちゃんの手を取ってあげるプリシラ。

 アビスちゃんは大変ご満悦の様子でにこにことプリシラを見上げつつ。


「ぶらどいりあのお手てもあったかいね」

「……っ!」


 プリシラが堕ちそうです!


「国家指定級の二人が手を取った歴史的瞬間の筈なのに、なんなのこの緊張感の無さは……」


 レイチェルさんがまた眉間に指を当てています。

 御免なさい、元から気が緩んでるパーティーなのでこれが普通なんです。

 アビスちゃんが加わった事で、緩さに磨きがかかっていますが。


「こうして見ておると、世を震え上がらせた魔王も形無しじゃの」

「ち、違うわ。仕方なく手を繋いであげているのよ!」

「えー、なんか姉妹っぽくていいと思うよぉ?」

「ふふ、そうですね。プリシラ様とアビス様、大変お似合いです」

「あ、貴女達ねぇ……!」


 プリシラは怒りつつも、アビスちゃんの手をしっかり握っています。


「あ、あの。わ、私も……私も海龍さんのお手を、繋ぎたいです!」


 若干一名、僕より興奮しているのがいました。

 ミルリアちゃんの目がまずいです、危険です。あれは獲物を狩る目です。


「みるりあも繋ぐ?」

「つ、繋ぎます。何でも……繋ぎます!」


 アビスちゃんが片手を差し伸べると、ミルリアちゃんが興奮気味に手を取ります。

 というか、何でもってなんですか……。


「~~っ」


 アビスちゃんと手を繋ぐ事に成功したミルリアちゃんは、片手を頬にあて恍惚の表情です。

 これは暫く話しかけても駄目ですね、おそらく。


「みんな、お手てあったかいね」


 ただ手を繋いでいるだけなのに、本当に嬉しそうに微笑むアビスちゃん。

 今の彼女には、海のモンスターの頂点たる風格が微塵もありません。

 プリシラも流石におかしく思ったのか、僕の疑問を代わりに聞いてくれます。


「アビス……貴女、龍の姿の威厳と風格はどこにいってしまったのよ……」

「んっとね。よくわかんない!この姿になるとわたし、おばかになっちゃうから」


 えへへ、と笑うアビスちゃん。


「……」


 うん。古代魔法具見つけたら、一緒にアビスちゃんも持って帰ります。

 僕は謎の決意をしました。


 -----------


 完全に気が緩んでいる僕達は階段を下り切るなり、唐突にモンスターに出くわしましたが、談笑を絶やす事なく一瞬で倒して先に進みます。

 地下は僕がイメージしていた通り、迷路のように四方が壁に囲まれているタイプのダンジョンでした。


 ここからは僕の隣にレイチェルさんが付きます。

 彼女はこのダンジョンを完全に把握しているそうで、迷う事なく先導してくれました。

 道中、結構な頻度で魚人のようなモンスターに会いますが、海の王たるアビスちゃんが殺気を放つだけで逃げていきます。ほんとに拍子抜けです……。


 因みに魚人は地下に出来ている亀裂から出てきているようでした。アビスちゃん曰く、どうも地底には別の世界があるらしいです。この海底神殿は地底の世界に関係するかもしれない、とレイチェルさんは推測しています。


