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広大な遺跡

「おー、なんか生き残った遺跡って感じですねー」


 パタパタと走っていき、ぐるぐると魔法陣の周囲を回りながら感心している僕。

 王都から馬車で出発し、3日ほどで海底神殿の入り口に到着しました。

 僕は早速魔法陣に駆け寄り、興味津々状態なのです。

 後ろから「もぉ、またミズファちゃんてば。急に走ったら駄目だよぉ」とエリーナがお母さんモードですが無視です。


 プリシラの事前情報にはありませんでしたが、魔法陣の周辺には冒険者が沢山いました。臨時のギルド出張所のような建物が近くに建っていて、建物の中には冒険に必要な物が売っていたり、食べ物等もあります。海底神殿に関するクエストや、この周辺地域に関するクエストを請け負う事もできます。三国が隣接する場所なので、比較的このギルドを利用する冒険者は多いのです。


 この周辺は何か大魔法で遺跡群が破壊された様な跡があり、石ばかりの荒れた大地です。

 ミルリアちゃんが土属性の魔法で大地が揺さぶられた痕跡があると直ぐに察知していました。


 魔法陣を周回して満足した僕は皆の所へ戻りつつ。


「僕、初めは誰も近寄れない危険な場所だって思ってたんですけど、こんなに往来が激しくてギルドまであるなんて、ある意味驚きです」

「倭国ムラクモの霊峰と一部を除く、大体のダンジョンの周辺はこんな感じよ」

「ムラクモって山に入るのは禁止されてたと思うんですけど、霊峰にダンジョンがあるんですか?」

「うむ。霊峰はダンジョン扱いであり、特例として踏み入る事を許されておる。じゃが、レイスの様なけったいなモンスター共が占拠し、頂上にはかの火の鳥がおる故、クエストなぞギルドに依頼しても、それを請け負おうなどと言う命知らずはおらぬ」


 結構な期間をムラクモで過ごした僕ですが、霊峰と呼ばれる場所がダンジョンなのは初めて知りました。話を聞く限り、世界最大の危険区域はムラクモっぽいですね。

 その逆の海底神殿は余りに攻略が進んでいる為、図書館で調べる必要も無く人に聞くだけで済んでしまいました。正直、拍子抜けです。


「ここに来るのも久しぶりだわ。随分ギルドもデカくなったみたいだし」


 レイチェルさんが感慨深げに周囲を見ています。

 僕には貴族の少女が興味本位で遠出してきて、物珍しそうに周囲を見ている様にしか見えません。

 またもや僕の視線に感づいたのか、冷たい視線で返されたので反対方向を向きます。


「準備は滞りなく出来ております。特に必要な物はもう無いと思いますし、直ぐに海底神殿に向かわれますか?」


 魔法具用の宝石がギルドに売っていないかチェックしに行っていたレイシアが戻ってきました。彼女は学院を出発した後から、ずっとご機嫌です。

 ご機嫌の理由を聞くと、ようやく僕と一緒に旅が出来て嬉しいとの事でした。僕だって嬉しいです!

 レイシアの発言に、周囲の冒険者から若干冷めた視線が向けられています。僕達は丸腰で、手に何も持っていないのに何言ってるんだ、という風に見えるかもしれません。


「まぁ、戦力過多過ぎる豪華なパーティーだから、ゴテゴテした装備なんていらないでしょ。転移魔方陣区域以外なら一人で行動した方がいい位よ。出発してもいいんじゃない?」


 レイチェルさんも見た目相応の可愛いドレス姿なので、僕達はどこから見ても観光客です。周囲から「ふざけてるの?」みたいな視線を向けられても仕方無いです。


「時間合わせて出発したから、日も高くなりだした所だしねぇ。食事も取ったし、あたしはいつでもおっけーだよぉ」

「私も準備は……出来ています。主様の、ご指示の通りに」


 それぞれ用事で離れていた皆が一か所に集まると。

 今まで冷たい視線を送ってきていた冒険者達の空気が変わったように思います。

 そちらに耳を澄ますと。


「おい、あんな可愛い娘だらけのパーティーで何するつもりだ?」

「知らねぇよ。それよりも今声かけなかったら、二度とこんな上玉との出会いはねぇぞ」


 その後、俺銀髪、俺は金髪がいい、いや桃色だろ、ばっかお前茶色だろ、わかってねぇな黒髪だよ、赤色以外無いって、白色やべぇなどと騒いでいます。


「……男どもが集まり出したわね。私のミズファが穢れてしまうからさっさと行きましょう」


 プリシラの「私の」、につっこみを入れながらも皆が同意したので、魔法陣の上へと僕達は集まります。数人の冒険者が慌てて近寄ってきますが無視です。


 僕は意識を集中させて魔法陣へと魔力を送ると、瞬時に景色が変わります。

 すると視界が暗闇になり、ライトウィスプで照らし出された部分は下へと続く石の階段が映りました。


「うわ……光に照らされていない空間が完全に真っ暗です!先人はこんな暗がりで、どこに何があるのか調べ歩いたんですか?」

「そうよ。沢山の冒険者が一つ一つ遺跡を調べて、くまなく探した結果、地下にあるダンジョンを見つけたの。地下への階段を見つけた冒険者はその筋では有名な人でね、今は王都にある立派なお墓に眠っているわ」


