表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/107

パーティーと僕

 困りました。


 今、沢山の貴族のイケメンさん達に僕は囲まれています。

 手の甲にキスをされるという経験までしてしまいました……。


 現在、僕達は王都主催の学院内パーティーに参加しています。

 沢山テーブルが屋外に置かれ、かなりの広範囲が会場になっています。因みに立食形式です。


 僕達レイス討伐組の為に催された学院内パーティーには沢山の貴族、王族が参加しています。

 国が主催しているのですから、それは当然とも言えます。

 貴族同士男女仲良くしているのを見るのは微笑ましい事なんですけど、僕自身に言い寄ってこられるなんて考えもしませんでした。

 五姫もそれぞれ対応に追われていて僕に構う暇もありません。


 ミルリアちゃんはすっごく可愛い赤のドレスに身を包んでいる為、周囲のご令嬢に劣らぬ美貌を溢れさせています。そのせいかひっきりなしに男女問わず話しかけられています。

 エリーナとレイシアは手慣れたように周囲の貴族さん方とお話ししています。それこそ、「はい、次の方どうぞ」的な流れ作業です。


 五姫の中では一番人気はツバキさんのようです。無下に出来ないので、げんなりしながらイケメン達の相手をしています。

 で、プリシラはと言うと。

 レイチェルさんと二人で高台から僕達を見下ろしてるんですよ、裏切者ー!!


 ……とは言え、プリシラはこのパーティーの席で一番偉い人なので、彼女と会話ができるのは王族のみです。

 誰にでも会話の許可を出していたら、プリシラに気に入られようと長蛇の列をなし、大変な事になるからです。


 で、僕なんですが。

 目の前に美味しそうなご飯があるのに、食べに行けない。イケメンガードの層が厚過ぎて突破できません。周囲との会話の内容はさっぱり理解してない上に聞き流していました。ただし、笑顔だけは振りまく方向で。なんかご令嬢方も沢山周囲に寄って来てますし……。

 皆、何が目的なんですかぁ!

 対応に困っていた上、お腹をすかせていた僕はもうどうしていいやら。


「ミズファ嬢、宜しければ此方の料理は如何ですかな」


 てんぱっていた僕の前に、トレイに乗せられた美味しそうなお肉料理が差し出されました。

 差し出した人を見ると見覚えがあります、たしか騎士団の団長さんです。

 今は礼服に身を包んでいる渋い中年男性に見えます。


 周囲のイケメンさん方も相手が悪いと思ったのか、一旦下がったようです。

 代わりにご令嬢方にキラキラした目で見られていますけど。


「あの、有難うございます!」


 僕は遠慮無くトレイからお皿を手に取ると、フォークでお肉の一切れを味わいます。

 ~~っ。美味しいー!

 このまま何も食べられないままパーティーが終わるかと不安になってました。

 まさに騎士様様です!


「本来貴女方をこのような貴族ごっこに突き合わせるつもりはなかったのですが、やはり見目麗しき姫君方を前にしては、見ているだけという訳にも行きますまい」

「五姫は兎も角、何故僕まで……。皆さん何が目的なんでしょうか」

「は……。いえ、貴女程の見目麗しき方でしたら引く手数多、それこそ高嶺の花でありましょう」

「……え? またまた御冗談を」

「……成程。貴女に目を付けた方々は大変ですな。中々に難攻不落のようだ」


 もしかして周囲の皆さん僕の事を可愛いと思ってくれているんですか、全然実感無いんですけど。

 普通は自分可愛い最高、だなんて思わないでしょうから正常の筈です。

 あ、そんな事より向こうにあるパスタ料理も美味しそう。


「どうやら、ミズファ嬢を射止めたのは料理のようですな。私が周囲を引き付けて置きますので、存分にご堪能下さい」


 そう言うと、団長さんは貴族の皆さんの方へと歩いて行きます。すると、直ぐに団長さんの周りに人だかりができていました。男女問わず人気あるんですねぇ。

 一先ず、貴方の犠牲は無駄にしません、必ずこの先にいるボス(パスタ料理)を倒して勝利してきます!


