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レイシアと僕

 門番の兵士と別れてから二、三度ほど通りを曲がり。

 その間、僕の手を引いて歩く女の子は時折、此方をチラチラと振り返っています。

 僕が逃げ出さないか気にしているのかな?

 少し急いでいるようだけど、危険性は今の所感じません。

 因みに兵士に捕まっている間は警笛のように身の危険を感じてました。

 そういう意味では、この女の子が僕を助けてくれたと考えてもいいと思います。


 程なく裏通りへと移動するとキョロキョロと女の子が辺りを見回し。


「ここなら大丈夫そうですね」


 そう呟くと、僕へと振り返り優雅に一礼します。


「先程は大変失礼致しました。非常に困惑されている事と存じます。本当に申し訳御座いません」

「あ、いえ。僕なら大丈夫です。むしろ助けて貰えたと言いますか……」

「そういえば空き巣さんでしたか?」

「ご、誤解です! 僕は街……」


 そこで僕は口ごもる。

 街の外から来た事を言ってしまうと、何かと問題があるような気がしたからです。

 夜に街の外にいただけで捕まってしまった。今後も何が問題になるか解らないし、当たり障りなく答えた方がいいかもしれない。


「僕は街をただ歩いていただけです。こんな服を着ていますし、不審者に思われたのかも」

「そうでしたか……」

「はい、ですから助けてくれて有難うございます。」

「私は貴女の事を奴隷扱いしてしまいました……」


 女の子は申し訳なさそうな表情で僕を見つめます。


「あ、あの。全然気にしていませんから!」

「ですが……」

「本当に気にしていませんから」


 そう言いながら僕は微笑んで見せます。


「……あ、ええと。お許し下さって有難う御座います。それでしたらお互い助け合った仲、という事に致しましょう」


 そう言うと、女の子は僕の手をぎゅっと握り微笑みました。

 可愛い。


「そういえばまだ名前を名乗っておりませんでしたね」


 そういうと、二歩ほど下がりローブの裾を広げながら会釈する。


「私はレイシアと申します。貴女のお名前をお聞かせ願えますか?」

「僕は水間佑都です」


 ぺこり、と僕も会釈。


「ミズマユートさん、ですか?とても珍しいお名前なのですね」

「え、ええと、そうですね」


 この反応から見ると変な名前なのかな僕。


「ミズマユートさん、私も貴女のお陰でとても助かりました。改めて感謝致します」

「レイシアさんも助かったんですか?」


 さっきの兵士の時かな?話を聞いていた限りではお嬢様っぽい感じだったけれど。


「ええ。申し訳御座いませんが、詳しくは伏せさせて頂きますけれど……」

「あ、いえ僕も言えない事とかありますし。」

「言えない事、ですか?」

「あ、いいえ何でもないです!」

「ふふ」

「あはは……」


 自然にお互いに笑みがこぼれました。

 僕の笑みはちょっと意味合いが違うけど……。


「似た者同士ですね」

「そ、そうかもですね」

「私達、良いお友達になれそうな気がします」

「お友達?」

「ええ、ミズマユートさんが嫌でなければですけれど」

「全然嫌じゃないです!」

「ふふ、良かった」


 レイシアは嬉しそうに微笑み。


「差支えないようでしたらミズファ、とお呼びしても宜しいですか?」

「ミズファ?」

「いけませんか?」

「あ、全然いいです。むしろそっちの方がいいかもです」


 一瞬誰の事か解らなかった。水間=ミズファ、かな。


「有難う御座います、ミズファ。私の事もレイシアと気軽に呼び捨てて下さいね」


 こうしてレイシアと僕は友達になった。

 気軽にお話ができる人が出来ただけで本当に嬉しい。

 追々、レイシアにはこの街の事とかレイスの森の事とか聞いてみよう。



 ----------------------


「そういえば、ミズファはどうしてそのような服で歩いていたのですか?」


 その後、ちょっとしたガールズトークに華を咲かせていた時にレイシアがそう聞いてきた。

 どう見ても奴隷かなにかだもんね僕。

 よくこんな子と友達になろうなんて思えるくらい酷い恰好だし。


「えっと…。御免ね。まだ僕もなんて言えばいいのか解らなくて、答えられません」


 素直にそう返答します。隠し事はこれ以上したくは無いけれど、この街の事もよく解らない以上、下手な事は言えないし。


「……っ! そうですか……。言葉にできないほどの境遇に……」


 ん?若干勘違いされているような気がする。


「……。ミズファ」

「はい?」

「私、決めました」

「え?」

「私お父様にかけあってみます。しばしの間待っていて下さいね!」


 僕の両手を取り、何かを決意したレイシア。

 待つって何を?


「積もるお話も御座いますが、そろそろ私は行かねばなりません……」


 さっきまで元気だったレイシアが声のトーンを落としてそう呟き。


「そういえばなんとなく急いでいましたね」

「ええ。とても大事な用がありますので」

「残念です」

「本当に本当の本当に残念でなりません……」


 凄く残念そうでした。


「あれが壊れたりしなければもっとお話しできましたのに……」


 と、何やらぶつぶつ呟いて。


「何か壊れたのですか?」

「ふぇ!? い、いいえ。私事です!なんでも御座いません」


 そう言うとレイシアはフードを深くかぶり直します。


「ミズファ。明日、日が昇りましたらまたお会いできますか?」

「はい、僕は大丈夫です。むしろレイシアとお話ししたい事とかもありますし」

「良かった。私も沢山ミズファとお話ししたいですから」


 何故か頬を染めるレイシア。


「それでは、ミズファ。また明日お会い致しましょうね」

「はい、また」


 レイシアは小走りに去っていくと、二度程振り返り手を振っています。

 可愛い。


 レイシアと別れた僕は一人になりました。

 そういえば時間の指定がなかったけれど、日が昇ったらって何時ごろだろう?お昼頃かな。


「それにしても……」


 眠い。

 一先ず何処かで休みたい。

 色々な事がありすぎて、もうとにかく休みたい。

 お腹もすいてはいたけれど通り越してしまったのか、今はそれほどすいてはいませんでした。


「何処か休める場所あるかな……」


 僕はお金を持っていないから泊まる事もできないし、帰る場所なんて無い。


「仕方ない……路地裏で寝よう」


 この服装なら路地裏で寝ていても浮浪者か何かだと思ってくれるだろうから、違和感もないだろうし。

 なんか、この服にずっと振り回されてない?


 路地裏に誰もいない事を確認すると壁に寄りかかりパタリと倒れ。

 直ぐに夢の中へと落ちていきました。




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