 暫くレイチェルさんが先導する通路を歩くと。暗くて何も見えない状態でも広大な部屋だと感覚で解るほど広い場所に出たようです。

 それと何故か、この周辺にはモンスターが近寄ってこないようです。


「ここが魔法陣区域よ。先に言っとくけど、勝手に歩き回らないでよね!」


 レイチェルさんから注意されます。理由は地面を見れば直ぐに解りました。

 ライトウィスプを地面に近づけると至る所に魔法陣があり、「乗ったら飛ぶ」と言わんばかりに魔法陣が回転しています。

 人が歩ける位には隙間があるようですが、この暗闇の中に広がっている魔方陣をイメージしただけで気が滅入ります。


「ここに来る前にレイチェルさんが訳解らない、と言ってましたけど確かに、変なトラップですね……。見えてる狂気と言いますか」

「でしょ?なんでトラップを侵入者に見せておく必要があるのよって話よね」

「暗闇の中で沢山の魔法陣がずっと回転してるのも不気味です……」


 取り合えず、この部屋っぽい場所の全体像が見えないと何もできません。

 僕は遺跡よりも一段階低いライトトゥルーオールを天井付近に展開しました。

 すると……。


 確かにここは部屋でした。石壁で囲まれている大広間といった感じです。

 広さは役200m四方といった所でしょうか、かなり広いです。

 そしてその地面では膨大な数の魔法陣が回転していました。


「……気持ち悪い、というか怖い」

「広範囲を照らした状態で見たのは初めてだけれど、本当に気持ち悪いわね……」


 プリシラもげんなり気味です。


「見た所、この部屋魔法陣以外何も無いねぇ。魔法陣に気を逸らさせて、実は奥に行く道があるのかと思ったんだけど」

「ねーねー」


 アビスちゃんが僕の短めのスカートを引っ張っています。


「アビスちゃん、どうしたんですか?」

「回ってないまほーじんが五こあるよ」

「え?」

「こっちー」


 アビスちゃんが魔法陣の隙間を縫うように走っていきます。

 僕達よりも小回りが利くようです。


 慎重に後を着いていくと、確かに停止している魔法陣がありました。

 その魔法陣の前にしゃがみつつ。


「……壊れているんでしょうか?」

「それは無いわね。もし壊れているなら、魔法陣自体が消滅しているわ」

「うーん……」


 何か意味があるのでしょうか。

 というか、膨大な数の魔法陣が回転している訳ですけど、停止している魔法陣が視界に入っても、目の錯覚で気づかないです……。


「妙ね。停止している魔法陣が外側付近に等間隔にあるわ」

「数人で……明かりを持って周囲を照らす事が、前提のような……配置ですね」

「数人……ね」


 レイチェルさんはミルリアちゃんの発言にヒントを得たのか、停止している魔方陣を見つめて何かを考えているようです。

 しばし間を置いてから、思い立ったように。


「皆、ちょっと聞いて」

「何か解ったんですか?」

「解ったと言うか、試したい事があるだけね。皆停止している魔法陣の近くに移動して」


 停止している魔法陣の数は五個。それぞれ一番近い魔方陣に移動すると、2.2.2.1.1に別れました。

 エリーナとレイシア、プリシラとミルリア、レイチェルさんとツバキさんに別れ、一人は僕とアビスちゃんです。


 皆かなり遠くに離れましたけど、声がよく響くので特に問題は無いようです。


「じゃあ皆、合図したら同時に魔方陣に乗って」

「レイチェル、気軽に言うけれど本当に大丈夫なのかしら?」

「下手したら転移して、二度と会えないかもね」

「学長殿、冗談はやめよ」


 当然ですが、皆不安そうです。回転が停止しているとは言え、転移しない保障は無いですし。

 けど少なくとも、これを踏もうとしている僕自身は危険な予感はしていません。


「けれど何れ転移を試すしかない訳ですし、やるしかないです」


 僕が後押しすると、やがて皆も乗り気になってくれます。


「そうだったわね。古代魔法具は必ず手に入れるって決めているのだもの」

「ミズファが言うのであれば、やるしかあるまい」

「私はミズファを信じておりますから」

「あたしもだよぉ。今までもこれからもねぇ」

「我が主の……仰るとおりに」


 あとはアビスちゃんですが、普通にやる気になってくれています。


「これ踏めばいーの?わたしも役に立てる?」

「うん、アビスちゃん有難うございます!」

「うん!」


 元気な声が部屋に響きます。可愛いです。


 そしてレイチェルさんの合図と共に、一斉に魔方陣を踏みます。

 すると、それぞれの魔法陣が光だし、部屋の中央に新たな魔方陣が出現しました。


「成程、これは誰にも見つからない訳ね。停止している魔方陣に気づいても、試す気にもならないだろうし。そもそも一つ二つ見つけた所で意味が無い」

「アビスのお陰かしらね。アビス感謝するわ、貴女が直ぐに魔方陣に……あら?」

「いません、ね」

「皆、ミズファもいないよぉ!!」

「ミズファ!ミズファ何処ですか!?」


 僕は皆の場所から転移したようです。

 中央に魔法陣が出た所までは確認したのですけど。

 周囲を見た所、通路が真っすぐ続く部屋に飛ばされました。


「進むしかなさそうですね」


 他の皆は大丈夫かな、いきなり死ぬような事はないみたいですけど。

 僕自身には特に危険は感じていないですけど、早めに合流しましょう。


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