 この何処までも続く真っ暗な空間を歩くだけで、不安で心が潰されそうになります。

 僕は冒険者では無いので今まで彼らがどんな人達なのか正確には知りませんでしたが、自分の命を懸けて歴史を作る偉大な人達だとようやく理解しました。


「でも、歩くなら明るい方がいいよねぇ?」

「出来る事をせぬのは、油断に繋がる一歩じゃとミズファは言うておったからの」

「ミズファ、頼みましたよ」

「まさかアレが直に見れるの?ちょっと早くやりなさいよ!」


 次々に期待を込めた発言が僕に集まります。ミルリアちゃんだけは無言で、キラキラした目で見つめてきています。

 はぁ、折角冒険者って凄いなぁって感動してたのに……仕方ないですね。

 海底神殿がどれ位広いかは解りませんけど、レイスの森程の大きさは必要ないでしょう、僕達の視界さえ良好であれば。


「三重見通す目+極大化二重ライトウィスプを合成!ライトトゥルーオール!」


 僕は明度をレイスの森の時より上げました。

 見通す目という魔法は、霧や魔法で生み出した闇など、視界が悪くなる状況下で見えるようになる独自魔法です。これを合成すると、ライトウィスプの明度が上がり、広範囲を昼間に近しい明るさへと引き上げているのです。


 遠くの天井へと大きな玉を展開させると、眼下に広大な遺跡が広がりました。

 現在いる場所は石の階段によって高台になっていて、丘から見下ろす程の高い位置にあります。


「へぇ、これは凄いわ。僅かな光を頼りに断片的になっていた遺跡が、かなりの範囲でその姿を現してる……」


 そう呟くと、レイチェルさんは昔を思い出すように遺跡を見つめています。


「天井……奇麗です」


 ミルリアちゃんは大きな玉で映し出された深海を見つめてうっとりしています。

 海って光を当てるだけで神秘的に映るんですよね、不思議です。

 レイシアもすごく気に入ったようで、暫く天井にくぎ付けになっていました。


 暫く皆で天井や遺跡を眺めていると、下の方が騒がしいです。

 どうやら冒険者が数パーティーいたようで、急に明るくなった遺跡と天井の大きな玉を見て驚いているようでした。


「ま、本来であれば、あやつらのような反応が普通じゃの」

「あたしもミズファちゃんと出会ってなかったら、驚く側だったんだろうねぇ」

「こんな魔法使えると知れたら、アンタは冒険者の中じゃダントツに組みたい相手のご指名ランキング一位で間違いないわ。しかもすっごい可愛いし」

「なんですかそれ……」


 レイチェルさんの謎ランキングにつっこみを入れつつ。


「そろそろ下りましょう。出来るならダンジョンに連日泊まり込みは嫌なので!」

「そうね。早いところ古代魔法具を見つけて帰りましょう。魔法で生み出すお湯のシャワーは加減が自分で出来ないから好きじゃないのよ」


 僕とツバキさん以外は水属性がうまく扱えません。その為、僕やツバキさんが熱を生み出す魔法具を介してシャワーを作るのですが、当然お湯加減も僕かツバキさんじゃないと出来ない訳です。なので浴びる側が自分で加減ができない、と言うのは誰でも嫌だと思います。


「でも、何処でもシャワーが浴びられるのは大変嬉しい事です。ミズファの作って下さるシャワーでしたらどんなに熱くても、私我慢してしまいそうです」


 頬に両手を当てもじもじしながら喋るレイシア。


「ふん、悪かったの。妾の作るお湯は温くて」

「僕、ツバキさんくらいが丁度いいです!」

「そ、そうかの……。お主が喜んでおるなら、其れでよいのじゃが」


 すかさずフォローを入れる僕。怒ってるツバキさんも可愛いですけどね!


 シャワー談義に会話が弾んでいると。

 唐突にプリシラ、ツバキさん、レイチェルさんが立ち止まり無言になりました。

 三人の顔を伺うと全員天井を見上げています。


「……? プリシラにツバキさん、レイチェルさんどうしたんですか?」

「……来るわ。あいつ、何しにこんな所へ」


 あいつ? いつも強気のプリシラが何処となく弱々しいです。


「魔王……なんじゃこの魔力は。何が近づいておる? いや、海の中でこのような魔力を放てる物など、奴しかおらぬか……」

「皆、警戒して。絶対に油断しない事。いつでも魔法陣から逃げ出せる準備だけはして置きなさい!」


 やがて。

 天井に映る海の向こうから、巨大な何かが近づいてくるのが解りました。

 冒険者達は近づく何かに危険を感じたのか、僕達には目もくれず凄い速さで階段を上って行きます。


「まさか……。プリシラ様、あれは」

「ええ。三大国家指定級の一つ、海龍アビスよ……」


 一体どれほどの長さなのか計り知れない胴。鱗の一枚一枚が確認出来る程の大きさ。

 そんな巨大なドラゴンの顔が、天井から僕達を見下ろしていました。


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