 パスタ以外にも目に映った料理を少しずつ取り分ける僕。はい、とってもはしたないです。

 別にいいんです、育ち盛りなんですから。


「……主様」

「むぐ?」


 良い子は食べたまま喋ってはいけません。

 目の前に疲れた様子のミルリアちゃんが立っていました。どうやら解放されたようです。

 僕は近くにあったグラスを手に取り、一気に飲んでから話しかけます。

 ……なんか妙な味ですけどまぁいいです。


「ミルリアちゃんもお話から解放されたんですね。一緒にご飯にしましょう、僕が取り分けてあげますよ」

「い、いえ!それは……私の役目です!いつもいつも、主様は……立場が逆です!」


 怒られました。


「ぼくの性分なんれす……あるぇ?」


 僕の喋り方がおかしくなってます。というか、きゅうに頭がグルングンルしてきました。

 なにこれぇ……。


「主様?……そのグラス、お酒……ですね」

「おさけぇ……?」


 なるほどーそっかー。

 段々身体がぽかぽかしてきました。


「なんか、熱くなってきましたぁ」


 僕は胸元をはだけさせて、手であおぎ出します。

 周囲から見られている気がしますが無視です。


「ちょ、ちょっとミズファ!?ミズファ、聞こえてる?」


 頭の中に声が聞こえます。プリシラが話しかけてきました。

 高台から僕を見ていたようです。


「ぷりしらちゃんこんぱんわぁー」


 フラフラするのでその場に座り、彼女に向けて手を振りつつ声に出して喋りました。

 ミルリアちゃんが凄く慌てながら僕を周囲から隠すようにしてます。

 角度が合えば下着が見えるからです。


「……駄目ねこれは。こんなにお酒に弱いなんて……。ちょっとそこで待ってなさい」

「んぅー……わかったぁ」


 緊急事態と取ったのか、団長さんを含めた騎士団数人と一緒に、プリシラが近づいてきました。そして僕を見ると「だめだこいつ」的な目で見ています。僕は完全に出来上がっているようでした。


「プリシラ様……」

「解ってるわミルリア……。直ぐに寮へ連れて帰って頂戴。主役であるミズファが居なくなる以上、私や他の姫達までパーティーの席を外す訳にはいかないわ。他の姫達には私から言っておくから」

「畏まり、ました。私に……お任せ下さい」


 僕はハイな気分になっている中、ミルリアちゃんに肩を担がれパーティーの席から退場していきました。


「んぅ~……」


 まだ食べ足りないという意味を込めた、謎の奇声をあげる僕。

 でも僕の体は退場を拒否できるような状態ではありませんでした。


 -------------


 翌朝。

 学院寮にある自室のベッドで目が覚めた僕は、何故か昨日のパーティーの記憶が途中からありませんでした。

 ミルリアちゃんとお話しした辺りからカスミがかかったように思い出せません。

 あと、なんか頭痛いです。


「……というか、僕いつ自室に帰って来てたんでしょうか」


 頭の中がクエスチョンマークで一杯になっている所でノックが響きます。

 気だるい感じがする中、移動して扉を開けるとミルリアちゃんが立っていました。彼女はプリシラと僕とレイシアの同意を以って寮母さんの許可のもと、貴族階級の寮へと出入りしています。

 手にはトレイを持っていて、その上にはコップとお水が入った水差しが乗っています。


「お早う、ございます主様。ご気分は……如何ですか」

「頭痛いです。僕に何があったのかミルリアちゃんは知ってます?」

「……ええと」


 答えていいものか決めあぐねているようです。


「ミズファ!」


 続けてレイシアが部屋を訪ねてきました。


「あ、レイシアお早うございます」

「レイシア、様。お早うございます」

「お早うございますミズファ、ミルリアさん。ミズファは昨晩パーティーの席でお酒に酔って退場されたとお聞きしました。あの、大丈夫でしょうか?」

「……え?」

「主様は……手にお取りになった、グラスの中身を一気に……飲んでしまわれて。それは……お酒だったのです」

「……まじですか」


 お酒に酔うなんて経験、初めてです。というか、お酒を飲んだという意識が無いのでなんとも言えない気持ちですけど。だって記憶に無いんですもん。


「皆、おはよう」


 プリシラも挨拶をしながら近づいてきます。


 各々挨拶を返すと、プリシラはご機嫌がななめです。


「ミズファ。貴女、自分が何をしたのか解ってるのかしら?」


 昨日のパーティーの件でしょう。酔ったという事は、僕は倒れたりとかしたのかもしれません。パーティー会場を騒がせたり、プリシラに要らぬ面倒事ができたのでしょう。


「あの、御免なさい。僕……初めてだったので。もっと皆さんを楽しませるつもりではいたんです」

「な……!?」


 食事が終われば聞き流していた会話もしっかり聞いて、僕達の為に集まってくれた方々に楽しんでもらうつもりでいたのは本当です。初めて酔ったせいで断念する事になったようですけど。


「こんな事なら、初めからもっと大胆にしておけば良かったですね」

「ちょ、ちょっと!!」


 ミルリアちゃんとプリシラは何故か赤面していますが、レイシアは不思議そうな顔をしています。


「あ、貴女ねぇ……!! 胸元をはだけさせて、ふとももまで露出して下着まで見えそうだったのに、それ以上って……一体何するつもりだったのよ!」

「……は?」

「主様、あれだけ……ふしだらな行為を、なさっていたのに……あれ以上、だなんて」

「ちょっ、ちょっとまって下さい、なんですかそれ知りませんよ僕!?」

「貴女、今自分でもっと大胆にするべきとか言ったじゃない! あんなに純粋無垢だったミズファが穢れてしまったわ……」

「絶対何か勘違いしてますそれ!」


 レイシアも段々顔が赤くなっています。

 というか僕はもっと赤いです!


「あの、つかぬ事をお聞きしますが」

「何よ!」

「胸元をはだけさせてとか下着が見えそうだとか。それってもしかしなくても……公衆の面前、ですよね?」

「そうよ。貴族の男共が鼻を伸ばしていやらしい目で貴女を見ていたわ!私のミズファをいやらしい目で!」

「……んぅ」


 恥ずかしさが限界に達して僕はその場に倒れました。

 慌ててミルリアちゃんとレイシアに抱き起されますが、今の僕は重症です。

 はぁ、海底神殿に挑戦しようっていう時に、何をしてるんでしょうか僕……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