ベルドア王と少女達
学院の前から馬車に乗り、僕達はお城へと向かっています。
本来であれば此方から謁見の許可を取り、城から招かれるまで待つのが常識ですけど。
前代未聞のレイス討伐を成し遂げた功績と、プリシラの働きかけもあり、今回ばかりは王様も僕達の都合に合わせてくれました。そして前もって、今日会いに向かう旨をお城には知らせてあります。
因みに時計を公表するのは王様への謁見が済んだ後にしてあります。レイチェルさんは何の説明もしていない僕の魔法具提出の明言に対して、大きな発表の席を用意すると言っていました。レイシアもウィスプの街灯をその発表の席で公表したそうです。
馬車が第三層に入ると景色は貴族街区に変わり、お城の外郭が近づいてきます。
そしてお城が段々と迫るにつれ、今まで見た事の無い広大な面積に威圧されているような錯覚を受けます……。いえ、実際に威圧されています。
なんて言いますか、お城を見上げているだけで震えというか、緊張してきます。
因みにさっきのレイチェルさんの時は、緊張するだけ無駄と言うのは概ねツバキさんの言う通りでした。
騙されたような気持ちで、緊張がどうとか以前の問題でしたし……。
小心者の僕には、この世界は色んな意味で心臓に悪い気がします。
見上げてばかりいると気が滅入るので、遠くに目線を落とすと広大な城下街が見えました。
第四層に入ったせいか、丘から見下ろす街並みのような素晴らしい景色です。
ウィスプの街灯が普及したら、きっと素敵な夜景が見れるに違いありません。
景色に魅了されつつ、やがて城の門まで来ると衛兵二人に馬車を一旦止められましたが、僕達の素性を確認すると直ぐに通してくれました。プリシラが既にパス代わりの王都からの書状を持ってますからね。
城の敷地内に入り馬車がお城の入り口で止まります。降りて辺りを見回すと、石畳の道が何処にどう繋がっているのかさっぱり解りません。
もし、入口から入らず裏手から来てって言われたら速攻で迷子になれる自信があります。
「皆、僕を置いていかないでくださいね……」
「今回のレイス討伐における代表者を置いていってどうするっていうのよ……」
唐突な僕の謎発言に、プリシラからつっこみが入りました。だって迷子になったら嫌だもん!
そんな僕の手が誰かに握られたので視線を送ると。
「不安なのでしたらこうして手を繋いでおけば、はぐれたりしませんよ」
レイシアです。この暖かな手はいつでも僕を安心させてくれます。僕の手を取って前を歩くレイシアには以前からどれだけ救われたでしょうか。
そんな事を思いながら歩いていると、何か冷たい空気を感じるんですけど、気のせいですかね。
そんな空気はお構いなしに手を引いて歩くレイシアの横顔は何処か、勝ち誇ったような表情をしていました。
城内に入ると、僕達を待っていたように白い鎧を着た男の人が立っていました。
「ようこそ、プリシラ公。遥々公国からご足労頂いたばかりか、レイス討伐を支援下さり誠に感謝致します」
男の人は右手を胸に当て一礼します。
「いいのよ聖白騎士団団長【クリオスト】殿。唐突に出向いている事をベルドア王に伝える無礼を働いているのは私の方なのだから」
「感謝の気持ちこそあれ、その様な事は御座いませぬ。本来であれば、国内に巣くうモンスター討伐は我が騎士団が成すべき事。それを若い少女達に全て任せるしかなかった事、大変不甲斐無く思っております」
「仕方ないわ。けれど、少なくとも貴方ならば眷属なんて相手にならないでしょう?」
「持ち場を離れる訳には行きませぬ故。許されるならば、私も名だたる姫の盾となる為、駆けつけたい所存で御座いました。騎士団の代わりという訳でもありませぬが、ウェイルが大変な武勲を立てたと聞き及んでおります」
「ええ、あの子は存分に働いていたわ。そして我が公国の至宝よ。どうか、今後も彼を導いてあげて頂戴」
「あれだけの逸材、数百クオルダ遡っても存在しておりますまい。可能であれば我が騎士団に是非欲しい所です」
「それは彼次第ね」
流れるようにプリシラが男の人と会話をしています。
今の話を聞く限り、この人がウェイル君の言っていた騎士団の団長さんなのでしょう。
「この様な所でいつまでも引き留めて置いては、我が王とプリシラ公に大変失礼ですな。王の間まで先導致しましょう」
「ええ、宜しく頼むわね」
ふと、団長さんは僕を見るなり深々と一礼してきました。
唐突だったので慌ててお辞儀で返します。
その後直ぐに先導するように歩き出したので、僕達はその後ろへと着いていきます。
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王の間は二回程階段を上がり、赤い絨毯の上をずっと歩いた先にありました。真っすぐなので迷う事はなかったようです。
衛兵が団長さんを見ると、それだけで扉を開けてくれます。
王の間に入ると、公国とは更に趣の違う内装をしています。
柱が等間隔で6本程部屋の中に立っており、その柱に国旗が飾られています。
赤い絨毯が部屋の中心に敷かれ、玉座まで繋がっているのは公国と同じですが、その絨毯の脇に沢山の兵が立っていました。王に近づくにつれ、位の高そうな人たちが並んでいます。そして団長さんもその列に加わりました。
周囲を伺いながら王様の前まで来ると、プリシラを除く僕達は深々とお辞儀します。
王様は30歳もいかない位の、まだまだ若い方でした。白のマントを羽織り、礼服を異世界風にしたような衣装で身を包みんでいます。
王様は玉座を立つとプリシラの前まで歩み寄り、握手を交わします。
「王都まで足労頂いてすまなぬなプリシラ公。そして、我が国への支援まことに感謝する。何れこの借りは必ず返すと約束しよう」
「ベルドア王、支援するに至った理由はここにいる我が国の貴族の娘、銀色の魔術師ミズファの力を確信しての事。何より、国家指定級にすら届きかねぬモンスターの討伐は、世界を通して共通の認識。今回のレイス討伐は、成すべくした成った成果よ」
「初めは半疑であった。中には懐疑的な意見を持つ者も居たのだ。本当にあのレイスを倒せるものかと。まかり間違っても、眷属を世に解き放ってはならんからな。だが、世界各所の姫を集め、プリシラ公まで支援をしていると言うではないか。ここで我が国が率先せずしていつ動くというのだ。結果、我々は勝った。本当に素晴らしい魔術師達だよ」
「ええ。その素晴らしい魔術師達を束ねレイス討伐を果たした英雄であり、我が国の至宝の一人、ミズファを紹介させて頂くわ。ミズファ、いらっしゃい」
僕はプリシラの言葉と共に王へ近づくと再度お辞儀します。
「お初にお目にかかりますベルドア王。私はミズファと申します。この度のレイス討伐を許可下さり有難うございました。無事討伐が成功しましたのも、此方に控える五姫の力があった故の事です」
「其方が噂の銀色の魔術師殿か。これは……先が楽しみな麗しい姿をしているな。何、謙遜する必要は無い。あの巨大な光の玉は其方が作り出したのだろう?流石の姫達にでもあのような物は作り出せない事は私にでも解る。誇ってくれて良い」
「もったいないお言葉です」
「銀色の魔術師ミズファ並びに名だたる姫達、そして長きに渡り空席だった土姫の後継よ、其方らに褒賞を与える。そして盛大なパーティーを催すつもりだ。確か、プリシラ公は学院の寮を使用しているのだったな。直ぐに学長に話を通し、広大な学院の敷地をパーティーの会場としよう!」
本来ならば王の申し出は断りたい所なのですが、褒章は貰います。ここで僕が断るような真似をすれば、当然ミルリアちゃん達も貰えません。貰えたとしてもきっとミルリアちゃんは断るでしょう。そんなのは駄目です。
「ベルドア王、全員を代表してご厚意有難く頂戴するわ。暫く学院を拠点として私用を片づけるつもりだから、もう少し王国に滞在させて頂くわね」
「勿論構わんよ。だが私としてはプリシラ公には我が城の貴賓室を使用して貰いたいのが」
「気持ちだけ頂くわ。学院の方が何かと都合がいいのよ」
「ううむ……致し方ない。せめて王国に滞在中、騎士団を護衛につけようと思うが、他に希望があれば言って欲しい」
「護衛も要らないわ。私の傍には常に姫達とミズファがいるのだもの」
「あぁそうだった。その者達相手に不逞を働く不届き者などおらんな。ではパーティーは数メル中に開始できるよう準備させよう」
その後王様は五姫にも話しかけ、プリシラと数度会話を交えると謁見はつつがなく終了しました。
王様が良い人でよかったです!
これでいつでも海底神殿に挑む事ができますね。まぁ時計の公表とかありますけど。
時計発表の席でどのような判断を下されるのか……少々不安です。プリシラには大丈夫だと言って貰えてますけどね。




